第173話 ーーアイドルーー
「みんなー!今日も集まってくれてありがとー!」
「「「「「「「「「うおー!!!」」」」」」」」
遂に始まるライブ。会場の熱気は恐ろしくなるほどだ。この後に及んで逃げんことなんて出来ない。僕は裏で高鳴る胸を抑える。
「そしてこっちが、今回私達とコラボする新しいアイドルの卵!イリウスちゃんでーす!」
「こ、こんにちはー!…」
場は静まる。もしかして予想以上に刺さらなかったとか?僕そんなに悪かった?って言うかどうしようすごく気まずい。これもしかして失敗…
「「「「「「「「「うおー!!!」」」」」」」」
「あの子が新しいアイドル?可愛い…」「スタイル良いし最高じゃん!」「あの子どこ所属かな…」
想像以上に好評だった。正直女装なんてすぐバレるものだと思っていたが案外バレないものだ。僕は緊張感が高まる中、歌って踊る。最初から容赦なんて無しだ。僕が真ん中を張って振り付け通り踊らなければならない。
(これめっちゃ緊張する…ちょっとやばいかも…失敗したらどうしよう…)
そんなことを考えながらも一曲目を完走。疲れてるわけでもないが冷や汗でいっぱいだ。
(って言うか何でケルトさんVIP席で傍観してるの。僕がこんな大変なことになってるというのに)
ペンライトを振って傍観していたケルトさんに怒りが湧く。歌ってる時「イリウス〜」とか言ってたし。でも怒ってる暇はない。次が問題の曲だ。
「じゃあ行くわよ〜♡!『アマイ夢♡』!」
そうして曲は始まる。踊りの振り付けも覚えてるし、全然問題なさそうに見えるだろう。しかし問題はこれからだ。そう、この曲のサビには僕のソロパートがあるのだ!新人にサビのソロパートやらせちゃダメでしょ!
「落ち着いてイリウス。成功するわ」
マイクに音が入らないよう、耳につけるイヤホンとマイクの融合体みたいなやつだけにミナミさんからコソコソと話された。それをはじめにメンバーの人みんなから励ましの言葉を貰った。僕は覚悟を決めて、来たるサビ。大きく息を吸い、まるでいつも家に居るようなイメージで。
「輝く夢で満ちる 美しい日々が映る
何度でも 何度でも 私が送るわ ずっと
心が満ちる 華やいだ未来を映す
いつまでも いつまでも
見せてあげる アマイ夢」
(やるじゃない♡)(流石私が見込んだだけあるわね!)
見事に歌い切ってみせた。楽にするため振り付けが無かったから歌に集中できた。
(やった…これで今日のライブは普通にしてるだけ。他には危険な展開とかないし、僕はやりきったんだ…これで…!)
僕は緊張が解けたお陰か、力が抜けてしまった。持っていたマイクが床に落ちる。ゴンゴンと床に当たる音が、歌の中に入ってしまう。急いで能力を使って拾った。アイドルのみんなは歌をやめていないが、観客側にはバレている。
「今のって…」「ライブ中にミス?」「マイク落としちゃってるよ…」「コラボイベントなのに初めてのライブ…とか?」
変な注目を浴びてしまった僕は振り付けもぐちゃぐちゃになる。みんなが僕に注目してしまった。涙が出そうになったその時、
「輝く夢で満ちる 素敵な日々が溢れる
何度でも 何度でも〜」
アツメさんのソロパートだ。僕は涙が引っ込んだ。その歌声は確かにすごいが、そこじゃない。僕に注目していた人達は、みんなアツメさんに夢中なんだ。これがアツメさんの能力…
「イリウス、諦めちゃダメよ!」「しっかりしろイリウス」「ぜ、ぜぜ絶対に成功させましょう!」「まだまだ始まったばかりだよ!」
足手まといの僕を見捨てない励ましの言葉。僕はそれら全てに救われた。振り付けも思い出し、完璧の踊ることが出来た。
そうしてライブ後。
「はぁーつっかれたー」
「こらミナミ♡。だらしなくしないの♡」
「良いじゃん良いじゃん。記者の人達はいないんだし」
5時間ほどぶっ続けでライブをやった。僕ももうクタクタだ。
「イリウス君。今日はありがと♡」
「失敗しちゃって申し訳ないです…」
「良いのよあのぐらい。ヒナなんて最初の頃は歌詞ド忘れして口パクだったこととかあるのよ」
「わ、わわ、言わないで下さいよ〜」
みんなが明るくて良かった。僕はアイドルの衣装からいつもの服に着替えて、メイクを落としてもらう。
「そういえば、アツメさん何か話そうとしてませんでした?」
「あら、覚えてたの?私のお母さんの話よ♡」
「ちょっとアツメ…」
「良いの。この子には話してあげたいのよ」
メンバーみんな不穏な顔をする。僕はこの時点で嫌な予感がしていたが今更引き下がれない。
「私のお母さんね。アイドルだったのよ。それでね、殺されちゃったの」
「……」
予想はしていた。理由は知らないけど、恐らく…
「ライブの最中に、能力者に殺されたわ。お母さんは能力者じゃなかったんだけどね。私を産んだことが明らかになって、本気で恋をしていたファンが心中したの。そんな理由で、お母さんは死んだの」
「…私達も、殺される覚悟を持ってアイドル業を営んでる。でも、ただで殺されるわけにはいかないの。アツメのお母さんみたいに、未来のアイドルに夢を見せてあげたいの」
「子供の時にそう誓った。アツメ以外は元々孤児だったからな。だからイリウス、本当にありがとう。イリウスがこの舞台を楽しめたなら、あたいらの本望だ」
孤児、という所で親近感が湧いた。アツメさん”も”親を殺されている。とても他人事とは思えない。この人達には、どうか夢を叶えてほしい。
「今日はありがと。これ、報酬よ。家に帰って開けてね」
渡されたのは小さな箱だ。何が入ってるのか気になったが我慢した。
みんなとお別れして、片付けを手伝っていたケルトさんと合流した。
「いやーイリウス凄かったぜ?一瞬で写真フォルダいっぱいになっちまった」
「今すぐに消してください!」
そんなこんなで家に着いた。僕は報酬を確認すべく中身を開ける。中にはアイドルAMEMITUのメンバーみんなが着けていたピアスが入っていた。それも片っぽ。周りには何か書かれたカードと手紙が。
「えーっと。あなたにピッタリだと思ったので私のを片方あげるわね♡。来たかったらいつでもおいで♡。カードの方は…ファンから?」
どうやら今回のライブで僕のファンが出来たらしい。もうライブはやるつもりないけど…。でも、ファンからのメッセージはどれも心温まるものばかりだ。ピアスはまだ着けられないけど、いつかは着けてみたいな。
「そういえばケルトさんは何貰ったんですか?」
「金。時給3000ローでめちゃくちゃ高かったぞ」
「夢も何もないですね…」
僕に甘い夢を見せてくれた、そんな日だった。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「初めてだけど2回目ですね」
今日は12月1日、トラの誕生日だ。イリウス達は着々と祝う準備をしていたが、あることに気付く。そう、イリウスはお小遣いがない。家系はトラさんが管理してるからプレゼンが買えないのだ。
トラの誕生日は祝ったことはあるぞ。確か100年前ほどかの〜。あの時は色々あって……
次回「ーートラさんの誕生日ーー」
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