第175話 ーーダストーー
「いつまでものんびりはしてられないですね」
「そうね。そろそろ再開するべきだわ」
目取りの殺人鬼。何人も人を殺し、今もなお殺し続けているやつ。僕の両親もこいつに殺された。いつまでものんびりと日常を過ごすわけにはいかない。次の敵、腐食屋「スポイル」との戦いへ行かなければ。
「ケルトさん。異世界ダスターに行きたいです」
「…行かなきゃダメなのか?」
「はい!」
ケルトさんは悲しそうな顔をする。今までの分を数えても、その顔を見る回数は両手で収まり切るほどだったのに。僕が殺人鬼を追い始めてから、両手じゃ足りなくなった。
「分かった。ご主人様達を呼んでくる。多分知ってるだろ」
「言われなくとも聞いておる。異世界ダスター、通称ゴミ山世界だ。あらゆる世界のゴミがそこに集まり、どうしようもないゴミだらけになってしまった」
「臭いってことですね。鼻栓でも持って行くか」
流石はバク、話が早い。こんな僕についてこさせちゃって申し訳なくなるが、黙って行くよりはマシだろう。
「じゃあバク。お願い」
「あぁ。行くぞ」
バクが手を伸ばすと、そこに異世界への扉が開かれる。四大神に憑かれたバクは、行ったことのある世界ならどこへでも行けるのである。
そうして足を踏み入れると、いきなりとんでもない匂いが襲って来た。
「ぐっ…臭いです…」
「おえ〜。生ゴミを夏場で1ヶ月放置したみたいな匂いだな。こりゃ笑えてくるぜ」
もう色んな匂いが混ざっている。腐敗臭に生臭さ、糞尿の匂いからガスのような匂いまで全部。頭がおかしくなりそうだ。
「それで、この世界のどこにおるんだ」
「分かんない…探すしかないよ…」
こんなことなら…と思ったが何をしてもダメそうだ。歩くたびにカラカラと何らかのゴミを踏む。紙やら缶やら色々だ。どうしてこんなことになったんだろう。
「人も住んでるんですね。ホームレスみたいな感じですが」
「この世界は『外』の連中と『中』の連中に分かれている。ひとまず『中』行った方が良かろう」
中と外、何を言ってるのか分からなかったが、すぐに知ることとなる。バクに着いて行くと、すごい行列が見えて来た。何の列だろうと先を辿ると、そこにはドーム型の建物がある。
「あれは?」
「この世界の街と言ったところか。異臭もゴミもない、それなりに良い場所ではある。あそこだけはな」
「とりあえず行きましょうよ。鼻がひん曲がりそうです」
「そうだの。だが何か見落としているような…」
バクはそんなことを言っていたが、僕らは列に並ぶ。この世界の住人なのかボロボロの服を着ている人や、別の世界から来たであろう綺麗な服を来た人が並ぶ。行列にならんでしばらく経ったころ、僕らに話しかけてくる人が居た。
「そこの人達、ちょいと良いですかな?」
「ん?僕らのことですか?」
「そうだよ坊や。チケットを持ってないようだけど、この世界は初めてかい?」
「あ…」
バクはチケットという言葉に反応した。もしかして入るのにはチケットが居るのか。
「持ってないんだったら入れないね〜。諦めないと出禁にされるよ」
「くそ…永久パスを買ったのに忘れていた…一つあれば皆で入れるものだったんだがの〜。取りに戻るか…」
「そのチケットってどこで買えるんですか?」
「あ、こらイリウス」
急いでるわけじゃない。でも、出来れば戻りたくはない。グダグダしちゃいそうだし。
僕の言葉におじいさんはニヤッとした。始めからそれを狙ってたように。
「着いてきな。特別価格で売ってあげるよ」
そう言われて着いて行く。何かあってもケルトさん達が居るから平気だろう。
着いた場所は相変わらずのゴミ山。その中に布を使った簡易的な家のようなものがある。中に入ったかと思うと、鍵の付いた箱を持って来た。おじいさんは箱を開けると、中にはチケットらしきものが。
「今なら特別に2割引。一枚8000ローで良いよ」
「金の換算はローディア方式なのか?この世界の方式じゃなく?」
「ローディアから訪れる客が多くてね〜。基本はローでの支払いにしてもらってるのさ。それで、どうする?」
僕は考える暇もなく、すぐに答えた。
「全然お得じゃないです。もはや詐欺です」
「なっ、どうしてそう思ったのかい?初めてだろう?」
「もう一つの列が見えたんです。ほとんど反対側だから何の列か分かりませんでしたが、きっとチケットの列でしょう。チケットの値段は知りませんが、あなたからは人を騙す気配がします。本当はもっと安いんじゃないですか?」
「…そうだよ。こっちも商売なんだ。ずるいかもしれないが、この世界で生きて行くにはこれしかないんだよ。頼むから言いふらさないでおくれ」
どうやら正解だったようだ。怪しいとは思っていたが、ここまであっさり認められるとは。そのまま固まっていると、ケルトさんがお金を出した。
「列に並んでる時間はねー。チケットだけじゃなく、この世界の情報も付け合わせでこの値段を払ってやる。文句ねーだろ?」
「…は、はい!」
ゴミ山にいる人は、みんな目が死んでいる。この世界の過酷さを表しているようだ。ケルトさんも分かってて払ったんだろうな。
「そんで、中にいる王ってのは何者なんだ?」
「それは私にもさっぱりです…ただ、外と中に分けた人物なのは間違いありません」
「ふーん。最後に質問だ。『スポイル』ってやつ、知ってるか?」
「…?スポイルは王の直近です。執事のようなもので、仕えているようです。どうしてその名を?」
敵の居場所は分かった。あとは行くだけだ。でも色々気になることはある。
「どうしてこんなゴミだらけなんですか?どうして中と外に分かれてるんですか?」
「この世界は色んな世界のゴミが集まって来ちゃってね…捨てられないからってホールに捨てるやつがいるのさ。分けられた理由は知らないね〜。都合が良いからじゃないかい?」
「都合が良い…」
まだまだ知らなきゃいけないことはありほうだ。でもひとまず中に入る所から始まる。僕らはチケットをもらい、列へと並んだ。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「外とは大違いです」
チケットのおかげで無事に中に入れたイリウス達。中は外とは比べ物にならないほど綺麗で、まるで別の世界だ。この綺麗を保つためだけに、外と中を分けたのだろうか?
ん?んん?食べ物の匂いが分からん…これじゃあ料理が…
次回「ーー中と外ーー」
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