第6話 ーー寒い日ーー
「うにゅ〜。暖かくて美味しいのです〜」
雪を操る能力者と戦った後。僕はバクに連れられて家の中に入り、暖かいココアを飲んで落ち着いていた。
「まぁ、なんだ。その〜…すまなかった!もっとしっかりしておくべきだった!本当にすまん!」
「うぇ?謝んなくて良いよ!僕だって自分から離れちゃったんだし…」
怪我をした箇所は消毒と出血を止めた所までしてある。バクと色々話してるうちにケルトさんが帰ってくる。
「おーい、帰ったぞー。怪我治してやるから早く来い」
「ケルトさん!ってええ!?何かすごい血が付いてます…もしかしてやられたんですか!?」
「んいや、ただの返り血だ」
「かえりち?」
僕は不思議がりながらケルトさんに近づく。どうやって治すんだろうと思ってると手を差し伸べてきた。
「ん?どうかしたんですか?」
「説明してなかったが、俺には治癒の能力がある。能力増やすにはレベル上げて神に頼み込まなきゃいけねーけどな。でもメインの能力にある程度関係してるやつのが良いぞ。神力がグイグイ取られる」
「確かにケルトさんの能力と全く関係ありませんね…バクとトラさんは他にどんな能力持ってるんですか?」
「そうよの〜。我は一つ、これを持っておる」
バクは神器であるナイフを取り出し構える。そうすると、ナイフの周りを光が集まってきて覆う。
「うわ〜!何これ!」
「まぁ見ておれ。ケルト、腕を刺していいか?」
「えぇ、もちろん」
(え、刺すの?ていうか良いの??)
バクは光に覆われたナイフをケルトさんの腕に刺す。グサっと鈍い音と共にケルトさんは注射でもされてるかのような顔をする。
「イリウス、抜いてみろ」
「え?うん…うぐぅーーー!ぬぐぅーーーー!はぁはぁ…全然抜けないよ?ケルトさん力入れてます?」
「それが我の能力だ。呪いの類だがな。刺さった場所から抜けなくなるんだ。関節とかに刺すと敵の動きが鈍くなる。だがなぁ…」
バクが説明している中、もう用は無いかとケルトさんがナイフを軽く抜く。それを見たバクが呆れ顔で言う。
「圧倒的な力には敵わんもんよ…我の専門が呪いではないのもあるがの」
「ケルトさん達がおかしいだけで普通に強い能力だね!トラさんは何かあるんですか?」
「そうだな。俺は、これがある」
トラさんは皿を手に持ち落とす。パリーンと言う音と共に破片が飛び散る。ケルトさんが僕の事を持ち上げて破片を踏まないようにしてくれている。割れた皿を見ていると、破片が中心地点へ戻っていってる。皿が直ってるのだ。
「すごいです!お皿が直ってます!」
「俺は壊した物を直す能力がある」
「すごい便利じゃないですか!ケルトさんとかが壊した物も…」
「あ、それは無理だ。俺が壊した物じゃないと直せなくてな。使い勝手は悪くないが…な」
「ケルトさんとトラさんは治す事に特化してます。バクは戦うことに特化してます。何か理由あるんですか?」
僕の質問にみんな笑う。おかしなことを言ったかと心配になるが、
「はっは。単純な話さ。我は弱い、戦う力が無いんだ。だから戦う力を求める。トラ達は強い、ただ守れない。だから守る力を求める」
「戦えたら守れるんじゃないの?何で守れないの?」
「お前が死んだ時、俺が生き残っててもそれは死んでるも同然だ。俺らがいくら強くて、敵を倒せて、死ななくても。お前が重症を負った時、何も出来ずに前で戦うしか出来ねーなんて最悪だろ?強さっつーのは、守る事だ」
「怪我を負ったのなら治せ。壁を壊されたのなら直せ。大事な者を守れた時点で勝ち。強者なのだよ」
「かっこいいです!僕もみんなを守れるように強くなってみせます!」
ケルトさん達がせいぜい頑張れと言わんばかりの顔を見せた所で一つ思い出したかのように話し出した。
「そうそう、一つ聞き忘れてた。イリウス、何で1人で戦った?戻ってきて俺らを呼ばなかった?下手したら死ぬとこだったんだぞ?」
急に来たケルトさんの殺気に震えが止まらない。息を呑んでも声が出ない。トラさんもバクもケルトさんを止める気はなさそうだ。少し殺気が弱まりやっと声が出せた。
「ぼ、僕…ハコニワから出る方法…教えてもらってないです…」
「「は?」」
「え?あ、、、えーっとそうだな〜…そういやそうだった気が…いやでも…あー…すまん!」
「ケルト?」
バクもトラさんも怒ってる。僕に向かってた殺気が全てケルトさんに。基本的な教育は全てケルトさんの役割だからだろう。
「は、はい!」
「お主は危うくイリウスを殺す所だったんだぞ?理解しておるな?」
「は、はい…」
「罰だ」
「がはっ!!!」
ケルトさんのお腹にナイフが数本飛んで行き穴が開く。
「ケルトさん!?!?大変です!何やってんのバク!」
僕が急いで近づこうとするがバクが止める。
「あー来んな来んな血で汚れる。いってーーー、まじでいてー」
ケルトさんのお腹に開いた複数の穴は時間が経つにつれて戻っていく。完全に治った後は何事をなかったかのように話が戻る。
「イリウス、すまん!ちゃんと教えてなかったな」
「それは良いんですけど…お腹…」
心配するが断られる。とりあえず教えておくと言わんばかりに僕の肩に手を置く。
「とりあえず今教えとくぞ。ハコニワの出方は簡単だ。異世界移動、つまりは異世界への扉。それを開くことだ」
「ホールって何ですか?」
「お前を連れて来た…あーそうだなー…この世界に来る時には必須の技だ。基本能力使えるやつはホールも使えるんだが、お前はイレギュラーだからな。使い方自体は難しくなくてな。別の世界に行きたいって思えば良い」
「なるほど…こうですか?」
僕は空間に手をかざし、神力を集めて他の世界を考える。そうするとケルトさんが僕を連れて来た時と同じような円が現れる。
「そうそうそれだ。それを使えばハコニワからローディアに帰って来れる。ローディアで使ったら別の世界に行っちまうから注意だぞ」
「ハコニワって異世界なんですか?」
「うーん。そうだな、ローディアを1として、別の世界を2とするとハコニワは1.5だ。ローディアと異世界の間だな。そこらへんの仕組みは俺でもよく分かんね」
「なるほど…」
ハコニワから出る方法も聞いたし、これからはそこまで苦労しそうにない。それよりも僕もハコニワ作ってみたいな。