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第193話 ーー本当はーー

 結局、何も分からなかった。


 命がけでスポイルを捕まえても自殺。街を救いながらも倒したエアスは殺されて、唯一まともなピカソは自分で自分を消した。残ったのは醜い重荷と歪んだ恨みだけ。


 僕はそれでも、笑えてるのかな。


「イリウス〜流石に寝過ぎよ〜」


「そうだぞ!もう10時間だぞ!」


「うぅ…少し…疲れたよ…」


 短期間で色々ありすぎた。スポイルと殺人鬼なんてほとんど連戦だ。勘弁してほしい。


「イリウス。良いか?」


「にゅぇ?トラさん?今起き上がります」


「いや、そのままで良い。少し話がしたくてな」


 かしこまった様子だ。床に正座してこっちを見る。


「お前は、俺らと違ってはけ口がないと思う。俺らは単純だから、酒飲んで酔っ払って面白い話が出来れば、すぐにすっきりしてしまう。だが、お前はそうはいかないんじゃないか?」


 どうしてこんな話するの?


「お前はいつも無理してる…ように見える。そうじゃないなら申し訳ないが、」


 何で分かったように言うの?


「この期間、色々ありすぎたからな。ケルトはあんなに怒っていたが、本心じゃない。俺らも同じだ。いつだってお前の味方だ」


 また心配かけたの?


「だから、大人である俺らをいつでも頼ってほしい。復讐でもなんでも、手伝うぞ」


「何でトラさんにそんなこと言われなきゃいけないの?」


「…え?」


「あ、いや、何でもないです。僕は”大丈夫”ですから」


「…そうは見えんな」


 話は終わりでしょう?


「俺の目は誤魔化せないぞ」


 早く出てってくださいよ。


「俺がお前のためになれるなら何でもする」


 誰の助けもいらないんですよ。


「だからもっと頼ってくれ!」


「しつこいんですよ!僕だってそれなりに気を遣って、迷惑かけないよう考えて!それなのに…それなのに…!あなた方は分かってないのに分かった口を聞く!僕のことなんて何も知らないくせに!分かってないくせに!」


 大声を出してしまった。涙目になりながら、声を枯らす覚悟で叫んでしまった。ナビもペグもトラさんも、その様子に驚いて固まってしまった。


「もう…嫌なんですよ。誰かが傷付くのも、傷付いた人が悪に堕ちるのも…もう、嫌なんですよ…」


 あーあ。また怒られる。


「本当は…本当は…」


 言いたくなかったな〜。


「僕も…普通の生活がしたい…神様とか、能力とか…何も関係なく、普通の生活が…」


 涙が溢れる。止まらない。嫌だった。この人達のせいにしたくなかった。トラさんのことだ、自分達が普通じゃないから普通の生活をさせてやれないって後悔するんだろうな。最低だな、僕って。

 そう思っていると、部屋のドアが開く。急いで顔を上げると、そこにはケルトさんとバクがいた。


「全部、聞いてたぞ」


「……」


「そんなに溜め込んでたんだな。いや、溜め込ませたって言った方が正しいか」


「……」


「イリウス。修行すんぞ」


「……え?」


「ほら早く。ハコニワ行くぞ」


 ケルトさんはそう言って扉を作る。僕の手を引っ張って、その中に連れて行く。


「ど、どうして急に…」


「俺はお前のことなんも分かんねぇ。このままじゃ、それは変わらねぇ。だからぶつけろ。思いでも、恨みでも、愛だって良い。全部全部、俺にぶつけてくれ。俺もお前に伝えたいこと、山ほどあるんだ」


 この言葉があったから、僕は僕でいられた。僕は恨みに巻かれずにすんだ。

 修行が始まる。ビームを打ち、剣を振るい、倒しに行く。不死身だからこそ、全力で挑める。


「僕は普通になりたかったです!神様に選ばれて、殺し合いの地に立たされて…もっともっと普通になりたかった!」


 僕の攻撃を、言葉を、ケルトさんは避けない。


「誰も救えなくて悲しいんです!敵だって味方だって、関係なく悲しいんです!こんな世界だけど、好きに泣かせてください!」


 今まで言えなかった。ケルトさんの言う事はいつも正しいから。


「もっと…もっともっと知ってほしいんです!聞いてほしいんです!敵ばっかじゃなくて、僕のことも見ていてほしいんです!」


 溜まっていた悲しみ。自分の中に収めていた甘え。それも、全部全部。


「はぁはぁ…誰も…僕のそばを離れないでください…僕を1人にしないでください…もう、1人は嫌です…」


「俺だって、お前に言いてぇこと山ほどあんだよ!」


 ケルトさんの想いだ。僕だって受け止める。だって僕は…


「自分1人で解決しようとすんじゃねー!いつだって、俺らが死にそうでも、『助けて』って言いやがれ!」


 僕は…


「お前のこと知りてーなんてもんみんな思ってる!だから教えろ!嘘つくな!もう2度と、大丈夫じゃないのに『大丈夫です』なんて言うな!」


 ケルトさんの子供だもん。


「だから、」


 そっと抱きしめられる。優しくて、おっきくて、あったかい。悲しみの雨も、痛い言葉も、全部から守ってくれてるみたい。


「お前はお前でいてくれ。愚痴なんていつでも聞いてやる。わがままだって許してやる。そこにはいつも俺がいる」


 首輪を握る。ケルトさんと僕との繋がり。


「本当は、お前のこと大好きなんだぜ」


 その言葉に思わず笑みが溢れてしまう。


「そんなの、とっくに分かってますよ」


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「もう大丈夫です。本当ですよ」


 全てを吐き出したイリウス。その心に濁りはない。やっと前を向けた。やっと霧が晴れた。やはり順を追うのが正解。イリウスは協力者『ニヒル』を探そうと準備を進める。

 いてててて…剣で斬り付けられるとはな…まぁ、なんかすっきりしたな。


            次回「ーー目的地ーー」

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