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第165話 ーーケルト&トラ 後編ーー

「いってー…」


「こ、これしき…」


 互いの拳を受け合って2時間。身体中に出来たあざを抑える。骨まで行ってるんじゃないかと思うほど腫れている。そこに老人が訪れる。


「どうした?大したことないんじゃなかったのかのぅ」


「うるせー。こんな傷すぐ治る」


 2人とも痩せ我慢が過ぎている。こんなものを毎日続けていては身体の方が保たないだろう。


「これで分かっただろう。お主らはパワーは強いんじゃ。だから残るのはチームワークで…」


「んなもんいらねー!」「こいつでは無理だ!」


 全くどうしてこう頑固なんだ…。老人はそう思いながら次の作戦を考える。いっその事実践させるのもアリかと考えたが場合によっては殺されてしまう。それは避けたいのだろう。2人に命令を出す。


「今日からお主らには家事をやってもらう」


「「は?」」


 突然のことに困惑する2人。すごい文句を言っているが、老人は軽く受け流す。元々頑固な2人だったが、ペアで一位になるためにはルールもろくに知らない獣人2人では厳しい。仕方なく従うことに。


「おい、俺は早起き苦手だぞ?」


「だから何だ。朝の掃除くらいしろ」


「何だよ得意な奴がしてりゃあ良いだろ?わざわざこんな苦手なことする必要ねーって」


「平等にと言われてるんだ。黙って従え」


 ダルがっているのはどっちも一緒だ。それでも振り分けをしたり、ある程度考えている所を見て、老人は見抜いたんだろう。この2人は逸材だと。

 始まってからというもの、しっかりと与えられた役目は果たしていた。ケルトは元主人の経験を、トラはお坊さんの元での経験を活かし、着々と家事をこなす。


「だ、か、ら!その肉に変なフルーツかけんなっての!こいつは素材が良いんだから余計な味はいらねーんだよ!」


「俺の味にケチを付けるな。何でも素材素材と、生肉しか食ってこないとこうなるのか?これからはミディアムにして食べることにする」


「んだと?」


「どっちの飯も美味いから喧嘩はやめてほしいのぅ…」


 この時からどちらも料理にこだわりが生まれた。普段は喧嘩ばかりの2人でも、チームワークとやらは育っていった。分業という形でも、互いの個性を知り合い生まれていく連携。それこそがこの2人を無限の高みに連れていく鍵になる。

 退屈な日々が続く中、やっとの思いで他のペアとの対決になる。


「二方共準備はよろしいかな?それでは、始め!」


 最初に出会ったペア達とは打って変わって、ケルトとトラと同じく、格闘家×格闘家のペアみたいだ。戦闘を見ている所、相手側は好き勝手に動いていて連携が取れていない。それに比べこっちは、


「おい、こっちは技術タイプだな。俺は苦手だ」


「こっちは脳筋だ。お前が得意そうだぞ」


「んじゃ、交代だな」


 お互い背中を預け、しっかりとしたタイミングで変わる。変わった後はすぐだ。力でケルトに勝てず、技術でトラに勝てず、圧勝で終わった。


「よくやったぞ2人とも。今のはランキングで言うと30位ほどじゃ」


「マジ!?今ので!?」


「人口が少ないのだろうか…というよりそのランキングというのはどうやって決めるんだ?」


「わしの目じゃよ。ペアを育てているやつは多い。それだけ大量のペアを見定めているんじゃ。わしもその1人。ちなみにしばらく会っていないが、現在一位は決まっておる」


 意味ありげな笑いを浮かべた老人だが、2人はそんなものに冒さなかった。今回ので30位なら、1位なんて目の前だ。そう思った。

 その後も修行と家事を両立させながら、着々とペアの順位を上げていく。その過程でも、そこまで苦労することはなかった。そしてついに、


「着いたぞ。ここが現在1位のいる場所じゃ。っと、早速登場のようじゃの」


 奥からサッと現れたのは、不思議な被り物をした人間の女性と、片目に傷が付き開かなくなっている男性の獣人。2人を見るなりペアと分かっている様子だが、老人が居るからか変に身構えたりしない。


「お久しぶりです。今回は審判を務められるのですか?」


「おぉ〜、覚えておったか。その通り、そなたらにはこの2人と戦ってもらう。一応聞くが、誰にも負けておらんよな?」


「はい。俺らが負けるわけないってんですよ。あの2人も、余裕で完勝してやりまっせ」


 もうそんな甘い挑発に乗るほど子供じゃない。準備は整い、いつでも戦える姿勢に入る。


「ほっほっほ。そう上手くは行かんものよぞ。では、行くぞ。…始め!」


 女性の方がバフや遠くからの援護を、獣人の方はひたすら詰めて馬鹿力で殴り飛ばすタイプだ。これだけ聞くとそこまで強くなさそうだが、連携が凄まじい。魔法の攻撃は力強くも繊細な動きを見せ、立ち回り的に近付く前に獣人に邪魔される。かと言って2人で獣人を先に倒そうと思ってもバフによる圧倒的な力の前でねじ伏せられる。そのまま決着は着いた。ケルトとトラの負けだ。


「はぁはぁ…久々に強いやつに出会った!楽しかったぞ!」

「対戦、ありがとうございました」


「良い線は行ってたんじゃがのぅ。やはり脳筋2人じゃキツイものが…まぁでも次があるからのぅ、お主…ら?」


 老人が2人の方を向くと、いつもと違う空気が流れている。今までの罵り合うような、そんなのとは違う空気。


「負けた理由、分かってるよな?」


「俺のせいにする気か?」


 何かやばい気配を感じたのか、老人はすぐ止めようとするが、それは意味を成さない。ケルトが立ち上がり、トラの方を見下す。


「どう考えてもおめーが弱いのが敗因だろ?」


「お前の自分勝手な動きに合わせてやったんだ。もっと俺に合わせるような動きをすれば勝てたのにな」


 トラも立ち上がり、身長が微妙に高いトラの方が見下す状態になる。


「あぁ?俺が魔術師殺しに行くとこで、獣人1人抑えられないお前の動きに合わせるだぁ?ふざけんじゃねーぞ?」


「ふ、2人ともやめんか。蔑み合いは何も生まんぞ」


 老人はそれでも止めようとする。だが、言い争いは収まることをしらない。その口論はいずれ喧嘩に発展し、互いを傷つけ合った。トラもケルトも殺す気で、本気でぶつかり合った。先に倒れたのは、ケルトだった。


「これで分かったか?俺の方が強い。もうペアなんぞ辞めだ。こんな雑魚と弛んだ時間がもったいなかったな」


「それはこっちのセリフだ!いつかぶっ殺してやるからな!」


 老人はその場に立ち尽くしてしまった。そのまま仲違いをしてしまい、トラは別の世界へと行った。ケルトはそのまま老人の下で修行をしていたようだ。




「あ、小銭が自販機の奥の方に…いくら僕のちっちゃい手でも届かんな…あ、おい。おーい!そこのトラ柄!」


 トラに声をかけたのは、非常に小さく、それでも偉そうな子供。目をぱっちりと開けた姿は愛くるしく、親心が沸いてしまうほどだ。


「俺に言ったのですか?」


「うおぉ…この世界に敬語が使える奴がいるなんて…。まぁ良い。この自販機待ってくれないか?力持ちそうだしな」


「え、あ、はい」


 トラは何の躊躇いもなしに自販機を持ち上げる。その少年はそのまま小銭を拾い上げる。


「ありがとうな!」


「どういたしまして」


 そう言って立ち去ろうとした直後、トラを呼び止める声がした。


「待て。ここで会ったのも何かの縁だ。僕の従者になる気はないか?」


「は?」


「僕は『バク』。世界を管理し神に憑かれた不老不死だ。僕に一生仕える気はないか?」


「はっはっはっは。面白い子供だ。笑ったのは久々だな。俺は、あんたの役に立つのか?」


「あぁ、もちろん!」


 トラも遊び半分だった。バクの呼びかけに答えたのも、仕えたのも。だが、それが今も続いているなんて、昔のトラは思いもしなかったんだろう。


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「………僕の出番なし!?」


 明かされるケルトとトラの過去。だが問題はここから、ケルトが何故バクの下に着いたのかだ。戦って負けたからとか聞いたがイリウスはよく分かっていない。

 我もやっと出番なんだ。イリウスなんて普段から主人公なんだからこんぐらい我慢せい。


           次回「ーー仕える者ーー」

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