第189話 ーー周期 前編ーー
「遂に来たね。この日が」
きゅきゅっとマーカーで印を付ける。僕の計算が正しければ、今日は殺人鬼がローディアに来る日だ。
「俺も行くー!」
「もう、ケルトさんはダメです。熱出てるじゃないですか」
「うるさい!俺だってやる時はやるんだ!んなもん気合いで治る!」
「治ってないじゃないですか…」
恐らく睡眠不足による体調不良だろう。昨日何かしてたのかな?お酒臭いのは確かだ。
「安心しろ…俺が…行くから…」
「トラさんもダメです。頭痛いんでしょう?」
「大丈夫だ…勝てる…」
「みなさんの言葉を借りると、『足手纏いがいると面倒だ』です」
「すまん、イリウス。我々がこんなんで恥ずかしい…」
バクとトラさんも体調を崩している。トラさんは酷い二日酔い。バクは未だに酔っている。不老不死が聞いて呆れちゃうね。
「良いから3人はゆっくり休んでてください。一応メーデさんには連絡しましたから」
「こういう時はドンベルだろ?あいつを呼んだ方が良い」
「ドンベルさんは警察の関係者さんです。呼ぶわけにはいきません」
警視総監のデルタさんの件がある。極力警察の助けは借りたくない。メーデさんがいるから索敵から何まで平気だと思うが…
「メーデには予め、本気で挑むよう言っておる。あいつのことだから油断はしないだろう」
「それなら良かった。今回で捕まえちゃいたいからね」
「シャーガだ!シャーガも呼べ!」
「シャーガさんは身体が大きくて目立ちますよ…」
強さで言うなら煌牙組の方が良い。でも今回は見つけることと拘束することが目的だ。相手に悟られない為にも目立つのは避けたい。
「では、僕は行ってきます。くれぐれも死なないようにします」
「よし、頑張ってこい」
「俺も行くー!」
ケルトさんのわがままを無視して、僕は外に出る。まだ明るいが、今のうちから探しておきたい。
「ナビはあっちの方お願い。僕はメーデさんと集合する。ペグは僕と一緒に居て。何かあったら嫌だから」
「分かったわ。怪しいやつを見つけたら言いに行くわ」
そうして別れた。ナビは実体が無いし、除霊師とかに会わなきゃやられない。だから安心して任せられる。メーデさんとの集合場所に着き、待っていると、
「あれ?師匠!」
「ん?あれ、何でここに?」
小学生3人組の登場だ。こんな昼間に…と思ったが、今日は休日だ。
「俺らはちょうど遊んでる!師匠は?」
「僕は人を待ってる。今日は用事があるからね」
「用事って?」
「んー人探しってとこかな」
出来るだけオブラートに包み、何事も察しさせない。子供まで巻き込めない(僕も子供だけど)。
「俺らも手伝いたい!どんな人?」
「だーめ。能力者だと思うし、危ない人だから」
「尚更手伝った方が良いんじゃね?俺らがいればちょっとは有利っしょ!」
「そ、そうですよ。僕らも強くなったんですよ…」
この子達の優しさには心が癒される。でもダメだ。未来を潰すわけにはいかない。
「ダメって言ったらダメ。今から来る人も強い人だから、僕は平気。君達を危険に巻き込むわけにはいかないからね」
そう言って帰した。出来るだけ家から出ないように忠告を終えて。そうしたらすぐにメーデさんが来た。
「遅くなっちゃったわね。ヘビを操っていたらこんな時間になっちゃったの」
「大丈夫です!話はバクから聞きました?」
「ええ。全部聞いてるわ。顔が分からないのは難しいけど、もじゃもじゃした髪をしてるのよね」
「そうです。怪しい人とか誰かに襲い掛かろうとしてる人とかいたら、すぐに行きましょう」
歩きながらそんな会話をする。出来るだけ人が少ない道を選び、あいつが居そうな場所を探す。するとすぐに…
「イリウス君、見つけたわ。もじゃもじゃ頭で人を狙ってる」
「本当ですか!?今すぐ行きましょう!」
僕はメーデさんに着いていく。思いのほかメーデさんの身体能力が高く、屋根の上をスラスラと進んでいく。いつもはあんな感じだけど、本当はすごい人なんだと実感した。
「居たわ」
屋根から見下ろすと帽子を被った男がいる。はみ出てる毛がもじゃもじゃだ。女の人が襲われている。
「や、やめてください!警察呼びますよ!」
「おうおう、呼んでも良いぞ〜?その前に済ませちゃえば良いからな〜」
「…多分別人ね。殺意は感じられないわ」
そう言われつつも僕は降りる。スタッと床につくと、男の人も気付いたのかこっちを見た。
「誰だお前!」
「僕が誰かは重要じゃありません。あなたが目取りの殺人鬼ですか?」
「はぁ?目取り?」
「違うんだったら良いです。用はないので、一瞬で終わらせます」
僕は文字通り一瞬で終わらせた。囲を使って閉じ込めた後は女の人に警察を呼んでもらった。僕は再び殺人鬼探しに戻る。