第57話 ーー抜け毛ーー
「うーん…綿どうしよう…」
僕は人形を作ろうとしていたのだが、中に入れる綿が丁度足りなかった。ケルトさん達には内緒にしておきたいから相談出来ない。
「イリウスー!ちょっと来てくれないかー?」
「はーいー」
突然呼ばれたので僕は行く事に。どうやらリビングじゃなくケルトさんの部屋らしい。勢いよくドアを開けると、裸のケルトさんが突っ立っていた。
「お、来た来た」
「な、な、何で裸なんですか!!!!」
「おーうっせうっせ。急に叫ぶなよ。そんでお願いなんだけどな?これで背中の抜け毛どうにかしてくれねーか?」
そう言ってポイっと渡されたのはブラシだ。そうか、今はもう春も後半。暖かくなってきてケルトさんも抜け毛の季節だ。
「もう…何で僕なんですか…」
「お前しか居ないし、トラとはそこまでの仲じゃねーし。ご主人様には手間かけらんねーだろ。1人でやるったって、筋肉が邪魔して背中は出来ねーんだよ」
「分かりましたから座って後ろ向いて下さい!」
僕は黙ってケルトさんにブラシをかける。すごい量の抜け毛ですぐにブラシが毛でいっぱいになる。
「あ゛ー。やっぱブラッシングは良いな〜。気持ち良いぜ〜」
「そうですか、良かったですね」
「抜け毛がひどい時期にやると風呂がすぐ詰まっちまうからよ〜。早めにどうにかしなきゃいけねーんだ」
「そうですね、ん?」
ケルトさんの抜け毛を触ってみるとモフモフしている。普段は少しトゲトゲしてて痛い時があるが、思った以上のモフモフだ。
(これ綿代わりになるんじゃ?)
「どうした?考え事か?悩みがあるんなら言えよな。俺に解決出来ないことなんて無いんだからよ」
「あ、大丈夫です!えへへ〜」
僕はささっとブラッシングを終わらせようとする。だが、1時間経っても終わる気配がしない。
「……これほんとに終わるんですか?終わったと思った所からどんどん毛が溢れてくるんですけど」
「終わるはずだぜ?まぁ確かに背中は広いからな。ふぁ〜。眠くなってきちまったよ。一眠りするから後は頼むぜ〜」
「な!酷いですよ!僕にこんな事させといて!」
「分かった分かった。じゃあ一緒に寝るか?俺はそっちの方が嬉しいけどな」
ケルトさんは頑張って背中に居る僕を見ながらそう言う。その目には何が宿っているのか、引き込まれそうだ。
「おーらよっと」
「うわぁ!」
いきなり身体の向きを変えて僕を抱え込み、寝転がる。ケルトさんは満面の笑みだ。
「急に何するんですか!」
「返事がねーもんだからつい。30分ぐらい仮眠しようぜ」
「もう…」
ケルトさんの前側、フワフワしている。まるでベッドに居るみたいだ。ベッドよりも暖かくて、すぐに体がポカポカする。気付いたらぐっすり眠ってしまっていた。目が覚めると夕方。ケルトさんはそこに居なくて、僕には布団がかけられていた。
「う〜ん」
「お、起きたか?ブラッシングありがとうな。残りはご主人様にやってもらったぞ。文句言ってたけど」
「当たり前だ。やっとトラのブラッシングが終わったと言うのに…お主らは身体がデカすぎるんだ!もう少し自粛せい!」
「そんな事言われても…」
「ケルトさん…」
何か言おうと思ったが、忘れてしまう。少しの間沈黙の時間が流れ、
「ん?どうした?」
「あ、いや、次は僕が最後までやりますから!」
「おう、頼むぜ」
そう言って僕は自室に戻った。裁縫の続きだ。この人形、どこに飾ろうかな。




