第44話 ーーケルトさんの誕生日ーー
「あ゛ぁぁぁ暇だぁぁぁぁ」
ソファーで横になりながら、ケルトは気が抜けた声でそう言う。
「そんな暇することかの。修行でもなんでもしてくれば良いんじゃないか?」
「修行はまた別ですよ。俺もなんか遊びてーなー。イリウスは部屋でずっと何かして相手してくれねーし」
「散歩でも行ったらどうだ?気晴らしにはなるだろう」
「散歩っつってもね〜。もうローディア来て100年ですよ?見飽きたにも程がありますよ」
「逆に今までは何で暇じゃなかったんだ?」
「んーー。確かに。今まで暇を感じなかったのが嘘みたいだな」
「イリウスが来てから毎日が楽しくなったんだろうな。だからこそ、少しの暇が死ぬほど苦痛に感じるのだ」
「なるほど…俺はイリウスが居なきゃダメなやつになっちまったって訳だな〜」
「…何で嬉しそうなんだ?」
「えへへ〜。だってイリウスは俺を求めてるし、俺もイリウスを求めてるって最高の関係じゃないっすか〜。まさしく親子って感じがして最高っすよ〜」
「なるほどな。お主も、変わったものよの」
「へ、ご主人様も同じですよ」
退屈のようで退屈でない。昔は、誰を相手にしても拳で語り合っていたケルトが、今は我と言葉で語り合っている。あの時は、想像も出来なかっただろうな。
「ケルトさーん!今日何日か知ってますか!?」
「ん?今日は4月2日だろ?イタズラ好きのお前かエイプリルフールで嘘つかねーだなんて驚いちまったぜ」
「そういえばそんなイベントがあった気が…すっかり忘れてました…」
(イリウスが行事ごとを忘れるなんぞ珍しいの…これは何かあったな?)
「イリウス、何か良いことでもあったか?」
「え??いや、特にないと思うけど…」
「じゃあ悪いことか?それとも何か…企んでおるとか?」
「ギクッ!い、いや〜?何もないけどな〜」
やばい僕演技下手すぎ!そう思いながら頑張って目を逸らす。ケルトさんにはバレちゃいけないからね。
「まぁなんでも良いけど他人に迷惑かけんじゃねーぞ。良いな?」
「うぅ…そんなの分かってますよ!別に迷惑なんて…」
(そういえばケルトさん…今日誕生日なのにアピールしてこないな…いつもならアピールしてくると思うけど…)
僕はそう思いながら自室に戻り、ケルトさんへのプレゼントを見つめる。ぼーっと眺めていた時、丁度良いように電話がかかってきた。
[もしもし?ピルス君?どうしたの?]
[え?ケルトさんの様子確認するって言ったじゃん。どうだった?]
[そういえばそうだったね。ケルトさんはいつもと変わらなかったよ。誕生日なの忘れてるみたい…]
[あーやっぱりそうなんだ]
[やっぱりって?]
[ケルトさん、今350歳くらいだっけ?自分の誕生日とかどうでも良くなっちゃってるみたいなんだよね。シャーガさんも寿命長いから聞いてみたら結構時間の感覚がズレてくるらしくてさ。誕生日すら忘れちゃうみたいだよ]
[なるほど…じゃあ…喜んでくれないのかな…]
[そ、そんなことないよ!去年はあんまりだったけど…イリウス君からのプレゼントなら大喜びするよ!]
[そう…かな…]
[そうそう!とにかく!今日の夕方5時、いつもの場所にケルトさん連れてきてね!]
[分かった]
そう言って通話は終わった。ケルトさんは寿命が長い。少なく見積もってもあと数千年は生きるはずだ。その中の1年なんてどうとも思ってないのかもしれない。僕と居る100年やそこらなんて…
「イリウス?」
ケルトさんの声が聞こえて、僕は急いで涙を拭く。
「どうかしましたか?」
「いんや、今日様子がおかしいからよ。なんかあったんじゃねーかなーって」
「大丈夫ですよ!それより、今日の16時出かけませんか?」
「お、良いぜ!どこ行くんだ?」
「それは僕がご案内するのです!一応目隠ししてもらいます!」
「人間って時々変なことするんだな〜」
そんな事で、目隠しを渡して16時になるまで待った。
「おーいイリウスー。行くんだろ?」
「あ、はーい!って、もう目隠ししてるんですか!?」
「ん?まぁな。良い景色があるかもしれねーし、楽しみにしてるぜ!早く行こうぜ!」
「え、あ、ちょっと待って下さいよ〜!」
先に行くケルトさんを急いで追いかける。そこで一つ思った。
(何でこの人歩けてるの?)
カーブだったり曲がり角を自分で曲がって居る。一応手は引っ張っているが、自分から曲がっている。
「ケルトさん?本当は見えてるんですか?」
「何も見えてねーって。音で分かんだよ」
「音?」
「コウモリと同じだ。音が反響してどこに壁があるとか分かるんだ。人が居るとかも分かるぜ」
「僕のことコウモリとか言ってましたけどケルトさんじゃないですか…あ、僕が今どんな指の形してるか当てれますか?」
「んー。そこまで細かくは分かんねーな。ただ居るってことは分かる。音の反響以外にも心音とかな」
「これは厄介なのです…」
「ん?どう言う意味だ?」
「何でもないです!」
コウモリみたいな性質な事を知りながら、1時間かけていつもの場所に向かう。途中治安が悪めで襲われたりもしたが、
「丁度良いハンデじゃねーか!死ぬ気で逃げろや!」
目隠し状態のケルトさんがボコボコにしていた。僕の手前殺しはしなかったみたいだ。良かった。
何とかみんなが居る場所に着いた。全員でサプライズパーティーのつもりだったが、多分心音でバレるんだろうな。
「何で俺らのナワバリ来てんだ?この前忘れもんでもしたのか?てか俺目隠しする必要あったか?」
「良いから!来てくださいです!」
僕はそう言って黙らせて中に入れる。
ったくなんなんだイリウスは。真っ暗で見えねーっつーの。今ご主人様の光玉食らったら流石に見えねーな。心音が、イリウス抜いて5つか?誰が居んだ?イリウスが俺のこと騙して殺しに来てるとか?ありえねーな。俺が疑ってどうする。とにかく目隠し外されるまで待つk…
「じゃあ、外しますよ?」
「おう、早くしてくれ」
さーてと、何があるのか…
「「「お誕生日おめでとうございます!!!」」」
「!?お、おい!何だよ、これ」
僕らはみすぼらしかった建物の一室を綺麗に飾り付けし、ケルトさんの誕生日を祝える状態にしていた。これにはケルトさんも驚いたみたいで、まだ困惑した顔をしている。
「今日はケルトさんの誕生日ですよ!隠してて申し訳なかったですが…」
「お、お前らな、別に誕生日ごときで俺の事祝うなんて…」
「まぁまぁ、俺とイリウス君で計画したんすよ!みんなも集まってくれた事ですし!座って座って!」
「全く!俺には何回誕生日があると思ってんだ!別にこんなサプライズみたいなのされても嬉しくないし?慣れてるっつーかなんて言うか…」
何か言っているが尻尾がすごい速度でゆらゆらしているから嬉しいんだろう。
「ケルトさん!これ!僕からのプレゼントです!」
「あー!イリウス君だけずるい!先駆けはずるいよ!」
「へっへーん。ケルトさんに1番近かった特権だよ!」
「こ、これ。俺にか?良いのか?」
「もちろんです!誕生日のプレゼントいっぱい迷ったんですよ!」
ケルトさんは慎重に包装された箱を開ける。ケルトさんが取り出したのは、僕が選んだネックレスだ。銀で出来たチェーンに赤い宝石が付いていて、黒毛のケルトさんには似合うと思った。
「………着けても良いか?」
「はい!是非着けてください!」
シャーガさんが気を利かせて鏡を持ってきた。どうぞ、とネックレスを着けたケルトさんに渡す。
しばらく鏡を眺めて動かなかったケルトさんだが、やっと動き出した。
「ったく。……俺なんかの為に…こんな…ぐす…」
「え、えぇ!もしかして気に入らなかったですか!?あわあわ」
「ちげーよ!!ただな…俺…こんな嬉しくなったの…ぐす…初めてで…」
「ケ、ケルトさんが泣いてる所初めて見たっす…」
「俺も…結構人間らしさあるんだな…ケルトさんって」
「んだとてめーら!好き勝手言いやがって!」
「うわー!ケルトさんが怒った!お前ら謝れ馬鹿ども!」
ピルス君とコウさんがうっかりした発言でケルトさんはいつもらしさを取り戻す。シャーガさんが2人を叱りつけている間、ケルトさんは突然抱きしめてきた。
「ありがとな。イリウス」
「こちらこそですよ、ケルトさん」
サプライズが成功したみたいで良かった。
〜番外編〜
・みんなが集めたプレゼント
ピルス 普通の銀のピアス
シャーガ パワーグリップ
コウ 子育ての本
カゲ 何かの頭蓋骨
「ピルス君とシャーガさんは分かりますが…コウさんとカゲさんは何でそれを?」
「お、俺は、この前ケルトさんが子供の育て方が分からないって嘆いてたから…」
「あれ?イリウス君知らないのかい?ケルトさんは頭蓋骨をうぐぅ!?」
「はははー。聞いてない聞いてなーい。次勝手に喋ったら殺すぜカゲ。頭蓋骨なんて本当に何考えてんだよー」
(あ、ガチの目だ。結構イリウス君に喋ってないこと多そうだな…今度から発言は控えよう…)
「後ピルス君、あの時気付かなかったけどケルトさん再生するからピアス無理じゃん」
「あ…………」




