第72話 ーー近況報告ーー
「おし、全員揃ったな。じゃあ煌牙組の集会、始めんぞ」
「「「「「うす!」」」」」
前回、空気を操る能力者と対峙した僕は、とても疲れている。神力の消費も激しかったため眠くて仕方がない。
「イリウス君、大丈夫?」
「ほくはまはまはへひきでふ〜」
「ダメそうだね…」
「お前ら2人、今日はまぁ良くやった。とりま汚れすげーしシャワー浴びてこい」
「分かったっす〜。イリウス君行くよ〜」
「ひゃひ〜」
僕のことを見て心配そうにしていたが、みんなの手前甘くは出来ないんだろう。
「んじゃあ近況報告から始めんぞ。南のエリアなんだが・・・」
ケルトさん達が色々話し合ってる中、僕らは一緒にシャワーを浴びることとなった。
「むにゅ〜」
僕は眠い目を擦りながら体を洗う。電車の上にへばりついてたから色々付いてて汚い。ピルス君においては正面だったし地面も削れてたから泥の汚れがすごかった。
「ほーら、背中洗ってあげるから。ほんと大変だったね。まさか電車を止める事になるなんてね。ははは」
「笑い事じゃないよ…下手したら中にいた人みんな死んじゃってたかもしれないんだよ?」
「それもそうだね。でも助かったから良かったじゃん!」
「それもそうだけど…」
ピルス君の呑気さには何かを感じる。僕に足りないような何かだ。あんな事があって疲れてるのは同じはずなのに、元気そうに振る舞って…
「ピルス君はさ、もし、僕の立場だったらどうしてた?」
「ん?つまり?」
「見捨てたのかなって。乗客みんなを…ケルトさんはね、いつも正しい事を言うんだ。常識と外れてても、正義も何も無くても、この世界で1番上手く生きてるのはケルトさんだと思うから…きっとケルトさんが言う事が正しいんだよ」
ピルス君は納得した様子でうんうんと首を振る。
「でもね、みんなの事を見捨てるのは、正しいとは思えないんだ…確かにあの場であの能力者は僕の事を狙ってた訳じゃない。僕が逃げれば追ってすら来てなかったと思う。でも、もし逃げてたら…一生後悔する…ケルトさんも同じじゃないのかな。何が正しいのか…分かんないよ…」
僕は辛かった。自分のせいじゃなくても、自分に関係なくても、他人が死んでしまうことに当たり前を宿す事が出来なくて。能力者同士の殺し合いは、神が認めるほどの当たり前なことなのに、それを認められなくて。
「…俺は…イリウス君の言ってる事も、ケルトさんの言ってる事も正しいと思うな」
「え?」
「だってさ、イリウス君にとっては、人が助かる事が正義なんでしょ?でもケルトさんにとっては、イリウス君が助かる事が正義なんだよ。良いんだよそれで。イリウス君がケルトさんの正義を真似する必要無いし、イリウス君にはイリウス君なりの気持ちの良い正解を見つければ良いんだよ」
「……キャラに合わないね…」
「それどういう意味!?!?」
また1つ気付かされた。僕は僕の正義で良い…か。ありがとう。
「お、2人とも来たか。んじゃ、目標を決めるぞ」
「目標?」
「煌牙組全員でやる事、ノルマみたいな物だよ」
「なるほど!流石シャーガさん!」
「そんじゃあ今回は…情報屋の整理をするか」
「最近また増えましたからね」
「カゲさんカゲさん」
僕はこっそりと耳打ちする。
「どうしたんだい?」
「整理って何するんですか?情報のじゃなくて情報屋のって?」
「あー簡単に言うと…辞めてもらうって感じかな?」
「どうしてですか?」
「聞いてれば分かるよ」
「おいそこ!聞こえてんぞ。俺に質問してこい。ったく。まぁ簡単に言うと、めんどい情報持ってるやつが居たら殺す」
「また殺すとか言って!ダメって言ってるじゃないですか!」
「仕方ねーだろ。厄介なもんは厄介だ。煌牙組の事は勿論だが、トライアングルの情報持ってるやつも始末する。俺やトラは良いが、イリウスとご主人様の情報持ってたら即始末だ。分かったな」
「だから何で殺さなきゃいけないんですか!」
「別にお前は家でのんびりしてりゃ良いよ」
「そういう問題じゃないです!」
僕は僕の正義を執行させてもらうまでだ。
「良いかイリウス。情報屋のこと甘く見てるんだろうが、マジで庇うのは辞めておけ。あいつらのしぶとさは尋常じゃねー。拷問しても次の日には別の場所で情報売ってるぐらいだ。安全を確保したいんなら俺らに任せる事だな」
「でもそれじゃあ…」
「イリウス!!!!」
ケルトさんは大声で叱る。初めてではないが慣れない。
「はぁー…すまん。努力した結果殺すしかないんだ。お前を守るために大事な事なんだ。勘弁してくれ」
これがケルトさんの正義…僕であろうと踏み入れない絶対的な覚悟…僕の正義じゃ勝てない…。
「以上だ。他に報告あるか?」
「はい!以前西のエリアに妙な気配が」
「妙な気配?」
「言うべきか迷っていたんですが…何というか…気配が無いようであると言うか。殺気というか何というか…」
「はっきりしねー野郎だな。ちゃんとしろコウ!」
「は、はい!えっと…多分、四大勢力並みの力を持った者だと思われます!」
辺りがざわつく。四大勢力、ケルトさん、トラさん、バクの3人がトライアングルと言う四大勢力の一つだが、残り3つある。トランプ、ε、Masker。全員実力は互角と言われている。トランプは僕らが潰したが(22話参照)他2つは未だ得体が知れない。強いというのは確かだ。
「マスカーは別の世界行っちまってるって聞いてたからイプシロンか?あいつらより目立つやつ居ないと思うがな…」
「詳しい事は分かりません…でも、俺なんかよりずっと強い感じはしました」
「ふーん。まぁ良い。こっちに手出してこなきゃあどうでも良い。もう無いな?解散だ」
僕は内心穏やかじゃなかった。
(怪しい気配…そういえば53話で見たあの神力なんだったんだろ。トゲトゲした神力とか珍しすぎたんだけど。もしかしたらあれも…)
「なぁイリウス」
「は、はい?どうかしました?」
「さっきはその…すまなかった。お前を否定する気はねーんだ。お前の気持ちだって分かるしよ」
「大丈夫ですよ!ケルトさんも僕のためにやってくれてるんですもんね!」
「あぁ…」
「うわぁ!」
急に抱きつかれて驚く僕。何故か少し寂しそうなケルトさん。
「怖いんだ…お前を失うのが…親として…ちゃんと守れないのが…」
震えてる…これは初めて見たかも…
「大丈夫ですよ〜。ケルトさんはすっごい頼りになりますから!」
僕は軽くモフモフして慰めた。帰り道、いつもより少し、ケルトさんと対等になれた気がした。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「もういやです!」
毎日毎日追いかけられてばかりの人生。そんな人生に嫌気がさしたイリウスは自分を恨み始める。そんな中、ある人物に手を伸ばされる。イリウスは警戒も無しに、その手を取ってしまった。
イリウス君…優しすぎるのがいつも裏目に出るよね。可哀想だからどうにかしたいな…
次回「ーー入れ替わりーー」




