第188話 ーー大人の話ーー
全てが静まった夜。冬なのもあり虫の音も聞こえない。僕はそんな中、ぐっすりと眠っている。
一方、ケルトさん達はそうじゃなかった。各々で音を立てないようリビングに集まり、小さい明かりを付ける。照らされた場所にあるのは、お酒やワイン、氷等で、晩酌する気満々だ。
「んじゃ、久々ですが始めましょうか」
「そうだな。今日も俺達の」
「頑張りを祝って」
「「「乾杯」」」
カランとグラスがぶつかり合う音がする。バクはワインを、ケルトさんとトラさんは瓶のお酒を飲んでいる。
「ぷはー。久々の酒はうめーな」
「子供の前でみっともない姿は見せられないからな」
「まぁそれはさておき、」
バクはつまみを食べ、真剣な眼差しで言う。
「話のネタは持ってきたか?」
それを聞くなり2人はニヤッとして、もちろん!と答えた。
「では、まずは俺から」
最初はトラさんのようだ。後から知ったが、この時間においての話のネタは何でもいい。盛り上がれるものならトラさんがバクをイジるのだって許されるのだ。
「俺のネタは、機械都市メカトリスで主が留守だった時です。あの時のケルトが、それはもう面白いことになっていましてね」
「お、お前それ言うのかよ…」
「イリウスを送って数時間、リビングの床に寝転んでゴロゴロと転がりだしました。何をしてるのかと聞くとじっとしていられないと」
「あれは…心配だったからしょうがねーだろ」
「そして問題は夜です。布団にくるまって泣いてたんですよ」
ケルトさんは顔を真っ赤にし、バクはぷふっと笑った。
「だってだって!あいつの心音が聞こえねーと不安っつーか、とにかく心配で仕方なかったんだ!」
「まぁその気持ちは分かるがの。お主が泣くって…ぷ」
「あの時は俺も笑ってられるほど穏やかじゃありませんでしたが、今となれば面白い話です」
「ちぇ。お前だって心配で寝てなかったくせに」
「あの時は本当に助かった。2人ともありがとうな」
この話にはルールがある。言い争いには発展させないこと。そして、問い詰めすぎないこと。これで成り立つのが、この談笑だ。
「そんじゃ、次は俺だな。こりゃあイリウスから聞いたんだがな。俺の記憶が無くなった時、トラはあることを言われて俺を殴ったらしいな」
「ん…?何か言われたか…」
「お前、まだ童貞なんだって?」
「なっ!」
やり返しかと思うくらいのカウンターが炸裂。トラさんもそれなりにダメージを受ける。
「おいおい、どうなんだ?400年生きててまだなのか?」
「…ああそうだよ悪いか!パッとする相手が居ないんだ!」
「やけになりやがったな。これが童貞か」
「うるさい!お前だっていつの間に卒業したんだ」
「お前と喧嘩した後だ。爺さんの元離れて、適当な世界行ったらモテモテになってな。知識とかなんもなかったが、本能的にやっちまったって感じだ」
この言葉にバクは首を傾げる。
「それ、子供とか出来てるんじゃないか?ちゃんと対策したんだろう?」
「対策?何の対策ですか?」
「こいつマジか…」
いまだに知らないケルトさんに酷く呆れている様子だ。
「お主な…もし子供が出来ていたらどうするのだ。シングルマザーは大変ぞ」
「えー知りませんよ。元々世界に籠る気なんてなかったですし、あっちだって承知の上でしょ。てか俺もうイリウスいるし」
「こいつは正真正銘のクズかもな」
「そんなに言うか!?獣人としての本能が疼いたんだ仕方ねーだろ」
「まぁ獣人は人間より三代欲求が抑えづらいらしいからの。多少は免除か」
真相は闇の中だが謎の団結力を高めたバクとトラさんだった。
「ご主人様はどうなんですか?800年で1番歳取ってるんですから1人ぐらい…」
「この見た目で言っておるのか?イリウスがホテル入って行くところ想像出来るか?」
「えーっと…」
「はぁー…我だって気にしておる。だが仕方ないだろう。イリウスとほぼ同い年で不老不死になったんだ。子供を相手にするやつなぞおらん…」
「まぁご主人様は仕方ねーか。それはそうとトラは早くしとけよ。ただでさえ初キス俺に取られたんだから」
「うるさい!」
やれやれとバクが面白おかしくその状況を見ていた。
「では、我の番ぞ。我はイリウスについてなんだがな。あいつ、この前墓を回っておったんだぞ」
「まぁやりそうですね。あいつのことだし」
「世界を跨いでまでだ」
「そう言いますと?」
「トランプの所まで行っていた」
「「!!!」」
ケルトさんとトラさんは思わず立ち上がる。トランプの墓と言えば別の世界へ行った上飛行機に乗らなければいけない。
「それ、平気だったんですか?」
「あぁ。無事に着いたさ。白骨化したハートとダイヤを見て、話しておった。こんなことがあった、あんなことがあったってな。死人にあそこまで楽しそうに話せるなんてあいつだけかもな」
「主がこっそり着いて行ったなら安心です。下手したら時差で大変なことになっていましたからね」
「んー。その辺は平気だと思うの。イリウスの神も四大神だからの。どうにかするだろう」
世界毎の時差。ほんの10分出かけたつもりが帰ってくると1年経ってるなんてよくあることだ。バクは人間界への特別権限で異世界に行った際、時差がなくなるようになっている。
「その後は…灰を降らせた奴の所にも行っていたな。見事な花畑になっておった」
「ったく。あいつは甘すぎんですよ。死人に口なし。何言ったって伝わんねーのに」
「だが幽霊も神もいる。もしかしたら伝わるかもしれないだろ。それに、お前が死んだ時、イリウスが来なかったら寂しいだろ?」
「そりゃあそうだけどよ…俺はどうせすぐに地獄行きだ。あいつには会えないだろうな」
「そう思ってるなら、これから善行を積むんだな。閻魔からも目を付けられなくて済むぞ」
「善行…ねぇ」
ケルトさんは本気で悩んでるみたいだ。それでもきっと、善行なんてしないんだろうな。
「人を殺さないってことは善行なのか?」
「それは普通であって善行ではない。考え方から直さないと、閻魔に連れて行かれるぞ」
「まっさか〜。生きてるうちに連れてかれるなんてそんなことありませんよ。ま、これはさておき。次のネタ行きましょ」
夜はどんどん更ける。3人の考え、笑い、貶す、そんな話はたまには良いものなのかもしれない。僕の知らないところでのお話。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「遂に来たね」
殺人鬼は今日、ローディアに来る。そう予想を立てたイリウス。どこに来るかまでは分からないから探すことになるが、果たして見つけることは出来るのか?
言うのが遅いな…俺は二日酔いが苦手なんだ。手伝ってやれんぞ。
次回「ーー周期ーー」