第195話 ーー神様へーー
「これでよし」
棚の上に禍々しい指を置きひと段落つける。ここからは待つ作業だ。
「待つって言ったって暇だなぁ。何か気が緩んじゃう」
「いつ消されるか分からないものね。久しぶりにお出かけでもしたら?私が見とくわよ」
「それも良いね!でも、最近会ってない人がいるからその人のとこ行ってこようかな」
「あら、そんな人いたの?なら行ってきなさい。変化があったら伝えに行くわ」
「うん!」
そう言うと家を飛び出し、田舎の方へ向かう。人がどんどん少なくなっていき、田んぼだらけの道に出る。懐かしいというかなんというか…
「やっぱりこの辺は良い空気だな〜」
「本当そうであるな。我が気に入ってる場所の一つだ」
隣から声が聞こえる。今更驚きもしない。
「お久しぶりです、世神様」
「これこれ、私もいるぞ」
「生神様まで?珍しいですね…」
「今日はサボりではなく世界の観察だ。誤った場所や、おかしな所が無いかのな」
「お前もいつかやることだ。しっかりと覚えておけ」
この2人は神様。僕とバクの神様だ。僕は将来生神様の後を継ぐ。そのために生きているんだ。
「お、それならこやつも連れて行ってはどうだ?楽しくなるぞ〜」
「世神様、これは我々神の仕事。イリウスはまだ人間です。やらせてはならないのです」
「えー。良いじゃねーか、どうせ神になるんだから」
「いけません。その時は神同士で教えますから問題ないです」
「相変わらずお堅いやつ。イリウスはこうなるなよ〜」
「あははは…」
仲は良いんだろうな〜。お二人ともすごい人だし、僕も尊敬している。でも、なんだろう。世神様だけは、少し違う気が…
「ん?どうした。来るんじゃないのか?」
「え?」「ちょっと!」
「人間だろうが神だろうが、互いを大事に出来る。種族の壁なんて古いマンションくらい薄いものぞ。さ、行くぞ」
「はぁ…仕方ないですね」
「良いんですか…?」
「へ、神の我が言っているんだ。人間は人間らしく、神の恵みを我が物顔で受け取れば良い」
やっぱり、この人は何か違う。でも、僕にとってはすごく懐かしく感じた。
「はい!」
その後は色々な場所を回った。神様の力で飛び回って、山の奧や、川の先や、海の上だって。どこへ行っても自由だ。野生動物の観察もしたし、生態系の仕組みまで教えてもらった。神様って、こんなに楽しいものなんだ。
「どうだイリウス。楽しめたか?」
「はい!すっごく楽しかったです!」
「あくまで調査なんですから。遊んでるわけじゃないのですからね」
「そんなこと言って。禁忌の技、『時止め』を見せておったくせに」
「あ、あれは生物の観察において重要なことで…」
「人間には早いんじゃなかったかの?」
「あぁぁぁもう、分かりましたよ。早くないです」
僕は思わず笑い転げてしまった。このお二人は面白い。神様だなんて思えない。そう思ったが、元は人間なんだし人間味を感じるのは当たり前だ。あれ?でも世神様は元から神様なはず…何で人間味を感じるんだ?
「世神様…その」
「ん?どうかしたか?」
こんなことあるわけない。絶対にありえないけど、そんな気がする。
「僕ら、会ったことあります?人間界で」
世神様は黙ったまま、ニコッと笑う。
「そんなわけなかろう。我は神だ。人間界でもな」
「そう…ですか」
やっぱりそんなわけなかった。僕と世神様が人間界で会っているなんて。
仕事が終わったみたいで、お二方は帰っていった。僕は元の田舎道に下され、そのまま帰路に着く。指の件は平気かな。
「・・・ってことがあったんです!」
「神の仕事を体験か。良いな〜羨ましいの〜」
「相変わらず世神様は甘いのだな」
「…俺、ちょっと買い物行ってくる」
ケルトさんが唐突に立ち上がる。もう夜なのに…
「え?こんな時間にですか?」
「まぁな。嫌な予感がしちまって、巻き込みたくねーし」
そのまま家から出て行ってしまった。嫌な予感ってなんだろ…外も充分寒い。
寝る前、ちょうどケルトさんが帰ってきて安心した。軽く抱きついた後、おやすみなさいと言って眠りについた。
〜天界〜
「それで、あれはどうなんですか?」
「あれとはなんだ?」
「イリウスが言っていた、人間界で会ったことがあるかという話です。本当にあるんですか?」
察しがいい。前の神に似ている。
「あったら覚えているはずだろう?でも覚えていないんだったら…そういうことだ」
納得がいかない様子だったが仕方ない。我が人間界出身だからといって、人間と関わっているかは別問題だ。だがまぁ、こやつには真実を言っても良いのかもな。
我は書類の整理をしていて、ある書類に目が動く。
「これは…本気で言っておるのか!?」
「どうかしました?………え、明日じゃないですか!滞納してたんですか!」
「これは今日の書類だ!面倒なことをしおって…」
これは荒れるのぅ…
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「見捨てられません!」
朝、イリウスが目を覚ました時には、ケルトはいなかった。残された手紙には、丁寧で綺麗な文字で難しいことが書かれていた。理解したイリウスは行動せざるを得ない。
追いかけなきゃ…絶対、絶対助けなきゃいけないんです!
次回「ーー償いーー」