第196話 ーー償い 前編ーー
朝が来た。身体を伸ばしてあくびをする。ナビとペグはまだ寝てるようだからゆっくりと起きる。リビングに行くと既にバクとトラさんが起きてるようだ。テーブルの上を見つめている。
「おっはよーございます!ケルトさんはまだなんですか?珍しいですね」
「…あ、おはようイリウス。すまんな、今ちょっと…」
「何見てるんですっか!」
2人の間をすり抜けて見ているものの正体を突き止める。手紙のようだ。
「これ、誰からですか?随分と丁寧な…」
喋りながら読んでいると、事態の深刻さに気付く。
「ケルトさん…神様に連れてかれる…?」
手紙の内容を要約すると、『これから神に連れてかれるけど心配しないでくれ』と。無理がある。
「ちょっと、バク、トラさん。どういうことですか?」
「我にも分からんのだ。何故あいつが。何故神に…」
僕もびっくりだ。突然こんなことになるなんて…ケルトさんがこんな綺麗な字で手紙を書くなんて…
「何でこんなことに…ん?」
「どうかしたか?」
文字に何か感じる。もしかしてと思い目に神力を集めてみる。
「これ…何か書いてあります」
「手紙だから当たり前であろう。お主もおかしくなるのはやめてくれ」
「違うよ!手紙に神力で書いてあるの!誰の仕業か知らないけど」
よーく見ると神力を使った文字が書いてある。普通の文字と被って見にくいが、それだけに集中すると見える。
「ケルトは…神…の世界…?裁…きを受ける。え…んま。閻魔様!?」
「ちょっと待て。そう書いてあるのか?本当か?」
「本当だよ。多分…閻魔様がケルトさんを連れてったって事だと思う。それで今神の世界らしい」
「それが正しいのなら、やばいんじゃ?」
閻魔様がやることは一つ、人を裁くことだ。ケルトさんのポイントがマイナス一万でも行ってしまったのだろうか?
「生きているうちに連れてかれちゃったってことは?」
「罪が多すぎて死後に償わせるととんでもない時間がかかる。だから生前にも償わせ、死後の償いを減らすんだ」
「なるほど…ってそれ帰ってこないってことじゃないですか?」
「そうだの。少なくともお主が生きているうちは帰ってこん」
「大変じゃん…」
ケルトさんと会えなくなるなんて嫌だ。今すぐに行動したいところだが、作戦が思い浮かばずウロウロしてしまう。
「その神力の文字とやらは誰が書いたんだ?」
「え、多分世神様だと思う。喋り方の片鱗が垣間見える。てか神様の世界って自分で行けないの?」
「自分では行けん。神以外はその扉を開けんのだ。だから神を頼るしかない」
「うーん…」
そうだ。世神様が味方なら頼れるんじゃないか?もしかしたら神の世界まで送ってくれるかも。
「よし!世神様探してくる!」
「ちょっと待て」
走って行こうとする僕を片手で引き止める。僕は行く気満々なのに。
「今までは神からこの世界に、お主の所に降りてきたんだ。だが今は違う。神が降りてくるのを願うしかない。それだと時間がかかりすぎではないか?」
「でもそれ以外無いよ…他の神様は僕のこと不気味がって相手してくれないし」
「恐らく生神様も、四大神様ですから止められてるかと」
「他に知ってる神はおらんのか?扉を開ける神なら何でもいい」
「うーん………あっ」
まだ分からないけど知ってる神様はいる。開けないかもしれないけど、やってみるだけありかもしれない。
「ん?急に黙ってどうした?何か知ってるのか?」
「うん…バクとトラさんは待機しといて。僕1人で行ってくる」
2人の殺気を感じる。鳥肌が立つし、体も震える。でも説明すれば分かってくれるはずだ。
「最後まで聞いてよ…あの人は僕じゃなきゃやってくれない。バク達がいたら腑抜けとか理由付けられてやってもらえないかもしれない。だから僕1人で行きたい」
「そんな面倒な相手なのか」
「だが1人で行かせるわけにも…うーぬ」
僕1人じゃなきゃ行けない。でも1人だと心配。そんな境界で葛藤している。
「とにかく行ってくる。急がなきゃいけないから。ペグとナビは指見てて!」
「分かったわ。気を付けて」「おう、行ってこい!」
迷うバク達を置いて、僕は走って向かう。人目が付かない所に着くと、空を飛んで移動だ。超高速で空を飛び、その場へと向かう。
「ここだ。お願い、居て」
小さい鳥居を潜り、階段を飛んで上がっていく。大きい鳥居が見えてきてすぐに、僕は浮遊を解除する。やっぱり居た
「落神様!」
「おぉー、イリウスじゃったか。また暇つぶしかー?」
「落神様、お願いがあります」
「何でも言ってみろー。つっても、もう神じゃないから何も出来んがの〜」
「神の世界に連れてってください」
「………………………………………ほ?」
何を言ってるか分からない様子だったからもう一回。
「神の世界に連れてってください」
「それは聞いた。無理じゃ無理。出来ないわけじゃあないが…」
「ないが?」
「俺らの存在が神にバレるかもしれん。神の世界へのホールは普通より多く神力を使う。だからバレやすいんじゃ。それ故、開くことは危険なこと」
「一瞬だけ開いてくれればすぐ行っちゃいますから!お願いします!」
「行ったまま帰ってこれなくなるぞ。仲がある人間にそんなことは出来ん。何より神に見つかれば殺される」
再び杯を酒でいっぱいにした。話してる中でも、絶対に行かせないという意思を感じる。でも、もうこの人しか頼れない。
「お願いします。大事な人が…お父さんが連れてかれちゃったんです」
「お父さん…?」
「はい。閻魔様が生きてるうちに裁くって、連れてかれちゃったんです。このままじゃ…僕、死ぬまでに会えないんです…」
涙をこぼす。情に訴えかけるつもりだったし、わざとと言えばわざとた。でも、考えてるうちに本気の涙になってしまった。
「あーもう泣くな泣くな。見殺しには出来ないってことじゃ。送ってやりたいのは山々じゃがの〜」
「お願いします!落神様しかいないんです!」
落神様も真剣に考えてくれてるようだ。それでも答えはやはり…
「ここのやつらを裏切るわけにもいかんしな…ん?」
ダメだとはっきり言われそうになった時、本殿の方に走って行った。中の2人と何か話してるようだ。
「え…本気ですか?……ですが………なるほど」
僕はじっと待っていた。もしかしたら連れて行ってもらえるかもと期待して。そして帰ってきた時に言われた言葉は、
「よし、連れてってやる」
「本当ですか?良いんですか?」
「ああ。あの2人が名案を思いついてくれてな。どうにか送り迎え出来そうじゃ」
「やったー!!!これでケルトさんを…!」
「話は終わっとらん。それなりの条件付きじゃ。まず一つ、早く帰ってくること。そして二つ、他の神に見つからんこと。これが守れるなら行って良し」
「絶対守ります!」
「どうやら交渉は成功したようだの。我々も連れてってもらいたい」
後ろから声が聞こえた。バクとトラさんだ。何でここに…
「誰だ?あのコピー人形みたいなのは…」
「僕のお兄ちゃんのバクです」
「あれってつまりお前さんと行きたいってことか?」
「恐らく…」
落神様は再度考えてしまう。僕だけならリスクが少ないんだろう。それが3人ともなると、リスクが高くなる。こんなことがあるかもと思って置いて行ったのに…
「実力はどれほどじゃ?」
「とんでもなく強いです」
「ならまぁ…良いか。どうせホールは作るしな」
(良いんだ…)
「バク、良いって」
「よしっ!でかしたイリウス!」
落神様はそう言って、ホールを作ってくれた。
「・・・以上がお前の罪状だ。これから地獄に連れていく」
「けっ!そりゃあ晩飯までには帰れんのか?」
「馬鹿言え。200年は帰すつもりはない」
まずいことになっておるのぅ…イリウスは手紙に気付いたかのぅ…
「では、地獄まで連れて…」
「おっと閻魔よ」
「何だ世神、時間が勿体無いぞ」
「罪状の部分を聞いておらんかった。もう一度良いか?」
「何!?それはお前に必要ない気がするが…」
「とにかくだとにかく。我も気になるのだ。この世界を愛する神としての」
「…はぁ。仕方ない。それでは罪状を・・・」
早くしてくれイリウス〜。我だけではそこまで時間を稼げん〜。