第181話 ーー腐る 前編ーー
「勇者さん達、厄介ですね…」
一応剣でやり合えてはいるが、それでもほんの少しだ。後ろから魔法なり弓なりの援護、もう1人の大剣使いからのたまにくる大技、だいぶきつい。
「おーらよっと!」
ペグは魔法を描いて攻撃してくれてる。主な攻撃先は魔法使い。
「ポルターガイスト!」
ナビはポルターガイストを使って弓使いの弓をズラす。姿が見えてないだろうから厄介なはずだ。
この2人がいるから何とか戦えてるだけで、足止めする人が居なかったら連携でやられていただろう。僕も僕にしかない『能力』を駆使して、勇者達を追い込む。その時、
「_#j…m1☆…〆%>…€」
「何か、話してる…?」
この油断がまずかった。この勇者は、俗に言うスキルを発動させた。目に見えない斬撃が、僕の脇腹を切り裂いた。痛みで跪きたくなったが、すぐに大剣使いの攻撃が来る。それを交わしながら、上手く距離を取った。ケルトさんの血のおかげで傷は治っていく。でもこれが使えるのも限度がある。
「あんな技使えたんだ。ほんと面倒だね。まだ何か隠してそうだし、あんまり攻めたことはしたくなかったんだけど」
そうして僕は、『その物の歪み』を使う。ゾンビなだけあって、遠くにいればほとんど動かない。身体全体を歪ませると、腕が、腹が、足が、グチャグチャと音を立てて曲がっていく。いつ見ても恐ろしい技だ。あの状態になったらもはや剣なんて振り回せない、そのままビームで焼き殺して終わりだ。
「イリウス!こっちも…あ、あんがと…」
神力の消費が激しいからやりたくはないが、最終手段としては全然ありな技だ。ナビとペグにも加勢して、勇者パーティゾンビは全て倒した。
「今度こそ終わりだ。お前自体に戦う力なんてない。腐らせる力は時間をかける物だから」
「…まぁ、あいつを追いかけるだけあるってことか。そう、時間をかければ腐る。自然の摂理だ。だから俺の勝ちだ」
僕とトラさんの身体が腐り始める。理由は分からないが、ケルトさんとバクは腐っていない。
「一緒に居た時間が長い者は腐る。分かってたんじゃないのか?」
ニヤニヤしながら僕にそう言った。生きてる人間も腐らせるなんて想定外だ。何でトラさんがと思ったが、そういえば街中で会ったと言っていた。それだけでこんなに差が出るなんて。
「イリウス!このままじゃゾンビになっちゃうわよ!」
「分かってる!どうにかしなきゃいけないことも分かってる!」
どうしよう。身体の腐りを止める方法は、腐ってる部分を切り捨てる?無理だ、広がりすぎてる。ケルトさんの血で耐える?無理だ、催眠からだって守れないんだ。身体の腐食を止めないと、このままじゃ…
「一か八か。僕の歪みは概念すら歪ませる。身体が腐るくらいなら…!」
「イ、リウス?どうしたの?」
うずくまってたみたいだ。ちょっと無理しちゃったからかな。でも身体の腐食はなくなってる。
「どうなってる…?何で俺の腐食が消えてるんだ。おい、何をした?」
僕は冷たい目を向けて、スポイルに言った。
「お前に話すわけないだろ。これから死ぬやつに」
明らかに様子が変わる。ナビもペグもそれに気付き、焦り始める。
「ちょっとイリウス。殺すんじゃなくて捕まえるのよね?」
「何言ってんの?こんなにたくさんの人を犠牲にした。こいつを許して良いわけない。殺す」
「おい、どうしたんだ!お前なんかおかしいぞ!」
「ふーむ。さっきと打って変わって態度が変わったな。態度というより考えと言うか…」
スポイルは下を向き考えた後、僕を見て笑い出した。今すぐにでも殺したい。こんなやつ、早く殺したい。
「あーはははは!!!面白い、面白すぎるぞ小僧!お前、『身体』の腐食を『心』に移したな!」
「どういうことよイリウス!」
「僕の歪みは概念すら歪ませる。身体と心の狭間、境界を歪ませた。あいつの力が身体を腐食させる力なら、僕に対しては心を腐食させる力にしたってこと」
「つまり、お前の心が腐ってるってことか?だから殺すなんて言ってんのか…?」
大丈夫。心は腐っても、罪のない人を殺すほど堕ちてない。殺人鬼も、協力者も、みんな悪だ。悪は殺さなきゃいけないんだ。ピカソもエアスも殺してせいk…
「ダメ!!!そんなのダメ!!!」
「目を覚ませイリウス!お前は復讐に屈しないんじゃなかったのか!」
「大丈夫。良いから僕に任せてよ。身体も動く。迷いもない。心置きなく殺せるからさ」
そんな僕の様子を見て、スポイルは笑みが溢れている。今までの笑いとは違う。抑えようと思っても抑えられていないような笑顔だ。
「あぁぁぁぁ。お前、良い目で俺を見るな〜。そんな目で見られたら、この先を想像したら、お前に
殺されたくなっちまうよ」
「本物の狂人ね。自分の命よりも、イリウスが苦しむ様を想像して興奮してる…」
「イリウス、あんなのに乗せられちゃ…イリウス!?」
僕は関係なしに突っ込む。護衛は居ない。ただまっすぐ、剣を振りに行けば良いだけだ。あいつは首を出して待ってる。防御する気もない。
「これで終わりだ」
満面の笑みを見ながら、首を切るため神器を振るう。
だが、僕の神器は弾き返された。原因はすぐに分かった。
「どうして邪魔するの?ペグ」
空中に描かれた壁。これに突っかかったんだ。描いたと言うより、絵の具を飛ばしたんだろう。
「お前に、殺させるわけには行かねー。ピカソなら、そうすんだろうな」
「ポルターガイスト!」
僕が固まってる間に、ナビがポルターガイストで剣を持っていく。神器なんてすぐ出し入れ出来るのに、
「2人とも、敵になるの?」
「あなたを想ってるからこんなことしてるんでしょ!早く目を覚ましなさいよ!」
「うるさい。僕はこいつを殺す。何度邪魔されようが、諦めない」
「それで良い、俺もお前に殺されたくてしかねーよ」
こいつの顔を見てると腹が立つ。今すぐに、殺してやる。
一方トラさん側では、
「ぐっ…!目覚ませやトラ!」
「あや…つ…られてる…身体が…言うこと聞かねー!」
「腐った上指示を出されたか。完全に腐り切る前にどうにかせんと」
大量のゾンビにトラさんゾンビが加わって大変そうだ。