第192話 ーー整理ーー
トボトボと帰り道を歩く。逃してしまった。実力が足らなかった。そんな後悔に苛まれるが、今は前に進むしかない。ひとまずケルトさん達に報告だ。
「…ということがありました」
「で?」
「えっと…で?と言われましても…」
「逃したからメソメソ帰ってきたのか?追わなかったのか?」
「じ、実力に差が…」
熱はだいぶ引いている様子だ。いつも通りとまではいかないが元気そうで安心した。ただ今は元気で居てほしくなかった。ちゃんと怒ってる。
「まぁ生きて帰ってきただけマシだの。話を聞く限りそれだけ手強い相手だったということか。あーむしゃくしゃするの」
「俺だけでも行けてれば…晩酌なんてするものじゃないですね」
みんなお酒のせいで今回来れなかったんだ。逃した僕にも非はあるかもだけど来れなかったみんなのせいでもある。
「私はその場に居合わせたのが少しだったけど、確かに強そうだったわ。準備を怠らず、100%の安全性を確認してから行動するタイプね」
「だから顔も見えなかったと。はぁ…あのなぁ。これだいぶまずいぞ?」
「それは一体…」
どうしてケルトさんがそこまで心配しているのかが分からなかった。逃してしまいはしたが、そこまでなのか?
「ロヂっつったか。あいつは多分情報伝達の役割を持ってる。もし、目を取るとそいつの記憶を見ることが出来る、とかの力があったら?」
「あ、、、」
「警察側の情報はだだ漏れ。そして警察側にある我々の情報もだだ漏れだの。どうしたものか」
「殺人鬼が言ってたノルマってのも、警察の目を取ることだったかもしれんな。何にせよ捕まえられる可能性が下がった」
「そ、そんな…」
言われてみればそうだ。ただでさえ複数の能力を保持している。記憶系の力だってあるはずだ。これなら追ってでも捕まえた方が良かった。
「メーデ。今回は頑張ってくれたな。もう帰って良いぞ」
「…そうさせてもらうわ」
メーデさんは悔しそうだが帰って行った。玄関まで送ろうと思ったがバクに止められる。
メーデさんが帰った後、イスに座っているとバクが自分の体にナイフを刺し始める。
「お主らもだ」
そう言うとケルトさんとトラさんにも刺した。僕はいきなりで固まっていたが焦る。
「すまん、イリウス。全て我々の責任だ。お主は何も悪くない」
「ま、そうだよな。俺らがいればどうにかなった。それは事実だ」
「本当にすまない、イリウス」
「あ、謝らないでください。とにかく傷を…」
まだ言ってない。軽い神得化をしたこと。それで勝てなかったということ。僕はそれを隠しながらも目を背ける。そんな時、家のチャイムが鳴った。
「ほーい。今出るぞー」
ケルトさんが行ったと思ったら僕が呼ばれた。
「ドンベルさん!ロヂさん!お怪我は平気なんですか?」
「ああ。問題ないよ。あんまり長居は出来ない。単刀直入に言おう」
何の話かと思うと、スケッチブックを取り出した。空白のページだ。恐らく消された殺人鬼の似顔絵だろう。
「これ、描けないんだ」
「…?どういうことですか?」
「俺はね、自分の能力で描いた似顔絵は忘れない。だから2回でも3回でも同じ絵を描けるんだ。でもね、描けないんだよ。記憶がないんだ」
衝撃を受けた。恐らく協力者『ニヒル』の仕業。でも今までは証拠を消すだけで、人の記憶までは影響を及ぼせなかったはず。それなのに何故…
「もしかしたら片目を取られた影響かもしれない。だが、高確率で協力者とやらの力だろうね。そこで君に問いたい。あいつを倒す算段はあるのか?」
今までとは訳が違う。殺人鬼の強さを目の前で感じ、ニヒルの新たな力が判明した。殺人鬼を倒すどころか、探し出すのすら難しいんじゃないか?
「算段は…」
「俺がいる。それだけで充分だ」
「ケルトさん…」
「ふーん。まぁそれが算段になるなら良いけど。俺らは腐っても警察だ。頼りたいならいつでも頼ってくれ。ちなみにこれは警視総監は関係ないからね」
「やっぱり聞いてるんですか…」
デルタさんの差し金だと思ったが、そうではないようだ。
今はともかく、作戦を立てる必要がある。スポイルからも何か得ないと…
「ドンベルさん。スポイルについてなんですけど…」
「その件だが、刑務所内で自殺していた」
「…………え?」
「突然で驚いたがな。石に頭をぶつけての自殺だ。どうしても話したくなかったんだろう」
自殺…そこまでするやつなのか?
「情報は何も得られなかった。すまない」
「いいえ、大丈夫です。せっかく捕まえられたのに残念です」
(言えない…バクさんが拷問中にムカついて殺してしまったとは言えない…確かに情報を吐く様子は一切無かった。だが殺されるとは思ってなかった…)
スポイルの件は諦めざるを得ない。また振り出しに戻ってしまった。ここから何をすれば…
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「少しだけ…疲れてきました」
何がある?道行く先には何がある?お前に何が残ってる?終われば何が残る?本当に終わりはあるのか?お前はそれで満足なのか?全員、救えると思ってるのか?
我は、何があろうとイリウスの味方だ。大丈夫、笑顔でいればきっと平気だ。
次回「ーー本当はーー」