第5話 ーー初めての戦いーー
冬の朝は寒い。時は12月、息が凍るほど空気が冷たい。布団から出れば南国から北極だ。正直出たくないと思いつつも起き上がる。着替えも終わり洗面台で顔洗ったら歯磨きしたり、一通り準備が終わってリビングへの扉へと手を伸ばす。
「おはよう!イリウス!」
今日の冒険が始まる。
「おはようございます!ケルトさん!」
「おはよう、イリウス。今日も寒いな」
「はい!すっごく寒いです!」
僕は今日も元気に返事をする。無愛想だと可愛くないからね!
「俺の部屋で一緒に寝ても良いんだぜ?ほら〜毛がモフモフしてて良さそうだろ?」
「ほわ〜!確かにこれで寝れば朝までポカポカ…」
「全くケルトは相変わらずイリウスが大好きだな。ふぁ〜あ」
バクは朝が苦手だ。いつも眠そうにしている。特に冬の朝は大変そうだ。
「バクおはよ!あんまり早起きはしないんだね!」
「こんな真冬に早起きなんてどれだけ馬鹿なのだ」(現在8時)
朝5時に起きてるケルトさんとトラさんは何か言いたい気持ちを抑えて朝食作りを続ける。
「あ、そんなことよりもイリウス。外見てみろよ」
「外ですか?」
僕はそう言われて窓の方へ行きカーテンを捲る。そこに映る景色に目を奪われる。
「うわーーーー!!」
外に広がるのは驚くほど真っ白な世界。雪だ。
「雪です!雪です!雪遊びしてみたいです!」
「はいはい、飯食ったら行こうなー」
「早く食べたいです!」
僕は完全に興奮しきっていた。朝食を秒で平らげ外に行く。獣人さんの人口が多いのがローディアだ。冬眠している人もいるのか人はいつもより少なかった。僕は大きな庭に出て雪を触る。
「うわーすごいです!フワフワしてます!丸められます!」
「雪であんなに興奮するなんて、子供らしくて可愛いの」
「そうですね、やはり子供はああじゃなきゃ」
僕が油断していると雪玉が飛んでくる。死角から来た殺意マシマシ雪玉だ。
「おら!」
「むぎゅう!」
ケルトさんの作った雪玉に当たる。ケルトさんにしては珍しく優しい玉だ。
「もう!やりましたね!」
僕もやられたままではつまらない。ケルトさんに雪玉を投げ返す。お互いに力を使わず、普通の人みたいに楽しんだ。
「うわ!何このでっかい雪だるま…」
「すごいだろ!トラよりもでかい雪だるまだ!3mはあると思うぞ!」
「こんなおっきい雪だるまを乗せれるなんてトラさんはやっぱり力持ちなのです!」
「そ、そうか?」
少し照れるトラさん。その様子に嫉妬したのか、ケルトさんもムっとする。
「なーー!俺の方がもっとでけー雪だるま作れるっつーの!イリウス!でけー雪玉作ってこい!」
「はい!」
「子供っぽいが我々も張り合うぞ、トラ。」
「はい!」
そんな会話をして僕たちはどちらが大きい雪だるまを作れるか勝負することになった。僕はケルトさんの言う通りでっかい雪玉を作るため雪を転がしまくった。
流石に庭にある雪の量じゃ大きいのは作れないので近くの公園まで行ってデカくしたやつを神力で運ぶ作戦を実行した。
「よいしょっ、よいしょっ」
僕は雪だるまを大きくしていく。小さな公園だし使ってる人なんてほとんど居ない。と言うかこの世界で子供を見たことない気が…とにかく誰もいなかったのでたくさん集められた。
「よし、完成なのです!そしたら神力で持ってって…あれ?」
気が付くとそこは雪山だった。
デカい雪玉のせいで見える範囲は狭まっていたがいつの間に…
「え、え、え、え、えええええーー!何で??テレポート使っちゃった???そんな訳ないよ!僕使ってないもん!ケルトさぁぁぁぁん!!」
僕の声はやまびこして返ってくる。そんな時人影が見えた。今は頼れる人は居ないし行ってみるしかない!そう思い話しかけることにした。
「えっと、あのー。」
「ん?坊や誰だい?」
「僕イリウスです!10歳!公園で遊んでたらこんな所に…」
「あぁー。知ってるとも。
トライアングルの弱点だろ?」
そう言われ、その人の気配が変わった。僕はそれに察して急いで逃げる。
「ほらほら逃げないでー。君を殺すつもりはないからさ〜今は」
「だ、誰が待つものですか!」(追ってこない?丁度良いや。このまま逃げ切って…!!)
僕が山を下りある程度距離を離したところで、足下にある雪が雪崩のように動く。だが一つおかしな所は、登っていると言うことだ。
「なんで雪崩なのに登るの!物理法則無視してますよ!」
「まぁ落ち着いておいで」
(この人…能力者だ!多分雪を操る能力者。でも僕の事テレポートさせた…それも何かの能力?分からない!けど戦うしかない!)
僕は雪に流されながらも考えて上に飛ぶ。神力で自身を浮かせれば動きは封じられない作戦だ。
「食らえ!」
僕はビームをそいつ目掛けて発射する。
「おっと」
そいつは雪玉を出して自分を守ろうとするがビームは光。そんなもの貫通する。
「いったいな〜威力は低いんだね。でもちょっと怒った。俺からもプレゼントだよ!」
そいつは両手を上に上げて雪を集め始める。そして集まって行く雪は段々と塊以上に圧縮されていき、ツララのようになっていく。
(あんなの食らったら即死じゃん!絶対避けなきゃ!)
そいつは予想通りそのツララを飛ばしてきた。僕は間一髪で避けるが数が多くて掠ってしまう。
「へー避けるんだ。面倒だなー。まぁ君の首持ってくだけでも充分効果ありそうだし、殺しちゃおうかな。『吹雪』」
途端に天気が変わってとんでもない吹雪が訪れる。
(何これ。急に天気が…痛!吹雪の中に固いものが…霰?痛!天気まで変えれるなんてどれだけ神力持ってんだよ…)
「もう終わりだよ。ここは充分冷えた。『霰』」
僕に当たっていた霰は小粒だった。でもこいつのせいで霰は大きくなっている。石ぐらいの硬さの物が風に乗って当たっている。頭を守るが打撃による衝撃で僕は血を流す。痛い。痛い。
「…たまるか…
終わってたまるか!」
僕は出来る最大出力のビームを自分中心に真上へ放つ。凄まじい熱量で大粒の霰ですら僕に辿り着く前に溶ける。
「あーあーやけになっちゃった。そんな神力使って平気〜?神力切れなんて起こしたら苦しんで死んじゃうことになるよ〜?」
僕は不思議な感覚だった。確かにあの出力のビームなんて打ったら神力切れも起こしやすい。けど全く減っている気がしない。神力を消費するとそれなりに疲れるんだがそれがないんだ。
「これって…この前の修行の時、30分最小出力のビームを打ち続けて疲れたけど、それ以下の消費量ってことだよね」
(もしかしたら…勝てるかも)
僕は希望を持つが油断しない。落ち着いて現状とできることを探る。
(まずこいつは雪を操るんだ。けど天気を変えれてた。そう考えると、ここはハコニワ!脱出は簡単って言ってたけどケルトさんに教えてもらえなかった。だとしたら逃げるのは不可…助けを呼んでも誰も来ない…でも運が良いことに氷の弱点は熱。相性が良い。なら、僕お得意の量で勝負だ!)
一方その頃ケルトさん達は
「おーいイリウスーどこ行っちまったんだよー」
「イリウスーかくれんぼは今度やると言っただろー?」
「お前いつの間にイリウスと遊ぶ約束なんかしたんだ?あ?」
「喧嘩している場合じゃないだろう…お、この跡ってイリウスじゃないか?ほら、雪玉を転がした跡がある」
「お、確かにこれっぽいっすね!辿ってみましょう」
辿ったところイリウスが居たはずの場所に着く。
「この公園で集めてたのか。でも雪玉もイリウスもいねーぞ?」
「うーん。雪玉もどこかに持って行った様子がない…」
「神力で飛んでいったとか?」
「そんなら俺らのとこ来るでしょ」
「「「ま、まさかな」」」
そして戻る。
「食らえ!」
「ぐぬぬ…」
僕は全力でビームを放つ。一度に5本ずつ敵に向かって一直線だ。
「流石にこんな量となると厄介だな…それ、光なんだろ?じゃあこうだ!」
そいつは自身の目の前に雪で壁を作る。そしてそれをどんどん凝縮していき、氷にする。
「光だったら水の中じゃ屈折するはずだ。それは氷でも同じ。こんな細いビーム、簡単に当たるはずがない!俺の霰で散れ!」
(あれじゃ当たらない。このまま打ち続けても僕の神力が尽きる。それに霰もさっきから鬱陶しい…)
自滅覚悟でビームを打っていた僕だが、流石にキツくなってきた。そんな時ケルトさんの言葉を思い出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お前のビーム曲げれねーの?」
「ビームって言っても光ですからね…曲がるのは無理だと思います」
「そんなら空間の歪みを使えば良いんじゃねーか?調節さえすれば入った物の方向変えれるんだろ?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これだ!」
(まずは霰からどうにかしたい。僕のビームである程度は溶かせる。かと言って打ち続けるのは神力の無駄遣いだ。だから僕の周りに3つ空間の歪みを作る…そしたら方向を調節して永久に回るようにする…そしてビームを放てば!)
僕の予想通りビームは僕の周りを回っている。熱は減らないので霰も僕には届かない。
「これなら行ける!」
そこからはそう時間はかからなかった。僕は氷の壁を越えるべく、横から入るように歪みを使い、ビームをやつに当てる。お互いに体力が減ってきたころ。
「これで終わりです!」「これで終わりだー!」
互いに全力の一撃を放とうとした瞬間。
「てめぇーこの野郎ー!」
ケルトさんが雪の能力者を殴り飛ばした。途端に霰は止み、晴れてくる。
「イリウス!あぁ…こんなに血が…怪我もしているじゃないか!」
「こんなにって全部擦り傷なんだけど…」
「とりあえず我は応急手当てをする!先に戻ってるぞ!」
「よぉーしトラ、あいつどうする?」
「決まってるだろう?楽には死なせんよ」
「おいおい、もっと細かく言えよ。一時間に一本引きちぎるとかよぉ〜」
「えっと…あの人平気なんですか…?」
「ケルトとトラなら問題無いぞ?あの能力者についても安心せい。我も何かせねば気が済まん」
みんな相当ブチギレてて正直怖かった。