第31話 ーーけじめーー
「足疲れたです〜。ケルトさんおんぶー」
僕は何とも愛おしい顔でケルトさんにおんぶをねだる。いつもなら「しょうがねぇな〜」とか言ってしてくれる所だけど、チラッと僕の方を見た後すぐに前を向いてしまった。
「ケルトさん…?」
僕はその様子を不思議に思う。感動の再会なはずなのに、ケルトさんはちっとも嬉しそうにしていない。しばらく歩いていると、ケルトさんは立ち止まって話し出す。
「ご主人様。お願いがあります」
「何だ?あまり長くなるようなものは勘弁だがの〜」
「俺を殺してください」
その言葉に頭が真っ白になる。頭の中で浮かぶ疑問、あの時の感情、全てが一気に押し寄せる。でも、もうあの時の何も出来ない僕じゃ無い。
「ダメ!バク殺しちゃダメ!」
「やめろイリウス。これで良いんだ」
「なるほどの。まぁ何となく分かっているが、お主の中で自身が死ななければいけないと思った理由を答えよ。それで我が納得したならばそうしよう」
「俺は操られたとはいえ、イリウスを…いや、ここにいる全員を殺そうとしました。到底許されることではありません。あの時、ハートが来た時に自害すれば良かったものの、俺は生に執着した。顔を、合わせられません」
「それだけ、か?イリウス、お主が思う今回のケルトの行動について、答えてくれぬか?」
「う、うん。僕、僕…ケルトさんを置いて行きたくなかったです…1人で、戦ってほしくなかったです…諦めて欲しく…無かったです」
僕は泣き出してしまった。大事な人が居なくなる事を思い出してしまった。それでも涙をすぐに引っ込める。だってすぐそこに大事な人が居るから。
「でも、1番嫌だったのは…ケルトさん、助かった後に元気がないです。僕、いつものケルトさんに戻って欲しかったのに戻ってないです。僕、まだ寂しいです…」
僕は勇気を振り絞りながら言った。ケルトさんは気付かされたように顔を上げて、今度はしっかりと目が合った。
「我も言いたい事は山積みだが、殺すなんてするわけないだろう?お前の罪は確かに重い。だが、お前が罪を償うのに必要なのは死じゃない。もう2度と我々を悲しませまいと言う決意だ!死んで楽をしようだと?甘えるな。自分が未熟だと分かっているならもっと鍛えろ!」
「は…はい…」
「最後のはトラも含んでいるからな?」
「うわ、こっちに飛び火した」
「まぁともかくだ。お主はイリウスを悲しませるような事をするな。我が言いたいのはそれだけだ。お主にとっては難しくないだろう?」
ケルトさんはいつものようなニヤッとした顔を見せてこう言った。
「はい!イリウス!足疲れたんだろ?」
僕はキラキラとした目に戻って元気よく答える。
「はい!おんぶしてください!」
「修行の一環だ。歩け」
「えー、そこはおんぶしてくれる所じゃないですか〜」
「「「あはははは」」」
もうすぐ森を抜ける。
「そういえば、依頼中止しておかないとですね」
「これからやるんじゃないのか?」
「流石に俺でも疲れましたよ…それにほら」
「「…ス〜………ス〜」」
「っふふ。良い寝顔よの。ケルトなんて気を張る事も忘れておる」
「この景色が無くならないよう、俺も強くなります」
「あぁ。だいぶ助けられてしまったからの。今度は我々が助ける番だ」
帰りの飛行機でそんな会話をするバクとトラであった。
依頼についてはトラさんとバクに任せて、僕とケルトさんはまっすぐ家に帰った。
「ふぁ〜。つい寝ちまったな」
「そうですね。バク達には申し訳ない事しちゃいました」
「そういやお前、ハートの記憶見たんだろ?どうだったんだ?」
「話して良いのか分かりませんが…ハートは…トランプは、良い人の集まりだったんです。でも、一つの呪いと、呪いを嫌う人達のせいで…」
「呪いって顔の事か?全員仮面の下は酷い顔してたし」
やっぱり仮面の下は知ってたんだ。ケルトさんもそこに触れないのは最低限のモラルがあるということか。
「はい…本当に良い人だったんですよ。あんな事しちゃいましたけど…僕は、彼らを讃えます」
「…死体埋めた方が良かったか?」
「いえ。それだと、お二人が見つけられないかもしれませんから」
「あいつらも感謝してるぜ。お前に救われたからな」
僕は忘れない。ハートさんから貰った記憶を。与えた救いを。決して忘れない。
その日は夜早くから朝遅くまでぐっすり寝てしまった。次の日から僕は決めたことがあったから。
「ごちそうさまです!」
「よく食うな〜。早食いもしてるし」
「前まで20分は食べてたのが今じゃ7分だぞ。何かあったか?」
僕は口でもぐもぐしながら言う。
「何にもないです!お部屋で勉強してきます!」
そう言ってリビングを後にして部屋に閉じ籠る。勉強をしないでハコニワを作り出し、僕は1人で修行をしている。
(もう、足手纏いにはならない)
ビームをピュンピュンと落ち葉に当てる。前も、横も、後ろも、全てに目を見張って落ち葉にビームを当てる。
「えーっと。落ち葉が67枚で、ビームが103回。当たった回数が50回だから…」
「何してんだ?」
「わあ!」
僕は驚きのあまり大きな声を出してしまった。ケルトさんが開けた穴からバクとトラさんもゾロゾロと入ってくる。
「勉強は?」
「えっと…その…」
「強くなりたいのはイリウスも変わらんのだな。丁度良い。強化週間をやっても良いかもな」
「それは良いアイデアですね!俺もやりたいです!」
トラさんとか喜んでるし良いものなのかな?それはそうとよく分からない。
「強化週間って何?」
「イリウスは初めてだな。まぁ強くなる為に全神経注ぐ週間って感じだ」
相変わらず訳の分からない説明で首を傾げる。
「我々は、今は4人だな。4人でそれぞれ訓練を考えて、それを実行するんだ。そうだな〜前回のを例で言うと、
我は避ける訓練を提案した。それにケルトとトラが合わせる
トラは痛みに耐える訓練を提案した。それに我とケルトが合わせる
ケルトは実践訓練を提案。それに我とトラが合わせる
と言った感じだ。似たようなものはないようにしたいが被ってしまう分には仕方ない」
「なるほど…」
「お前も訓練内容考えとけよ?」
訓練内容と言われてもパッとは思いつかない。とりあえず誰かのを参考にしたいが…
「ケルトさんはどうするんですか?」
「それは当日のお楽しみだ。きっついの用意しとくから覚悟しとけ!」
「まぁこれで強くならないやつは居ない。丁度明後日から月曜だ。そこから始めよう。残り2日は休め。強化週間は体調不良だからと休めるものじゃない」
「はーい」
そんなこんなで僕は強化週間と言うのを体験する事となる。この時の僕はまだ知らない。これが地獄の幕開けとなることを。




