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第179話 ーーゾンビーー

「ただいま帰りました」


「おう、イリウス。なんか掴んだか?」


「………いえ」


 やってはいけないことだと分かっていても、嘘をつかざるを得ない。後で怒られるのは承知だ。でも、どこに目があるか分からない中、こうするしかない。


「そういえば、スポイルとやらに街中で会ったぞ。相変わらず国民に人気な様子だった」


「そうでしょうね。あの人は良い人ですから」


 僕を不審がる目は、ケルトさんだけでなくバクからも感じた。お察しの通りかもしれないが、犯人は既に分かっている。ナビが見ていたんだ。僕の一部始終からあの2人をゾンビにしたやつの顔まで。明日は朝イチで行かなければいけない。


「では、今日は早めに寝ます。色々あって疲れちゃいました」


「そうだな。明日には家帰るからな。何も見つかんないなら仕方ねー」


「イリウス…」


 バクは僕に何かを言おうと立ち尽くす。じっと見つめられるが、動揺しない。


「ん?」


「………おやすみ」


「…うん、おやすみ」


 圧をかけられた。お前1人で行くなと。ごめんね、バク。



 朝が来た。身体が重いけど、行かなきゃいけない。大丈夫、僕にはペグもナビも着いてるんだ。

 昨日も来た城の門前。僕はその場に立ち尽くし、覚悟を決める。


「入らせてください」


「外部者の侵入は固くお断りしております」


「中の人に用があるんです」


「外部者の侵入は固くお断りしております」


「…あなたの年齢は?」


「外部者の侵入は固くお断りしております」


 予想通りだ。頭の装備を神力で外すと、中には腐りきった頭が出てくる。


「この門番も腐ってたね。恐らく何らかの条件を元に正確な指示が出来るゾンビを作れるんだろうね」


「うわぁ。よく匂いが漏れなかったな」


 装備はガチガチに構造されていて、生きている人だったら空気を吸いづらいだろう。そのまま中に入って、広い廊下を歩く。すると、


「ちょっとちょっと、少年。困りますよ。勝手に入ってもらっては」


「おはようございます、スポイルさん」


 正面から駆け足でやって来たのはスポイルだ。こいつが全てを知っているはずだ。


「門番は…」


「ゾンビでしたね。あなたなら分かってるんでしょう?」


「…なるほど。それについてですか。何度も言いますが、殺人鬼なんて知りませんし、私にそんな力ございません」


 その言葉に嘘はない。心音が一切変わっていないから分かる。だからこそ、


「あなたじゃなくて、王様でしょう?」


「…さぁ。どうしてそう思ったのですか?」


「まずはゾンビ化の力です。これは死人にしか付与出来ないんでしょう?だから中と外に分けて、外で死ぬのが当たり前の環境を作った。それで出来た死体でゾンビを増やしていた。それの為に中と外で大きな格差を作っていた。

 ただ、それだと中を作る意味がない。死体だけならいくらでも増やせるのだから。でも、ここで問題が発生する。人々はその場に留まらないんじゃないか、だ。死体を増やすなら一度にたくさんが良い。わざわざ遠くに行ってまで増やすなんて手間でしょう?だから街という『目標』を作った。国を作ったものにしか出来ないことだ。

 二つ目はあの門番だ。ゾンビは基本意志が無く、敵味方関係なく襲うもの。それが丁寧に喋って侵入者を防ぐなんて、随分と良く出来ている。条件を揃えて指示を出したんでしょう?それは恐らく、【忠誠を誓うこと】。王に忠誠を誓ったものは、王にゾンビ化されても指示に従う。そんな所でしょう。そしてそれは、あなたにも着いている。その顔の腐り方、王にやられたんでしょう?これらが証拠です。」


 我ながら良い推理だ。いずれも国を管理しているものにしか出来ない所業、犯人は1人しかいない。


「着いて来てください。王の間まで案内しましょう」


 スポイルはそう言って、僕を王の間へと連れていく。中に入ると、長いカーペットの先の椅子に、王が座っている。


「失礼します。この者が話があると」


「初めまして王様。今回はあなたに、殺人鬼について聞きに来ました」


「殺人鬼…?なんだいそれは」


 とぼけているのか。いいや違う。


「あなたの力、ゾンビを生み出す能力を使い、目取りの殺人鬼に協力していることについてです」


「何を言っているか分からんが…」


 王は変わらず分からない顔をしている。僕が別の言語を喋っているようだ。


「では、私は失礼致します」


「待ってください。あなたも居ないとダメです」


「はて?それは何故?」


「そんなの決まってるじゃないですか」


 僕は王の前まで行き、振り返りスポイルを見る。


     「あなたが犯人なんですから」


 始めからそうだ。分かっていた。ナビが見た顔も、どこからどう見てもスポイルだったんだ。


「はぁー。何故こんなことを?」


「犠牲は少ない方がいい。それが僕のモットーです」


「俺が犯人だと証拠は?」


「顔を見ました」


 スポイルは面倒くさそうに頭をかく。僕はそこに畳み掛ける。


「あなたがこの国を裏で操っていた。そうでしょう?」


「何でそう思った?」


「王様がみんなに手を振っていた時、あなたは僕達を見つけて前に出て手を振った。これってどうなんでしょう。まるで王様より自分の方が立場が上かのような立ち回りだと、僕は思いました」


「俺は嘘をついてなかったんじゃないのか?あの獣人が言ってただろ」


「心音の話ですね。ケルトさんはあなたの普段、つまり本心を話している時の心音を知らない。敬語、歓迎、そしてあの話まで、全て嘘だとしたら心音は何も変わらない。本心と同じだ。そこで勘違いが起こってしまったんです」


 スポイルはどんどんと気品を無くしていく。偽りの笑顔も取り外し、本当の顔が見えてくる。


「なるほどな。二つ、間違いがある」


「…?」


「一つ、指示を出すのに条件はない。数が限られているだけだ。そして二つ、国を作ったのは俺がこの汚い世界で生活しやすくするためだ。それにたかってきたのがあのハエどもだ。結果的に良いものになったが、バレたならしょうがねーな」


 地面に手をつき、降参でもするのかと思ったがやはり違った。床から壁、天井まで、空間が崩れていき、真っ赤な空間になる。スポイルの後ろには大きすぎる檻がある。その中には…


「ゾンビがこんなに…」


 僕はこいつに勝てるかの絶望よりも、何よりも怒りが湧き上がった。


「お前は一体、何人の魂を弄んだ!スポイル!」


「さぁな。死体の数なんぞ、数えちゃいねーさ」


 戦いが幕を開ける。


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「ちょっときつい…」


 ついに正体を表したスポイル。そのとてつもない勢力に、イリウスは押されてしまう。それでもイリウスは戦わなければいけない。この人達を、ゾンビ達を解放する為に。

 スポイル、お前は絶対に捕まえてみせる。


         次回「ーーたくさんの者ーー」

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