第38話 ーートラさんの修行2ーー
「ムムムム…」
「?」
「ムムムムムムムムムム…」
「ど、どうかしたんですか?トラさん?」
「修行を考えているんだ!まさかこんなに早く達成されるとは思っていなかった…」
「イリウスも随分と賢いしな!流石は俺の子だぜ〜」
ケルトさんは嬉しそうに僕を抱きしめる。むにゅ〜と言いながらも僕は抱きしめられるのが大好きだ。
「よし、あんまりやりたくなかったが…実践稽古にでもするか」
「そんなのってないですよ!」
「おっしゃーイリウス!最初は俺とやろうぜ?」
「死んじゃいますって!」
「うーむ。だが思いつかなくてなー…そんなに嫌ならイリウスの強化訓練として、線を使った技術を磨くか?」
「お、それ良さそうだの。イリウスの1番の強い点である線。あれが使えれば相当な利点になる」
「線?あーあのふにゃふにゃのやつですか?使うってどう言う事ですか?」
「あの線が見えれば、敵の位置情報を把握したり出来るわけだの。まぁ一対一ならほとんど役に立たんが…ほれ、目に神力を集めてみろ」
僕は言われた通り、線が見える状態にした。バクとケルトさんが繋がっている線が見える。
「バクとケルトさんが線で繋がってます」
「そう。我が能力を使ったからな。いつでもケルトの後ろに行ける状態だ。もしお主に線が繋がっていたら、我がお主の後ろに行く確率が高いと思わんか?」
「まぁそれはそうだけど…」
「線があれば呪いの対策にもなるだろうしな。神力が見えると言うことは、神力を主体とした呪いやデバフ系の能力も避けられるやもしれん」
「どういうこと?呪いってそうやってかけるの?」
「そうだ。呪いは相手に自信の神力を当たることで発動する。勿論、普通の人には神力は見えんから当たらざるを得ないな。だがお主は違う。避けられるんだ」
「なるほど…それなら確かに…」
「と、言う事でやるぞ」
「て言うかこれ僕だけの修行じゃん!ケルトさん達意味ないじゃん!」
「まぁ別にお前が強くなれば俺は良いしな〜」
「同意だ」
「うえーん薄情者〜」
そんなことでトラさんの修行は急遽僕への修行となった。
「ルールは簡単だ。我がナイフを投げる。我のナイフは我から半径500メートル以内のどこでも自在に出せる。ただ、ナイフと我は線で繋がっておる。後ろからでも横からでも上からでも我を見れば分かるはずだ。だから我から目を離さずにナイフを避けろ。簡単だろ?」
「簡単じゃないよ…」
僕は文句を言いたい気持ちを抑えて修行を試みる。
(始まっちゃったけど…バクを見れば確かに場所は分かる。分かるけど…)
後ろに行く線が足元に見え、僕はすかさずバク宙をして躱す。ただ、少しだけかすってしまった。
(距離が分からないんだよ!)
そう、弱点としては距離が一切分からない。どの方向にあるのかは分かるんだが自分より近いのか、遠いのか、それすらまるで見分けがつかない。そのため、避けるのが早かったり遅かったりするわけだ。
(あぶな!次は横?うわ!上からも来る!)
何とか避けるが刺さってしまうこともしばしば。正直距離が分からないだけなので運次第では全然避けれる。それだけでもマシなのかもしれない。
「ちょっとストップだ。何故さっきから変なタイミングで避けるんだ?位置は分かっているようだが…」
「距離が分かんないの!どこから来るかは見えるけど、どのくらい離れているかは分かんないの!」
「そんな記述本にあったか…?」
バクは考え込んだ様子だ。
「よし分かった!ならば法則を掴め」
「え?」
「遠かったら近かったりすればある程度線に違いが出るはずだ。だからそれを何とか見つけるんだ」
「それが出来たら苦労してないよ!!うわぁ!」
ともかく修行が再開した。
(なんて僕がこんな目に…違いって…まず線は能力による神力で出来た繋がり。普通の糸のように考えれば離れればピンと張って、近づけばふにゃふにゃになるはず…でもそんな様子ない。なら糸と性質は別ってことになる。あくまで繋がりな訳だし違いなんて…)
僕は避けながらふと思った。糸電話の話を聞いた事がある。糸電話は振動により声を伝えるというものだ。声と言えば、コウモリなんかはどうだろう。鳴き声を出して、壁や天井から帰ってくる振動で距離を把握してるんじゃないのか?
(なら、この線の振動が分かれば…神力に敏感な僕なら、距離が見えてくるかもしれない。神力に振動を与えるのは同じ神力でしか出来ないはず…なら)
僕は、神力を小さな手のような形にして、線を触る。少しだけ触れれても、すぐに僕の神力を透けてしまうが、トンっと指で振動を与えてみると透けるよりも早く振動が返ってくる。その瞬間、研ぎ澄まされたようにナイフの位置が見えて、僕はすかさず迫り来るナイフを手で掴んでしまった。
「なっ!」
「いたーい!刃じゃない所掴めば良かったのに握っちゃったー!」
「あ、あぁ今治してやるから待ってろ」
「今のは…一体…」
トラさんとバクは驚いた様子だ。僕も何が起きたのかすぐには理解出来なかった。
「我のナイフの位置が…正確に分かったのか?あそこまで正確な物なのか?」
僕はさっき自分がしたことを全て説明した。途中で僕を見る目が人間を見る目じゃなくなったが僕は気にしなかった。
「お前コウモリだったのか?おかしいにも程があるぞ?」
「それは僕も聞きたいですよ…」
「神力に敏感って…どちらかといえば振動に敏感なのではないか」
「こんな感覚初めてだけど…」
「線は掴めるんだな。他にも何か出来そうだが」
「掴めるのはほんの2秒程です。他に何が出来るかは分かりません」
「ともかく変な奴だな。能力者との戦いにはだいぶ役立ちそうだがな。全面に目があるようなもんだろ?」
「まぁ…そうなるのかもしれませんが…」
「とりあえず今日の修行は終わりにするか。少し早いが、イリウスの線についても色々試してみたい」
「あ、我も試したいぞ」
「そんなら俺もやるぜ〜」
「ほとんど終わってないじゃないですか!」
そんなことでこれから実験されることに。実験され続けて日が暮れた頃。
「分かったこととしては…線の位置ははっきりと分かるが複数あると時間が足りずに何個か当たってしまう。完璧に避けれるのは精々3つまでと。そして、線は神器でなくとも神力を込めたものならば込めた本人との繋がりを示してくれる、と言うことか」
「そんな感じです。線は能力によるものと言うより、フワフワしてる神力が本人の意思に従う為のものって感じですね。神力を込めたものを浮かせたり出来るのは繋がりがあるからって感じですね」
「なるほど…神力と言うのは深いんだな…まだまだ秘密がありそうだ」
「ま、時間が経てば分かるだろ。イリウス!風呂入ろーぜ」
「はーい」
身体はもうボロボロで傷も負っている。服が何着あっても足りない…
「そういえば僕ってそんないっぱい服持ってましたっけ?同じデザインの服ずっと着てますけど…」
「あそこの店員服直せるからな。そういう能力なんだとよ」
「なるほど…便利な能力なんですね!」
一つ謎が解けて、今日は終わった。明日は僕の修行をする番だ。ケルトさん達の役に立てるよう頑張ろう。




