表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/326

第88話 ーー優しい嘘 前編ーー

 たくさん遊んだ僕は気がつくと寝てしまっていた。外を見ると夕陽が沈んでいくのが見える。


「僕はあの後…待ってる間に寝ちゃってたのか」


 体の砂も拭いて服も着た状態でホテルの部屋に戻されていた。まだ疲れも溜まってるみたいだ。


「あ、イリウス。起きたのか」


 様子を見に来たのかバクがふすまを開ける。


「うん。僕どのくらい寝てた?」


「そうよの〜。ざっと2時間と言ったところか」


「ケルトさんとトラさんは?」


「先に風呂へ行ってる。毛の中に砂が入ると面倒みたいでな。我々も行こうぞ。露天風呂だと夕日が綺麗に見えるらしい」


「うん」


 少し寂しいけど安心する会話。いつもはケルトさん達で騒がしくなる所もバクと一緒だと落ち着けて良い。そういうことで僕は浴衣に着替えてお風呂へ向かう。




「……イリウスと何かあったのか?」


「急になんだよ」


 俺らは毛の隅々まで洗う。海は好きだがこれに時間がかかるのは嫌いだ。


「様子が変だからな。ずっと考えている顔だ。お前にしては珍しい」


「まるで普段から何も考えてねーみたいな言い方だな。まぁそうだが」


 思えばこうやってトラと2人きりで話すのは久しぶりかもしれない。いつもは仕事みたいな話しかしないし。


「俺の組、煌牙組(こうがぐみ)にイリウスが入った事は知ってんだろ。俺はあいつが入る強さがあるかどうか入団試験をしたんだ」


「なるほど。手加減か」


「よく分かったな。イリウスが戦ったのは1番弱いピルスと、2番手のシャーガだ。そしてあいつはどっちにも勝った」


「それで今回シャーガの強さを知って手加減を悟ったと。何でバレやすい嘘をつくんだ」


「いつかはバレるなんてこと分かってた。だが、そん時にはもう、誰にも負けねーぐらい、そんなことどうでも良くなるぐらい強くなってると思ってた」


「お前の考えの浅さには大層驚かされるよ」


 俺はムカつきながらも自分の愚かさに反省する。そろそろ身体も洗い終わる。


「ケルト、トラ。遅くなったな」


「主!イリウスも起きたみたいだな。丁度浸かろうかと思っていた所です」


「お、タイミングもバッチリよの。トラ、背中を流してくれぬか?どうせ我々を置いて先には行かんだろう?」


「勿論です!」


 僕はその場に立ち尽くす。何と話せば良いか分からない。この感情は…怒り?悲しみ?それも分からない。そんな僕の口からは何も出なかった。


「来いよ。背中洗ってやる」


「はい…」


  僕はケルトさんの前で座り込んだ。背中からでも伝わる。ケルトさんも気まずいんだと。特に何もなく、僕らは露天風呂へと向かった。バクの言った通り夕日が綺麗だ。僕とケルトさんは横並びで夕日を眺める。


「…イリウス」


「…何ですか?」


 先に口を開いたのはケルトさんだった。誤解を解きたいのか、謝りたいのか。なんなんだろう。


「嘘、ついてたぞ。ピルスもあんな弱くねーし、シャーガなんてもってのほかだ。全部お前を煌牙組に入れるためのお芝居だったんだ」


 分かってる。


「でも仕方ねーだろ?本気で戦ってたらお前も怪我しちまうし」


 分かってる。


「かと言って、ある程度実力は見せておかないとあいつらの納得も得られない」


 分かってる。そんなこと、ずっと分かってた。ケルトさんも僕のことを考えてこうしたってことも。


「すまなかった。嘘ついてたのは謝る」


「…はい…」


 何でだろう。納得出来るはずなのに、言葉に出来ない気持ちがある。

 お風呂から出て夕飯だ。料理が部屋まで運ばれてくる。豪華に並べられた料理を完食して、一休みする。


(…どうすれば良いんだろう。結局ケルトさんとろくに目を合わせられない。心のモヤモヤが消えない)


 僕が窓から月を眺めていると、ケルトさんが入ってくる。


「なぁ、イリウス…悪かったって。許してくれよ…もしあれならピルス達とももっかい戦えば良いだろ?今のお前なら勝てるって!」


「今の……あ、そうか」


 僕は、信じて欲しかったんだ。僕は、今までケルトさんの期待に応えようと頑張ってきた。きつい修行も耐えて、考えて、練習して、思いついて。それなのに、それなのに。僕は…


「僕は…信じて欲しかった…」


「…え?」


「ただ…お前なら出来るって…信じて欲しかった…努力を…頑張りを…少しでも…信じて欲しかったんだ…」


「お、おい…俺疑ってなんかねーって…」


「違う…最初から手加減させたのだって、僕が勝てないって分かってたから!僕は強くないって知ってたから!認められたくて、褒められたくて、信じて…欲しくて!頑張ってきたんです…僕に1人で行動させないのも、いつも心配してるのも、僕の事信じてないからなんです!」


「んなこと言ってねーだろ!心配なのは当たり前だ!お前が死ぬような事があれば…」


「それを信じてないって言うんです!僕は他の能力者に殺されちゃうくらい弱いって…僕の今までの頑張りを、信じてない証です!」


 僕は窓から飛び出してしまった。涙を溢しながら、怒りに震えながら、怒られないかと怯えながら。ケルトさんに呼ばれる声が聞こえたが、僕はそれを無視する。窓の外に出ればすぐ湿った海風に当たる。僕はどこまで飛んで行くんだろう。

ちょっとでも、先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ