第177話 ーースポイルーー
「だから!この中の人に用があるんです!」
「外部者の侵入は固くお断りしております」
お城の中に入ろうとした所、門番達に止められた。スポイルに用があるのにこんな所で止められるなんて。
「なぁイリウス。流石に諦めようぜ。城ん中入んのは無理あるって」
「でも…」
後でこっそり入ろうぜと提案してくるケルトさんだったが、一度見つかれば2度とこの街に入ってこれないだろう。リスクは避けたい。
「一体全体何の騒ぎですか?」
奥から声がしたかと思えば、門番の人達は跪く。ローブをした男の人が階段の上から見下ろしている。
「これはこれは。お客様でしたか。丁重に扱えと言っているんですがね〜。どうぞお入りください」
「歓迎してくれるんですね。僕らが何者かも分からないのに」
「少なくとも、国民達の不安の原因にはなりたくありませんから。王は傲慢であるべからず。それが平和の秘訣です。私は王じゃありませんがね」
どこかへ向かう途中の廊下。僕は立ち止まる。
「じゃあ、あなたは誰なんですか?」
僕の質問に、その人はローブをめくりが顔を見せてこう言う。
「私は『スポイル』。王の直近をやらせてもらっています。王にはお合わせさせられませんが、私にならなんなりと」
顔の半分が腐ったようになっている。髪が抜け、肌は赤くなっている。目の周りだってゾンビみたいだ。こいつがスポイルで間違いない。
「じゃあ質問です。目取りの殺人鬼、ご存じでしょう?」
「…さあ?一体どなたか存じ上げません」
「エアスから聞いたんです。あなたの名前を。あなたは人をゾンビにする力がある。それをどう使うかは知りませんが、殺人鬼の情報を持っているなら、今すぐ…」
「うーむ。知らないと言っているでしょう?考えてみても誰だかさっぱりです。それとゾンビにする力、でしたっけ?私にそんな大層なものはありませんよ」
案内された部屋にはお菓子や紅茶が用意されていた。本当に歓迎しているようだ。
「では、ごゆっくり」
スポイルはそのまま去ってしまった。僕らはその内に話し合う。
「いきなりボスの登場だな。だが一個気になった。あいつ、嘘ついてねーぞ」
「心音ですか?本当に分からんですか?」
「まぁな。殺人鬼について聞かれた時も焦る様子がねーし、エアスの時も同じ反応だった。もし嘘をついてるんなら心音が変わるはずだ。この菓子も毒すら入ってねーしな」
言われてみればそうだ。あいつの仕草にもおかしな様子はない。僕の目をしっかりと見て、しっかりと答える。何がどうなってるんだ?
「だとしたら、二重人格とか。可能性はあるの。表は王の直近で国民達の人気を得る人物。裏はゾンビを生み出して殺人鬼に協力する人物」
「だとしたらどうするんだ?あいつを捕まえるのか?」
「裏の人格を出させて話してもらいます。捕まえるのはその後でも」
二重人格…それは考えていなかった。もし片方が良い人なら、僕は良い人を捕まえなきゃいけなくなるのか?それは…
「ねぇイリウス。エアスの情報が本当だとも限らないんじゃない?」
「どう言う意味?」
「エアスが嘘を言ったのかもしれないってことよ。少しだけ追ったけど、本当に悪い様子はなかったわ」
僕は迷う。エアスが嘘の可能性だって否定出来ないんだ。どうすれば良いんだ…
「お客様方、お話の最中申し訳ありませんが、王が城の中を散歩する時間になりましたので、お帰りいただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わん。行くぞ、イリウス」
「うん…」
絶対にスポイルの本性を暴く。そう思って部屋を出た。この街を一通り散策して分かったことは、スポイルの言った通り、平和だということだ。誰も不満を感じず、頑張った分だけ褒美が出る。努力の出来ないものは外で暮らせば良い。その自由さが平和の元なのかもしれない。
「私には、あの人が殺人鬼と同じ悪人には見えなかったわ。街も綺麗だし、国の運営がしっかりしてる」
「そうだね。エアスが言ったことが嘘だと思いたくないけど、あいつが殺人鬼に協力している時間はない」
もう一度城の前に行くと、王が手を振って挨拶をしている。その後ろにはスポイルが。僕の姿を見つけるなり、手を振って挨拶をしてくれる。
「でも、もう少し調べてみる。僕はスポイルも信じたいけど、エアスも信じたい」
悪人は居ないほうがいい。でも、心のどこかで、こいつが殺人鬼への鍵になって欲しいと思ってる僕がいる。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「一度外に行ってきます」
どうしても証拠を掴みたいイリウス。その中で謎に思っているのが中と外で分けている理由。中になくても外にあるかもしれないと言うことで外で調査することになる。
イリウス、あんまり気に留めすぎないで欲しいわね。あの子は優しいから。
次回「ーー外ーー」
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