第29話 ーートランプ開設ーー
「前が見えなくて怖いです〜」
「全くしょうがないな」
そう言ってトラさんは僕を片手で持ち上げて、お姫様抱っこ的な持ち方になった。もう一方の片手で僕の目を塞がなきゃいけないから必然的にだ。しばらく歩いていると段々と小さな声が聞こえるようになる。何の声か分からないし、バク達も何も言わない。
「ケルトさんは無事ですか?」
「あぁ、もう見えている」
僕はケルトさんの顔を見たいが見れなくてソワソワしている。トラさんが進めば進むほど小さな声が大きくなってくる。やがて何を言ってるのかも聞き取れてくる。
「ハート……ハー…ト…」
「この声って…ダイヤ…さん?」
聞いたことある声だと思ったらダイヤの人だった。声はガラガラで今にも死にそうなくらい弱った声だ。
「なるほどな。物理攻撃完全無効じゃなくて、これなら精々…90%カットってとこか。部下達に分け与えてたのは80%行くか行かないかぐらいだろ。それを全部解除してお前とハートに全振りした」
「ケルトさん!生きてて良かったです!」
いつもならすぐ返事をくれるケルトさんだが、一向に喋る様子はない。どうしたのか心配になった時、またもう一つ、今度はダイヤよりも少し余裕のある声が聞こえた。
「少し、ハズレだな。ダイヤは、俺の方を…多くした」
この声はハートの人だ。姿が見えなくても分かる。同じく瀕死。戦える状態では無い。
「お前の魔法は人を操る魔法か?条件は相手が負けを認めるとかそこら辺だろ」
「正解だな。人を操るは少し違う…が、まぁ同じようなものだ。私は人の精神について…長年魔法の研究をした。そこのイリウス君と言ったか…」
「ぼ、僕ですか?」
顔をゆっくりとこちらに向けて、仮面越しの目がイリウスを見た。でも、その目にはもう、殺意なんて無かった。
「はは…目隠しまでして、随分と大切に育てられてるんだね…そうだね…君ならきっと…」
「な、何の用ですか!悪党さん!」
「君にはこれをあげるよ…お前達を苦しめたいからね。せめてもの仕返しさ…」
そう言うと、ハートはイリウスに手を向けて、何かをした。
「な!イリウス!避けろ!」
「え?」
「この!」
トラは必死にその何かからイリウスを逃がそうとするが、その何かはイリウスに向かって動く。すぐにそれはイリウスの中に入っていく。
(何これ…段々と意識が…)
「おいてめー!何をした!」
「蘇る記憶…いつしかの能力者とやらが見せに来た能力を真似したものだ。ただ、私のは自分の記憶を他人に見せるだけだがね」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(ここは…どこ?暗い…ってどんどん明るくなってきてる!うわぁ!)
僕は眩しすぎる光に包まれて、目を閉じてしまっていた。
(んー…あ、目開けれる。ここ…学校?小学校みたいだけど)
着いた場所は小学校の一教室。机や椅子の感じがまんまそれっぽい。
(わー懐かしいな!人もいっぱいいるし!あれ?)
僕は一つ気付いた。机の一つがすごく落書きされてある。何て書いてあるかは見えなかったが、違和感が凄かった。
「化け物だー!化け物が出たぞー!あはははは」
「みんなー早く逃げろー!化け物に襲われちまうぞー!ギャハハ」
廊下を走っている生徒がそう言っているのを耳にした。
(え?化け物?やばいよこんな所で化け物なんて!でも、僕さっきから喋れないし能力も使えない…とりあえず行かなきゃ!)
僕は思い切って廊下に出る。みんな廊下の端に寄っていて本当に何か迫ってきそうな雰囲気だった。出入り口も人混みで塞がれていたが、通ろうとしたら透けた。そこで見たのは衝撃的な物だった。
(え?あれが…化け物…?)
化け物と言われて歩いてきているのは紛れもない。生徒の1人だ。ただ、顔が焼き爛れたような形をしていて、赤く腫れていて、髪も変な生え方をしている。
(そんな…化け物だなんて…)
僕は少し悲しい気持ちになった。そうして歩いて来た子は僕の居た教室の椅子に座る。その場に近寄ってみて気付いたが、机には悪口や、度の過ぎた暴言がいくつも書いてある。僕はこの光景に唖然とした。
(そんな…何でこんなに…)
気が付いたら、突如として場所が変わっていた。
「ここは…どこかの裏?体育館?」
場所は体育館裏だ。そこにはさっきの子と複数の生徒が居た。
「おい!化け物が学校に来て良いわけないだろ!」
「そ、そんな事言わないでよ…」
「化け物はこれでも喰らえ!放火!」
「熱い!熱いよ!」
「こいつ効いてるぞ!化け物の弱点は火だ!」
(そんな…ダメだよそんなの!どうにかしなきゃ!)
「どうにも出来ないよ。あくまで君は僕の記憶を見るだけの存在だからね」
(誰ですか!?って言うか何処ですかここ!)
「すまないね。あまり難しい質問には答えられない。名前か…そうだな、未来の僕ならハートって言うかもね」
(ハート…さん?)
「君が見てるのは僕の記憶だ。記憶を見せる魔法にはAIのように僕が居る。簡単な質問なら答えられるけど、それ以外はNG。僕の役割はあくまで記憶を見せることだけだからね」
(つまりあなたはハートさんの意志を持ったプログラムって事ですか?)
「そう言うこと。君がどんな状況で記憶の魔法をかけられたとか、どの時代から来たかとか僕は何も知らない。その時間軸との僕とは別の僕と考えてくれ。だからそう言う質問には答えられないよ」
(分かりました…伝えたい記憶を、なるべく手短にお願いします)
「分かった」
そう言われると、また場面が切り替わった。場所は、どこか分からない…少し薄暗いけど、ボロボロの電球が吊ってあってほのかに明るい。
「よし、みんな集まったな!」
「うん!じゃあ今日も始めるか!」
「そうしよう」
「う、うん!」
その場に居たのは4人。その子も含めて、みんな顔に何か物を持っている。目が一つだったり、口が横に付いてたり…説明出来ないくらいだ。
「じゃーん!今日は遊び道具持ってきたんだぜ!いつも話してばっかだけど、たまにはこう言うのも良いよな!」
「それ…なんて言う道具なの?」
「えー知らないの?トランプって言うんだぜ!」
「俺も初めて見る…」
「ただのカードに見えるが、これ一つで何十個もの遊びが出来る。万能な遊び道具だな」
「へー…一つで何個も…」
「え?どうかしたのか?」
「この集まりさ、まだ名前とか決まってなかったじゃん。トランプとかどうかなって…ほら、みんな居れば何個でも、色々な事が出来るからさ!」
「それ、めっちゃ良いアイデアじゃん!天才かよ!」
「素晴らしいな。流石だ」
「そう考えるとすごい良いな、トランプって」
「それならそれなら、丁度4人だしさ!将来名乗れるようにハートとか、クローバーとか名前決めとかね?」
「それなら俺スペードが良いな。得意魔法射撃系だから!」
「それ…関係あるのか?」
「このマークとか飛ばしたらカッコ良さそうじゃね!?」
「まぁ何でも良いけどさ。得意魔法で決めるんだったら俺はクローバーかな!」
「どうして?」
「占い系統が得意だからな!ほら、四葉のクローバーとか幸運とかの意味あるだろ?」
「そ、そうなんだ…分かんないけど…」
「それなら俺はダイヤだな。守護の魔法が得意だからな。いつかダイヤモンドみたいに絶対壊れない魔法を作ってやる!」
「お、良いね〜。じゃあお前はハートだな!そういや得意魔法って何?」
「えーっと…それが分かんなくて…」
「え、まじで?分かんないことあるんだ…」
「うーん…そんならさ!ハートで決まりにして、相手への精神系の魔法を得意にすれば良いんじゃね?」
「簡単に言ってるけど、精神系の魔法は治癒系の魔法の次に難しいんだぞ」
「やる!僕頑張るよ!」
「よし決定!俺らトランプ、開設だー!」
「おー!」
これかトランプと呼び始めた瞬間…みんなで支え合って、元気を出し合い、遊んで…
(どうして…ここから…)
「これが僕達トランプが出来た理由だ。最初はみんなで人を助けようなんて言ってたものさ。それが何でこうなったのか。次はそれを見せるよ」
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