第187話 ーー急成長ーー
今日は久々にある人物と出会う。あの人達も忙しいんだろう。中々会う機会がなかった。リビングでのんびりしていると、家のチャイムが鳴る。
「あ、来たみたいです!ナビ達は初めて会うね」
「ちょっと怖いんだけど…」
ナビ達は不安がっていたが、僕は2人を迎えにドアを開ける。
「お久しぶりです!リュウガさんにドラル!」
「久しぶり、イリウスよ」「ドラ!」
懐かしの2人だ。
「そんでこんなことあってな〜」
「はっはっは。元気で良いじゃないか」
「ドラドラ!」
「離せドラゴン!」
「こーら!筆はそうやって咥える物じゃないー!」
ケルトさんはリュウガさんと、僕はドラルと遊ぶ。ドラルは竜の子で、まだ幼い。ちなみにドラルと名付けたのは僕(詳しくは第96話)
「んーしょ、んーしょ、はぁー…なんかドラル成長しすぎじゃない?」
「竜というのは子供の期間が短く、大人の期間が長い。子供でいるうちなんてすぐなんだぞ」
「なるほど…じゃあリュウガさんはもっともっと長生きってことですか?」
「はっはっは。そうだな。後1億年は死ぬつもりはない」
「い、1億!?」
竜というのは獣人とは桁違いに長生きだ。リュウガさんは笑っているが、本当に1億年も生きるとしたら、1人で寂しくないんだろうか。
「ドラドラ!ドーラルー!」
「うわ、ちょ、重いから登れないよ〜」
ドラルは体が大きくなったことに気付いていないのか、前みたいに僕の肩に登ろうとする。僕も成長したとはいえ、流石に重い。
「そんで、お前らはどうなんだ?」
「…無関心ではないが、最低限しか出来んな」
「えっと、何の話ですか?」
肩に掴まるドラルで体勢を崩しながら聞く。
「殺人鬼。協力してくれんならしてもらおうかとな」
「勝手なことしないでくださいよ!リュウガさんにはドラルもいるんです!」
「だが、いくらなんでも話さないのは無しなんじゃないかな?私はそう思う」
「リュウガさんまで…」
「私とケルトの状況は似たようなもの。どちらも一児の親だ。だからこそ、協力出来るのならしてあげたい。それに知っているだろう?私も強いんだ。頼ってくれ」
「ドラドラ!」
リュウガさんは少しも困ってなさそう。ドラルだってこの調子だ。でもやっぱり迷惑はかけたくない。どうにか引かせなきゃ。
「本当ですか?」
「何がだ?頼ってくれて全然…」
「本当に強いんですか?」
「ほう…?」
リュウガさんの目つきが変わった。もしかしたら強さを疑うなんて相当な侮辱なのかもしれないけど、それでいい。
「僕はまだ、リュウガさんの実力を見たことありません。本気になった僕を倒せるくらい、強いんですか?」
「はぁ…竜はな、プライドが高い生き物なんだ。狼よりずっとな。だからこそ…」
急に居なくなったと思えば床に押し倒されていた。
「少しイラっとした。すまないね。遺伝とか性質とか好きじゃないんだが、妙に従ってしまう」
「…ケルトさんには勝ったんですか?」
「まだその話をするのか?良い加減にしてくれ。子供に手を出すほど落ちぶれていない」
「…勝ったんですか?」
「おいイリウス、やめろ」
リュウガさんと喧嘩でも始めようとした時、ケルトさんが止めに入る。ドラルが震えながらアワアワしてる姿を見て、僕も正気を取り戻す。
リュウガさんも挑発に乗っていたものの、全部分かってるみたいだ。
「安心しろケルト。あのまま行っても、私はこの子とは戦わない。それにしても、少し驚いたよ。挑発なんてする子なんだとね」
「今ので、嫌いになりましたか?」
「はっはっは。親に似ていて良いと思ったぞ。最低限協力はさせてもらう。それに変わりはない」
ケルトさんと同じでしぶとい人だ。何言っても聞かない。それなら利用するしかない。僕はため息をつきながら確認する。
「具体的に何が出来るんですか?ドラルに危険は及ぼしたくないです」
「位置の把握とかはどうかな?探したい人間がいるなら、ある程度の範囲を指定してもらえれば探せるよ」
「竜玉ってやつですか。便利なものですね。でも範囲が分からないから厄介なのです…」
「それなら、分かった時に連絡をくれるか、戦力として私を使うかだ。安心しろ、生かすも殺すも君の自由だ。ドラルは君が預かってくれればいい」
「そう上手くいかない相手だと思います。今までずっと逃げ続けてるわけですから」
リュウガさんが戦力としてくるなら相当心強い。でも、ケルトさんが居てもこれまであんなんだったんだ。リスクの方がでかい。
「少し、席を外そう。相談すると良い」
リュウガさんはそう言って外に行く。その間に決めろということだろう。
「ドォラ、ドォラ。ド…?」
「ドラル、僕はどうすれば良いのかな。こんなたくさんの人に迷惑かけて、大変な目にあって、心配かけて。全部復讐のためだなんてさ。酷い人間だよね…」
全部自分でやると決めたことなのに。家族に、友達に頼らないと決めてたことなのに。今回も、前回も、最初だって、みんなに助けてもらわなきゃ勝てなかった。
「ドラァ!」
「ん、冷た…」
ドラルは両手を冷気で冷やして僕のほっぺを触った。言葉は喋らないのに、まるで僕に元気を出せと言ってるみたいだ。
「そうだよね。子供だから、頼っても良いよね。きっとみんなそう言ってくれるよね」
「おう。頼れ頼れ」
「ちょ、ケルトさん!?気配消してまで話聞かないでくださいよ!」
さっきからいる気がしなかった。でも、これで決意が固まった。
「どうだい?決まったかい?」
「はい!リュウガさんには捜索と情報収集をお願いしたいです」
「情報か。具体的にはどんな?」
「警察さん達の動向を調べてほしいです」
「それは何故?」
「…勘です。どこかで、邪魔される気がします」
リュウガさんはポカンとし、ケルトさんはがははと笑っていた。あんなに理屈たらしい僕が、勘だなんて言い出したんだ。そんな反応にもなる。
「分かった。承ろう。怪しい動きがあったら連絡する」
「お願いします」
そう言って、リュウガさんとの会話ターンは終わった。その後はドラルとの遊びに必死だった。
「全く、イリウス君、最初と変わりすぎじゃないか?」
「まぁな。色々あったんだよ」
「それは良いが…成長は順を追ってするものだ。急成長は良いことではないぞ」
「分かってんよ。だからお前の力を借りるんだ。使えるもんは使う。それがあいつのためだ」
リュウガさんは不安そうな顔をしていたが、ケルトさんにそれは届かない。ドラルはこんなに無邪気なんだ。巻き込むわけにはいかない。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「ぐぅ〜すぅ〜」
イリウスが寝静まる夜。3人の時間が始まる。継がれた酒は旨く、ワインは数百年ものだ。つまみを用意し、暗い中で集まった3人の話の中に入っていこうと思う。
僕の出番無しです。主人公なのに。お子様は見ない方が良いのです
次回「ーー大人の話ーー」