第64話 ーーペット禁止ーー
ザー。強い雨の中、ボツボツと傘に雨粒が当たる音を耳にする。長靴を履いて外に来たは良い物の、特にやることもなく歩き回っていた。人も少なくて歩きやすい。
「うーん。やっぱり雨が降ってると散歩も楽しくないな〜。ん?」
僕が目にしたのは一つのダンボールだ。電柱の下に置いてあって濡れている。僕は近付いて中に何が入ってるのか確かめてみることに。
「これ、何だろ?」
パカッと箱を開けると、中には小さな子犬が1匹といくつかの道具?みたいなのがあった。気付かなかったけどダンボールの外側には『もらってください』と書かれてあった。
「クゥーン…」
「この子1人?捨てられちゃったのかな…かわいそうだな…よし!持って帰ってあげる!」
「ワン!」
こうして急いで家に帰った。
(うーん…どうなるか分からないけどケルトさんに言ったら断られる可能性もあるんだよな〜。内緒にして部屋で飼おうかな)
そんな事を考えながら歩く。ダンボールは途中のゴミ捨て場に捨てて子犬を抱っこして歩いている。ずっと考え事をしていると家に着いた。どこに隠せば良いか分からないしとりあえず服の中に押し込んでおいた。
「ただいまでーす」
「おう、おかえり。濡れなかったか?」
「大丈夫です!」
ここを切り抜けて自室に逃げ込もうとした瞬間。
「イリウス!」
ビクッと肩を揺らす。急に名前を呼ばれてバレてしまったかと焦ったが、
「まずは手洗いうがいだろ?ちゃんとしねーと風邪引くぞ」
「あ、そうでしたね〜あははは…」(怖かったー…とりあえずバレてないみたいだし順調だな!)
僕は手洗いうがいを済ませて自室に移動する。子犬を部屋に放ってやると元気に走り回っている。
「一緒に入ってたこれってトイレかな?ちょっとしたご飯も入ってたし…飼い主さんも事情があったのかな…」
僕はダンボールに入っていた犬を飼えそうな道具たちをハコニワに放り込んでおいた。それをとりあえず取り出して使い方を探ることに。
「これっておもちゃ?ボールもある。ぷにぷにしてるな」
「ワン!」
「ん?投げて欲しいの?」
「ワン!」
「えい!」
中に入っていたボールを投げると走って取ってくる。ちょっと音が鳴っているが雨音のおかげで聞こえてないだろう。しばらくボールで遊んでいると疲れたのか水を飲みたそうにしている。
「ちょっと待っててね。水持ってくるから」
水を入れる器のようなものもあったから洗面台で水を入れようと部屋を出る。そこで、
「お、イリウスではないか。どうしたんだ?…その入れ物は?」
バクが居た。どうやらバクも今帰ってきた所らしい。油断して器を持ったまま来てしまった。
「えっとこれはその…実験!実験したくてさ!」
「実験…?まぁ良い。ほどほどにするんだぞ。ケルトに怒られない程度にの」
「う、うん…」
何故か嘘を吐く時に緊張してしまう。バレて無いと良いけどと心を落ち着かせながら水を入れて部屋に持っていく。
「美味し?ご飯も食べる?」
「ワフワフ!」
とりあえず出来ることは全てやろうとご飯もあげた。美味しそうにパクパク食べている。今更だが犬種は何だろう?耳が垂れ下がっていて茶色い。可愛い子だ。
「ケルトさんに言ったら飼わせてくれるのかな…」
薄々勘づく物もある。ケルトさんとの暮らしも短くない。秘密なんてすぐバレる。そう思っていても見捨てたくないんだ。
「イリウスー入るぞー」
「え!?は、はい!」
子犬をベットの下に。残りの物達は全てハコニワに放り込んだ。
「どうかしました?」
「いや、さっきから独り言が聞こえてな。飼うだとか何とか」
「き、気のせいじゃないですか?」
「そうか?妙な匂いもする気がするんだが…」
「い、良いから戻って下さい!僕にもそういう歳頃ってやつがあるんで、す!」
ケルトさんを追い出してドアを閉める。ひとまずバレるのは回避した。
その後、携帯で育て方とかを一通り調べて時間を潰した。気付いたら晩ご飯だ。
「いただきまーす!んー!今日も美味しいです!」
「そうか、良かった」
相変わらずケルトさんは僕が美味しそうにご飯を食べた後に食べ始める。
「なぁイリウス。隠してること、あんだろ?」
「ブフゥ!」
あまりの急激さにご飯を吹き出してしまった。トラさんが布巾を持ってきて拭いてくれている。
「ゲホッゲホッ。急にどうしたんですか?」
「捨て犬とか拾ってきてんじゃねーかなーって。お前の部屋からの匂いがそれに似ててな」
「……そんなわけ…ないじゃないですか」
「それなら良いんだが…一応言っとくと、うちはペット禁止だぞ?」
全て察していた。だから話さなかったんだ。でも、僕は見捨てられなかった。
「それは…どうしてなんですか?」
「俺らはいつ死ぬか分からねー。能力者の時点で危ない存在だしな。だから責任なんて持てねーんだよ。そんなら飼わない方がペットの為だ」
納得してしまった。僕ら能力者はいつ死ぬか分からないんだ。最強と謳われるケルトさんも、トランプの時みたいにピンチになって殺されることもある。それは僕だって同じだ。いや、僕の方が危ないんだ。今や僕はトライアングルの弱点と言っても過言じゃない。真っ先に狙われるのは僕なんだ。そんな僕がペットを飼うなんて…。
「どうすれば良いんだろう…君はどう思う?」
「クゥーン?」
子犬と一緒にお風呂に入ってる時、そんなことを考える。この子を飼うのはこの子の為にならない…か。
「おやすみ…」
その晩は終わった。
朝起きると、部屋の前にはケルトさんが立っていて子犬を持ち上げている。
「え、ケ、ケルトさん?何で…」
「何でも何も、起こそうとしただけさ。おうおう元気なやつだな。捨てられたのか?可哀想に」
怒ってるわけじゃなさそうだ。かと言って認めてくれるわけでもなさそう。
「とりあえず言うことあるんだろ?」
「…ごめんなさい…でも捨てられてて可哀想で…その子…捨てるんですか?」
「そうだな。俺らじゃ責任持てねーしな」
もしかしたらと思って聞いてみたが、予想通りの回答だ。
「そんな…かわいそうです!ひどいです…」
僕は涙ながらも訴える。もしかしたらもっと良い方法があるかもしれないのに…そんなケロっとしてるケルトさんが信じられなかった。
「なーんてな!」
「…え?」
「俺の知り合いに、こういう動物引き取ってくれるやつが居てな。そいつにやろうと思う。あ、もちろんそいつは能力者じゃねーしちゃーんと責任持ってるタイプだぜ!」
僕は涙を流しながら話を聞いていた。理解が追いつかない節があるが、良いことなのは分かった。
「ちっとは別れも辛いと思うが、また会えるだろうし、こいつにとってもそれが幸せだろ。どうする?お前が決めろ」
「僕は……」
この子が幸せなら、それで良い。
「その人に任せたいです」
「分かった。辛い決断させちまって悪かったな」
ケルトさんは涙ぐむ僕の頭をよしよしと撫でる。後日、その引き取ってくれる人と言うのが来た。
「あ、この子がその?」
「そうだ。うちの息子が拾ってきちまってな。まぁ何かの縁だろうし、可愛がってくれよ」
「分かった!君が見つけてくれたんだね」
子犬を引き取ってくれた人間さんは僕を見るなり笑顔で接してくれた。
「ありがとう。この子も喜んでるよ」
「ワン!」
「…あ、あの!その子、ボールで遊ぶのが好きなんです。一緒に…遊んであげて下さい…」
「分かったよ。君もたまには会いに来るんだよ。寂しがっちゃうからね」
「……はい…」
短い付き合いだったけど、僕ってやっぱり情が深すぎるのかな。でも、納得できた。今度からあの人に任せれば良いよね。困ってる子が居ても見捨てなくて良いんだと自信が持てた。




