第167話 ーー秋の終わりーー
爽やかな風が通り抜ける。窓を開けると寒くなってしまう。僕は体を震わせながら窓を閉める。ナビとペグは寒さを感じなさそうで良いな〜。
リビングへのドアノブに手を伸ばした時、下の隙間からの冷気に気付く。意を決してドアを開けると、
「おうイリウス!今日も暑いな!」
筋トレ後なのか、汗を流しながら窓辺に立っている。何やってるんだこの人。
「ケルトさん…もう秋も終わるんですよ?こんなに寒いのに窓全開とかありえないです」
「うぇ?マジ?まぁ獣人だし勘弁してくれよ〜」
「自分の部屋でやってくださいよ。僕風邪引いちゃいますよ?」
仕方ねーなみたいな顔をしながら窓を閉めてもらう。僕が来た時からキッチンに居たトラさんがお茶を淹れてくれる。僕はそれを飲みながら「秋」を振り返る。
始まりはやっぱり秋旅行だろう。色んな世界の色んな景色を見た。最初は滝が見えるすごい良い景色の旅館に泊まったな。温泉は何種類かあって、全部入ってぜんぶ気持ちよかった。あ、そういえば温泉で殺人事件が起きたっけ。
数ある温泉の一つで起きた殺人事件。僕はその推理をする探偵ぶって容疑者を集めた。最初こそ謎が残ったものの完璧な推理をする。
犯人は女将さんだ!と自信満々に言った所で、殺されたはずの被害者がタオルを巻いて現れる。幽霊かと思ったが生きていたようだった。どうやら、長風呂しすぎてのぼせてしまい、神器を杖のようにしていたら謝って腹を貫いてしまったよう。そのまま頭を打ち気絶してしまったが、本人の能力が回復系だった為すぐに治して僕らの元まで来たようだった。その後頭を地面に押し付け謝罪し、許してもらった。
「これはトラウマ物ですね…もう2度と探偵ごっこはしないです」
「はっはっは。まぁあれはあれで良い思い出だろ。見てる分には面白かったぜ」
「生きてるの気付いてたのに言わなかったケルトさんも悪いですよ…」
殺人事件の次はやはりピカソだろうか。目取りの殺人鬼の協力者、ピカソ。絵を描き、その中に入ったり実現化したりする。僕らが訪れた美術館にてピカソの作品があり、そこで正体を知ることになる。絵の中に描かれたピカソは全て本人であり、倒す為には全ての世界の絵を破壊しなければいけなかった。ピカソは有名画家でもあるため、作品数は数知れず。考え込んでいたが、何かを抱えていたのがバク達にバレて、全て話した。本当は見捨てられてても文句言えなかった。でも、3人とも僕に協力してくれて、何とかピカソに勝つ。話を聞くことに成功したが、ピカソ自体も殺人鬼の正体についてはそこまで知らなかった。ピカソは僕に、「自分を嘘で上塗りしてはいけない」、そう言い残して自分の涙で絵の具として溶けてしまった。
「あん時だな、お前に着いてくこと決めたの。ピカソが認めたんだ。俺はピカソの意志を貫くぜ」
「ペグが何で生まれたか未だに謎だけどね…」
ピカソの最後も見届けられたし、ペグが言うにはあれが幸せだったみたいだから良かった。
その後は、ケルトさんが記憶喪失しちゃったっけ。僕やバクのこと忘れちゃって暴走してたな。トラさんのことは覚えてたみたいで、殺意マシマシの残虐なマシーンの出来上がりだった。実際僕も死にかけたし、危うくみんな死ぬ所だった。みんなを守らなきゃって必死に思ったら、神得化と言う「神の力をより多く得る状態」になった。神力が通常の4倍ぐらい増加して、身体中に力が漲った。僕の攻撃のほとんどが大幅に強化されたし、動体視力も良くなっていた。
「良いな〜。俺も神得化したお前と戦いたいぜ〜」
「ご遠慮させてもらいます!」
そして忘れちゃいけない、灰の能力者。この街一帯に灰を降らせた張本人。灰には変な病気がこもっていて、身体の一部から緑色に石化していく。最終的には死んでしまう。僕は被害を止める為に、線の調整を獲得し、灰の能力者の元まで行った。灰の能力者は、娘を能力者同士の抗争により亡くし、自身も不治の病となってしまいどうしても神になりたかった。いつか娘に一面花畑の家に住まわせてあげたい。そう思って神になろうとしたのに。どれもこれも、能力者がレベルを奪えるシステムがあるせいだ。僕は世神様に問い詰めた。
世神様は隠す仕草もなく、僕に過去の惨状を見せた。一つ前の四大神、優秀かつ素晴らしい心の持ち主達。その人達が抱えていた問題が、「神を変えるべきなのか」。本人達は変えるに賛成なのだが、他の神からは別の意見が添えられる。どう説得しても止められなかった結果、無機物を生みし神と混沌・秩序を司りし神が死んでしまうことになる。そこにブチギレた生物を生みし神様が、他の神々を蹂躙した。そしてみんな死ぬ直前、神々が自身の命を使いこの世界のルールを変えた。それが、「能力者を殺せばその者のレベルが手に入る」だった。
「あの状態で隠せると思っているのか?流石にそこまで人の心は捨ててないぞ〜」
「わ、世神様。居たんなら言ってくださいよ」
記憶に新しいものはやはり機械都市メカトリスだろう。ケルトさんとトラさんは目立つからという理由で入れなく、バクと2人での潜入調査。そこら中にドローンが飛んでいて、怪しい行動は出来なかった。エアスの情報も掴めず、もう帰ろうかと思っていた時、公安の人達に出会った。何故か街中をバイクで暴走してたが、本当に公安みたいだ。あっちの目的は、ここの王が計画している街の破壊について調べることだった。機械都市メカトリスの拡大の為に街を壊すんだとか。その時に催眠ガスを使ってみんなを眠らせ、その間に破壊作業を終わらせる作戦が立っていると言う情報だけがあった。その真否確認をするためにも、僕らは侵入して欲しいんだとか。
空気をガスに変えて攻撃してくるのがエアスだから、催眠ガスと目撃証言からエアスがこの街にいる可能性は高かった。そのため僕らは協力することを約束して侵入に成功した。結果、街の破壊作戦は事実で、公安の人達も仲間を集めて突撃した。僕とバクは、列車の保管庫みたいな所に着いて、そこでエアスと鉢合わせすることになった。
列車の特徴として、線路がなくても目的地まで走るというものがあり、その目的地が僕らの街だ。エアスは列車の上に立ち、時間が来て発車する。僕らもなんとか登り、エアスに作戦が終わったことを伝える。しかし、元からそんなのき付き合うつもりは無かった。大量の爆弾を積んで、街もろとも爆発させる算段があった。目的地に着いてしまえば街は跡形もなく消え去ってしまう。それはエアスを殺しても同じ。そこで実行した作戦が、ペグの力で空に向かう線路の最初を描いてもらう。その後は僕の神力で床を作り、ひたすら上まで持っていく。そしてやってきたケルトさんとトラさんに列車をぶっ飛ばしてもらう。何とか上手くいき、爆弾は遥か遠くで爆発してことなきを得た。
「懐かしいの〜。ケルトが居ないとあそこまで寂しがるものだとはな」
「いつの間に来たの?って言うか寂しがってないし!」
あの時、エアスは生きていたが、負けてしまったからと言う理由で身体が腐り始めた。意地でも口を割らなかったエアスが言った最後の言葉。
『腐食屋「スポイル」。異世界「ダスター」、そこがお前らの墓場だ』
ゾンビを作る能力者。恐らくそいつがダスターって世界に居るんだろう。そいつも協力者だろうから、捕まえて殺人鬼について教えてもらわなきゃ。
「それにしても、今年の秋は色々ありすぎました。疲れちゃった」
「よく頑張ったな。偉いぜ」
ケルトさんに撫でられながら、外を眺める。木の葉は落ち切り、ここからは冬だ。寒いのは嫌だな〜。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「お布団の中はあったかいのです〜」
イリウスは寒い季節が苦手だ。いつも布団の中に包まってしまうから。ただ、いつまでもそんなわけにはいかない。ケルトは怠慢だけは許さないタイプだから。
暖かいのは確かに良いが、それだと世話が出来なくなるからな。俺は動くぞ。
次回「ーー布団ーー」