第32話 ーー強化週間ーー
「と、言う事で。初日は我となったわけだな」
「順番ってじゃんけんで決めるんですね…」
「それが1番平等だろ?次は俺だからな」
「別に順番がどうであれやることは変わらん」
そんな会話から強化週間は始まる。まだやったことのない強化週間。僕は期待に胸を膨らませていた。
「まぁ、我の修行内容だが…」
「…ゴクリ」
「避ける訓練だ。前回と同じだな。だが、今回の件で不意打ち矢の一本も避けられない事が分かった。少し激しめだから怪我をするかもしれん。期間は2日。1日、そうだな。ケルトのヒールが使えなくなるまでだ」
ケルトさんは驚く。勝手にヒールを使わされることになるから。
「俺のヒール使うんですか?神力無くなると面倒なんですけど…」
「仕方あるまい。トラはまぁ多少の怪我なら平気だが、イリウスに関しては治癒能力が低いからな」
「僕が低いんじゃなくてみんながおかしいんだよ…」
最初の訓練は避ける訓練だ。よく分からない説明を受けながらバクのハコニワへと入るが、信じられない光景が広がっている。
人を殺すような機械がたくさん。火が噴き出す罠とか落ちたら串刺しになるような落とし穴とか。
「僕死んじゃうよ!」
「全部使うわけじゃ無い。流石にお主用のやつを選ぶさ。ほら、あれとか良いでは無いか」
そう指を指している方向を見ると謎の台がある。足のマークがあるし多分あの台に乗るんだろう。
「ここに乗った状態で足を動かさないで攻撃を避けるんだ。乗るとスイッチが起動して色んな方向から銃とか矢が飛んでくる。足と頭には来ないから死なんぞ」
「身体には当たるんじゃん…」
「あ、そうそう。イリウス、お前の能力は禁止だぞ?」
「えー」
能力あれば動かなくても避けれるのに。
「えーじゃねー。お前の能力あったら避ける必要なんて無くなっちまうだろ」
「まぁそういうことだな。とりあえずぼちぼち始めよう」
バクは僕をその台に置いてケルトさん達を連れて行く。僕は1人で悩んでいた。こんなの本当にやるのかと。
「でも…やらなきゃ強くならないよね…」
僕は勇気を出して台の上に乗った。すると、周りに突如として拳銃やクロスボウが現れる。どういう原理なのか気になるより先に警戒が来た。
「まだ動きがないけど…反射神経が問われるタイプか…」
僕は全方面を一律に見回しながら攻撃が来るまで待つ。そこまで時間が経たない内にクロスボウが発動する。
「あぶな!」
丁度見ていた方向から飛んできたから何とか避けれた。そしてそこに追撃が来る。
「いた!」
当たってしまった。拳銃のバン!と言う音が響く。脇腹辺りに当たってしまった。当たった所は血で滲んでいる。僕はうずくまる暇もない。
(うー…痛いよう…でも次が来るかも…どうにかしなきゃ…)
そう考えてる内に次が来る。
(え、確か頭には来ないって…)
キンと音が聞こえて、気付いたら目の前にバクが居た。
「誰が始めろと言った!まだ調整をしていないんだぞ!その傷はなんだ!矢には毒が塗ってある、矢に当たった訳じゃなかろうな!」
僕は本気で怒ってるバクを初めて見た。怖くて声が出なかったが、何とか首を横に振る。
「はー…拳銃か。今調整をする。少し待ってろ。しばらくしたらケルトがお主の血の匂いを嗅ぎつけるだろう」
「その…バク…ごめんなさい…」
「いや、いい。説明が遅れた我が悪かった。元々ケルト達用の道具でな。あいつらは見ての通り拳銃なんてもの効かないんだ。だからそのままの物を使っていたが、お主にこれを使うと簡単に死ぬ。だから銃弾を変えたり、矢を変える必要がある」
バクは急いだようで息が上がっている。危うく死んじゃうところだったんだ…。って言うかケルトさん達も死ぬんじゃ?
「ケルトさん達って拳銃効かないの?あの矢は効いてたじゃん」
「あれはトランプが作った魔法が込められた矢だ。ただの矢では効かんよ。剣とかも一緒だ。神力を込めれば有効打にはなるが、ただの剣では肌の一つも切れない。出来たぞ、もう一度台の上に立て」
「まだ傷治してもらってないんだけど…」
「その位置なら全然動けるだろ?激しい動きもしないし平気だ。と言うか強化週間だからその程度で休むのは禁止だぞ?」
「うぐ…」
僕はそう言われて乗る事となった。さっきと速度は同じだが、矢は先っぽが尖っているタイプからただの石のタイプへ。拳銃は身体の中まで入る強さだったのが皮膚を捻って止まるくらいまで弱くなっている。ただ、当たるとあざが出来るくらいには痛い。
しばらくして血だらけのケルトさんがこっちに来た。
「なぁイリウス。なーんかお前の血の匂いがする気がするんだが気のせいか?俺とトラの血の匂いで鼻がおかしくなっちまったのか?」
「いや全然怪我してます。治してください」
そう言って脇腹を見せると驚いたように近寄ってきてヒールをしてくれる。
「あんな遠くから匂いが分かったんですか?」
「ん?まぁな。ただここ風がねーからよ、匂いが来んのにだいぶ時間がかかってな。遅くなって悪いな」
「いえ、治してくれてありがとうございます!」
そんな事を話してるとバクがやってくる。
「2人とも!ちょっと来い!」
呼ばれたまま行くと「着いてこい」と言われて少し遠くに行くことに。今更ツッコむようだけどバクのハコニワすごく広い。僕のハコニワの4倍くらい広い。
しばらく歩いてると目的の場所に着く。既に血だらけのトラさんが居るけど大丈夫なのか。
「では、今からトーナメントをする。ルールは簡単だ。攻撃側と守備側に分かれて、攻撃側は攻撃を仕掛け、守備側はひたすら守る。時間制限式で3分だ。攻撃が成功したら攻撃側の勝ち。逃げ切ったら守備側の勝ちだ。良いな?」
「急すぎじゃない…?」
「それくらいが丁度良い」
バクは僕が怯えてる顔を見ても何も動じず目を逸らす。
「初戦はトラ、イリウス。お主らがやれ。じゃんけんで勝った方が好きな方を選べ」
(出た!ここで勝てなきゃ確実にやられる!勝って攻撃側取らなきゃ死ぬ!)
「どうして僕がこんな目に…」
結果は負けだった。トラさんは案の定攻撃側を選び指をポキポキ鳴らしている。既にこの状況に涙してると言うのに…
「時間が惜しい、始めろ。あ、イリウス!能力はアリだ」
「能力あってもトラさんはどうにも出来ないよ!うわぁ!」
「よそ見とは良い度胸だな。そんなに余裕なら少し本気を出しても良いな」
「冗談でもやめてください!」
突然の襲撃にも何とか紙一重で躱す。トラさんは能力系統を使わないのかいつもの神器は使わずに素手で挑んでくる。相変わらずの速さだが、僕はテレポートで自分の遅さを補う。
(3分って言ったっけ?この状況3分も続くの?てかトラさんまだ手加減してこれでしょ!?きついよ!)
何とか逃げ回っているもののトラさんの勢いが止む事はない。疲れて来た僕にピーンとアイデアが浮かぶ。
「防御側は、攻撃しちゃダメなんて言ってなかったですよね」
僕はもはややるしかないと覚悟を決めた顔でそう言う。それに対しトラさんは、
「良いな、面白いじゃねーか」
狂気を感じるほどの笑みを浮かべてそう答える。
そこからはすぐだった。ビームを駆使してある程度距離を取るものの大きいはずのトラさんには何も当たらない。打ち続けても少しでも隙間を作るとそこから入り込まれる。そしてバーンと殴られた。
「いだい…」
「お前はちょっと手加減を知れ。血吐かないぐらいの力っつーのが分かんねーのか?」
「す、すまん…大人ならあれくらい骨折辺りで耐えるんだが…」
ヒールをしながら怒っているケルトさんにトラさんは気まずい顔をしながら目を合わせ、すぐ逸らす。
「ま、トラの勝ちだな。次は我とケルトだ。イリウス、よく見ておけ」




