第27話 ーー勇気ーー
聞こえる
日が沈み、木で出来たオンボロの寝床で。ただただ聞こえる。あの子の啜り泣く声が。我は何も声を掛けれない。慰めの言葉すら恐れ多く言えない。2度も親を失ったあの子の気持ちなんて我に分かるはずないんだ。そんなの分かってる。分かってるけど…声をかけずにはいられない。何と言えば良いんだ?教えてくれよ…ケルト…。
そう思っていると、我の背中を押す者が現れる。
「心が篭っていればそれで良い。俺はそう教わりました」
我は勇気を出して、あの子の元へ向かう。布団に包まり、啜り泣くことしか出来ずにいるあの子の元へ。
「イリウス。我は…」
イリウスは姿も見せてくれない。でもきっと聞いてくれてるんだろう。我は色々な考えを整理して、すぐに答えを出す。
「我は、ケルトの事が大切だ。従者として、いや、家族としてだ。あいつはお前の親だ。お前の気持ちが理解出来るなんて言うつもりはない。でも、でも!我は、我らは!お前の笑ってる顔を見るのが好きだ。
それはケルトも同じだろう?ならば、笑おう。嫌な事があっても、苦しくても、あいつを安心させたい。いくらでも泣いても良い。泣いても良いさ。でもちゃんと、笑顔も見せてやろう。いっぱい泣いた後に、大丈夫って心から笑って見せよう」
「……うん!」
涙が枯れて、声も枯れて、もう何も出ない。そう思ってた僕の口からは、元気いっぱいの笑顔と返事が出てきた。
「元気が出たなら良かった。これからを考えて行こう。まず、すぐに逃げるべきだと思うのですが…どうして宿何かに残ったんですか?」
「もしかしたら、ケルトが帰ってくるかもしれないじゃないか」
「うーん…それはそうですが…」
「絶対帰ってきます!僕には分かるんです!きっと今もみんなやっつけて帰ってくる途中なんです!」
「そうだと良いが…」
「我もそっちに賭けたい。あやつは失いたくない」
僕は思い出すと再び涙が溢れそうで我慢する。
「今からでも、行きたいです」
「それはダメだ。万一行ったとしても、もう手遅れだ」
「とりあえず、今日は色々ありましたから。イリウスは早く寝なさい」
「トラさん、もう父親の練習ですか?」
「早めにケルトの意思を継がねばならないからな」
僕はきっと帰ってくる。そう願って寝床に着いた。でもやっぱり寝れない。涙が出てしまう。心配で心配で。けどきっと大丈夫って信じてる。そう涙を堪えながら布団を被る。
2時間後
「帰らない理由。イリウスのテレポートですよね」
「急にどうした」
「飛行機に乗った状態でテレポートなんてされたらどうしようもない。それが理由ですよね。ここに残るなんて、いくらなんでも危険すぎる」
「別にそういう訳ではない。ただ、ケルトを待ちたかっただけだ。トランプは人前に出るのを嫌がる。たとえ数人でもな。街なんてもっての外だ。ケルトを待つ上だと安全な選択肢も取っている」
僕は盗み聞きと言う形で聞いてしまった。きっと2人とも僕が起きてるのに気付いていない。そのまま小さな声で喋っているのを聞くと、突如として
コンコン
ドアがノックされる。バクとトラさんは構えを取り、僕は息を殺す。その状態がしばらく続く暇もなく、声が響く。
「開けてくれー」
全員が驚く。僕も布団をガバっとめくって顔を出す。バクとトラさんは驚きのあまり固まってしまった。
「戦闘でだいぶな怪我をした。早く開けてくれ」
「偽物…か?」
「足音やノック音から、身長体重は同じように思います。声も本人…呼吸の仕方も少し疲れてる時の音と同じ…と言うことは」
「ケルトさんです!やっぱりケルトさんは帰ってきたんです!」
僕はベッドから飛び出してドアに向かっていく。
「悪い悪い。鍵を失くしちまってよー」
バクもトラさんも僕を止めようとはしなかった。そのまま直行して、鍵に手をかける。
(待て。鍵だと?)
バクの頭の中である記憶が過ぎる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「トラ、鍵を頼む」
「はい」
「鍵なら僕が持っておきますよ!ハコニワに入れておけるので!」
「いいや、俺が持っておく。すまんな、こう言うのは自分でやらなきゃ気が済まないんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ダメだイリウス!鍵を開けるな!」
「え?」
ガチャっとドアの鍵が開く音が響く。扉が開いて目の前に立ってるのは正真正銘ケルトさんだ。
「ケルトさ……ん?」
グサっと鈍い音が聞こえる。下を向くと、僕のお腹に何か刺さってる。痛い。
イリウスの背中から一本の刀が生えるのを目にした。我は途端に戦闘態勢を取る。それはトラも同じだ。
「動くな!動いたらこいつの腹から脳天、真っ二つになるぞ?」
「ケル…トさん?」
「くそ!トラ!本当にケルトなのか!」
「あの神器、本物です!本物のケルトです!」
「何故だ、何故こんな……まさか、これがハートの力…」
そんなに考えてる暇もなく、大量の足音が部屋に近付く。
「素直に捕まればこいつの傷は治してやる。戦うんだったら良いぜ?こいつを真っ二つにした後お前らの相手をしてやるよ」
「ぐっ…」
そうして何も抵抗出来ないまま、他の戦闘員達に睡眠薬を飲まされどこかへと連れてかれた。
ケルトさん…何で…何で…
「イリウス!」
「は!…僕、一体…」
目が覚めると、大きな檻に囚われていた。まるで見せ物小屋かのように、宙にぶら下がっている。バクもトラさんも大きな傷はないようだけど、手足を縛られて身動きが取れそうにない。2人とも神力がほとんど残ってないし、僕も減ってる。檻は多分壊せない。ひとまず周りを見回すと、ケルトさんが居る。
ケルトさんの隣には、椅子に座ってるハート型の大きい仮面を被っている。その隣には立っているダイヤが居る。
「こんにちは…と言うよりはおはようございますだね。トライアングルの諸君。会ったのは初めてじゃないけど念の為自己紹介だ。私は『ハート』。他の3人と同様魔法使いだ」
「ハート…もしかしてあの人が!」
「正解。私がこのケルトを操ってる。正確には別の人格を植え付けたようなものだ。性格も喋り方も本人そっくりだろう?ただ君達を敵として、我々を味方として捉えただけなのにこんなに違って驚いただろうね」
「ケルトさんを返してください!」
「それは出来ない。こいつは我らが同志、スペードとクローバーを殺した。でも君は見た事がないな。一体何者だい?」
「僕はイリウスです!ケルトさんの息子です!」
「はっはっは。ケルトに息子が居たのか。面白い。面白いねー。良い事を思いついた」
ハートがニヤリと不気味な笑みを浮かべて手を叩くと、僕らの入っている檻の床が、大きな音を立てて動き始める。
「こ、これは…」
床が開いたら、そこにはマグマがあった。
「檻は下に降るようになってる。ケルトを惨殺しながらゆっくり降ろして殺そうと思ったが。一つゲームをしないかい?」
「ゲーム?」
「そこのイリウスと言ったか。貴様だけが出てこい。他のやつが出てきたらイリウスを撃ち殺す」
ハートが手をかざすと檻の扉が開く。そこから僕はゆっくりと出る。
「ルールは簡単。このケルトと戦え」
僕は目を丸くした。ケルトさんと戦うなんて出来ない。そんな表情をしているとハートは付け足して言う。
「このケルトは元より何倍も弱い。威力はそのままだが、身体の使い方が分かっていないんだ。まぁだからこそこのゲームが成り立つんだけどね」
「何が言いたいハート!イリウスに変な事をさせたら許さないぞ!」
「単純さ。もし、ケルトを殺せたら、あそこの2人と君を生かして帰そう。
でも、もし殺さなかったら、君とあそこの2人は死ぬ。どうだい?」
僕は驚く。せっかく再会出来たのに。悩んでる暇なんてなかった。僕の頭の中は色々なことでいっぱいだ。
「イリウス!逃げろ!お主のテレポートがあればこいつらは追跡出来ない!」
「そうか、その手があったか。よし分かった。もし逃げたら追いかけないよ。その代わり、3人とも殺す」
「そんな…みんな…僕…」
(くっそどうすれば良い。あいつにとってケルトは命同然だ!だが、もし逃げてくれるならそれが1番良い。1番避けるのはあいつが死ぬ事と、あいつがケルトを殺すこと!)
「良いから逃げろ!」
僕は悩む。当たり前だ。誰も失いたくなんてない。絶望した顔で下を向く。涙も出ない。出ても意味なんて無い。
(どうすれば良いんですか…ケルトさん…)
僕はケルトさんと一緒に過ごした記憶を走馬灯のように駆ける。
「はー…時間かけすぎ。行ってきて、ケルト」
「はい!」
ケルトさんが階段から下に飛んで降りてくる。ドーンと大きな衝撃が伝わってきて、近づいてくるのが分かる。
僕はある事をはっ思い出した。出来る確証なんてない。自分に出来るか分からない。でも今はこれが最大値なんだ。僕は勇気を振り絞ってバク達に言った。
「2人とも!みんな助かる方法があるかもしれない!もしかしたら、どうにか出来るかもしれない!」
この発言にハートはほう…と声を漏らし、バク達は驚き、疑う。
「だから!バク!トラさん!僕に…命を預けてくれますか?」
「あぁ!」「もちろん!」
僕とケルトさんの戦いが始まる。




