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第63話 ーー散髪ーー

「うぐぁ〜暑い〜」


 気温はもう26度近くあるんじゃないか。意外と普通そうに見えて湿気が凄いから充分暑い。これで初夏って本当に言ってるのか…何よりも気になるのが…


「髪が長いです…切りたい…」


 そう。よく考えたら最後に髪を切ったのは2月だ。今5月だから3ヶ月切ってないことになる。元々長めに切ってたから余計だ。


「今すぐにでも切りたーい!」


「そうか、出発するぜー」


「そうですね〜………え?」


 知らない間にケルトさんがドアを開けて寄りかかっている。しばらく脳がフリーズしたがすぐに正気を取り戻す。


「え?いや、いつから居たんですか…」


「暑い〜ってとこからだ。髪切りたいんだろ?早く行こうぜ。俺も散髪?どっちかっつーとトリミングか。したかったからよ」


「ケルトさんも切るんですか?」


「おう!毛が抜けるだけじゃ暑いからな。ちゃんと短くしねーと」


「待て、俺も行っていいか?」


「トラか。お前も切んのか?いつもの場所じゃなくて良いのか?」


「構わん。暑くて仕方ないんだ。主を待ってられん」


 トラさんも参戦して用意周到に家を出る。向かうのはいつもの場所だ。相変わらずすごい行列だがケルトさんはそれを無視して中に入る。


「あら?この音は…やっぱりケルトちゃんじゃないの〜!」


 この人はリアさん。青い瞳に白の毛が特徴の犬科獣人さんだ。恐らく能力者だろう。ケルトさんと仲が良くて僕にも贔屓してくれるこのお店の店長さんだ。


「いつも通り行列だな、リア」


「今日は大人数ね。こんにちは、トラさん、イリウス君」


「こんにちはです!」 「どうも」


「今日はどうするの?」


「イリウスはいつも通りで、俺とトラのトリミングもだ。トラは初めてじゃないよな?」


「そうね。あ、そういえば新人の子が居るんだけどトリミングさせてあげても良いかしら?イリウス君は私がやるから」


「良いぜ。ここの人間だし腕は悪くなーんだろ?」


「えぇ。優秀な子よ。安心して任せると良いわ。2人は奥の方に行ってくれる?イリウス君はすぐに終わらせるわね。多分こっちの方が早いからトリミング見せてあげる」


「やったー!楽しみです!」


「んじゃ、先行ってるからな。なんかあったら呼ぶんだぞ」


「はい!」


 僕は空いた席に着き、リアさんが準備してる所を鏡越しに眺めている。


「リアさん。何でケルトさんは僕の髪を長くするんですか?短い方が過ごしやすいんですが…」


「あー…えっとね。私も詳しいことは分からないんだけど、戦いの影響だと思うわよ」


「…?戦いと髪の長さが関係あるんですか?」


「それは後で聞くと良いわよ。始めるわよ」


 謎が残るまま散髪が始まった。チョキチョキとハサミで切る音は速くも正確なのが伝わってくる。鏡を見ていると5分もしないうちに仕上がりに近い状態になる。


「相変わらずリアさんは髪を切るのが早いです!」


「それが私の強みだもの。もちろん、早くてもちゃんとした髪型にしないとダメよ?従業員達はみんな意識してるの」


「そういえば、獣人さんにも髪が生えてる人が居ますけど、何なんですか?」


「獣人は世界によって違う形があるのよ。獣人が居ない世界もあれば居る世界もある。それと同じよ。髪の生えてる獣人も居るの」


「なるほど…種類がいっぱい居て訳わかんなくなりそうです〜」


「ふふふ。その内慣れるわよ。よし、出来たわ。髪は全部落ちてるけどシャンプーしてく?」


 リアさんには切った髪を落とす能力があるんだろう。他にもあると思うが何かは分からない。


「大丈夫です!ケルトさん達の所に行きたいです!」


「分かったわ。案内するから着いてきて」


 僕は髪が切り終わって満足。そのまま奥の部屋へと案内された。


「わー!びっぷってやつです!」


「そうよ!よく知ってるわね!ここはVIP室。常連さん方が落ち着いてトリミング出来る部屋よ」


「お、イリウス!こっちだ!」


 ケルトさんに呼ばれてそこへと向かった。カーテンがあって手しか見えなかったが。


「入るわよ〜」


「ケルトさん!トラさん!…って痩せました…?」


 ケルトさんとトラさんは少し広めの同じ部屋で切ってもらっていた。2人ともまだ切ってる途中で裸だったがいつもよりモフモフ感が薄い。痩せてるように見える。


「痩せてねーっつーの。いつも毛がモサモサだからな。切るとこうなんだよ」


「トラさんの模様ってそうなってるんですね!初めて見ました!」


「…あんまり見るな」


「ん?よく見るとお2人とも…傷?」


 よく見ると薄っすら2人の毛の奥に傷のようなものが見える。


「こんなまじまじと見る機会なかったので気付かなかったです…やっぱり…残るものなんじゃ…」


「あんま気にする事じゃねーぞ。男の傷は強さの証だ。傷が多ければ多いほど強いってこった!」


「同感だな。安心しろイリウス。俺らにとってこの程度、ちっとも気にならん」


 2人ともいつもと同じ笑い方だ。ニカっとした感じで歯を見せるケルトさんと、ニヤっと口角を上げるだけのトラさん。


「ケルトさんもトラさんもすっごく強い人で僕嬉しいです!」


「お、おいおい!まだ切ってるっつーのに飛びかかってくんなよ!」


「トラさんもえーいです!」


「あ、ちょ、こら、……」


「うえーんすっごいトゲトゲで痛いです〜」


「あらあら、まだ整えて無かったのね」


 鋭すぎて血が出た。痛かった。

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