第164話 ーーケルト&トラ 中編ーー
「おいおい、どこなんだここは」
「さぁな。知らねー」
ケルトの適当感に呆れ果てているトラ。だがここで止まると言う選択肢はない。2人はお坊さんの元を離れ、旅をする。その先にある景色を見るために。
よく分からない森に出るとケルトは飯の準備をすると言い始めた。そしてそこで口論が…
「お前はなんてものを食べようとしてるんだ!」
「なんてものって…ただのヘビだろ?」
「ヘビを食べるなんて普通じゃないぞ!何より毒はどうするんだ」
「食う」
森で生きてきた経験のあるケルト、サバンナで生きてきた経験のあるトラ。どっちも食べるものから全く違うようだ。この時からケルトは頑丈な胃袋が出来上がっていたが、トラはそうでもない。
「食いたくなきゃ食うな。適当に狩ったその猪でも食えばいいだろ」
「む…それもそうだな」
ケルトは生きたままのヘビを何の躊躇いもなく食べ始める。それとは違い、トラは火を焚べ肉を焼き始める。果物や植物を使って味付けまで整えた。その姿を見たケルトが、
「何してんだ?料理?」
「ああ。見て分からんのか?」
トラが作っている所をひたすらに眺めるケルト。ケルトはここまで肉はずっと生肉だったし、果物なんかもそのまま食べていた。すごい酸っぱい果物を置いておいてトラを驚かせようとしていたが、それも料理に加えていて不思議がった。
「もらい」
「あ、こら」
味の想像が付かなかったケルトはついに肉を奪い取る。それを口に入れた途端、目の色を変え、
「ん!うめー!あんなもん入れたのにこんなに美味くなんのか?お前って天才なんだな」
「あんなもん?何か紛れてたのか?」
「いや、何でもねー。おかわり!」
何だこいつはと思いながら肉を解体して作る。途中から手間がかかるからケルトに教えながらやっていた。そこからだろうか。ケルトが味を重要視しだしたのは。
飯を食い終わり、いざ出発だ。2人はホールを開き、世界を跨ぐ。辿り着く先が天国でも地獄でも、それが運命なのだ。地面に足をつき、周りを見渡すと、左には2人組のやばそうなやつ。右にも2人組のやばそうなやつが居た。杖を持っていたり剣を持っているやばいやつは戦っていたようだった。
「お?なんかやばくね?」
「そうだな。これはどういう状況だ?」
突然のことにみんな固まる。とりあえず2人は行こうとしたが…
「お前達もペアだな!食らえ!」
「おいおい面倒だぜ」
突如として襲いかかってきた。ケルトとトラは2人で4人をかわしながら殴るなら蹴るなりで遠ざける。4対2というより2対2対2として戦っている感じだ。そのうち決着はつき、立っているのはケルトとトラだけだった。
「ったく何なんだこの変人ども。そんな戦い好きなら別のとこでやれ」
「何がしたかったのだろうな」
「素晴らしい!」
2人が立ち尽くしてる時、後ろから声が聞こえた。気分の良いおじいさんみたいな声だ。
「君達ペアは未来がある!是非とも私にサポートさせてほしい!」
(なぁなぁ変なやつに絡まれたぞ。どうする?殺す?)
(殺すな馬鹿。老体にもなると考えが鈍るものだ。こういう時は労わって…)
トラとケルトはコソコソと話し合う。変人に絡まれた時の対処法はどちらも知らない状態だ。変な老人はまだ待っている。
「あの、介護士はどこに?」
「わしを年寄り扱いするでない!まだボケてないわ!」
作戦に失敗し呆然とする。ケルトはニヤニヤ笑ってる。老人は叫んで疲れたのか、息を整えた後、説明を始める。
「ペアと言うのは、いわゆる遊びみたいなものじゃ。ルールはただ一つ、相手に「参った」と言わせるか、戦闘不能にするかじゃ。普通と違う所は1対1でなく2対2でやる所。チームワークが試される所じゃ。そして、その頂点に立てば…」
「お?願いでも叶うのか?」
「有名になる」
すごいものを期待したのにしょぼくてやる気をなくす。そのままため息を吐いて去ろうとしたが、そこを老人が何とか止める。
「ま、待て待て。わしがサポートすれば…金!金をやろう」
「別にいらねーよ。欲しいもんは盗れば良い」
「おいそれは流石に許さんぞ」
ケルトの悪行にトラが一喝入れる。ワーワー言い争うが、結局殴り合いになる。その様子を見た老人が、あることを思い付く。
「はぁー、それなら仕方ないですな。お二人なら誰にも負けない強さがあると思いましたが、そうでもないみたいですな」
「あぁ?俺がこいつより弱いだと?」
「何だと?俺がこいつより劣っていると?」
「いえいえ。良いんですよ。負けるのは怖いですから。胃の中の蛙は胃の中にいれば良いんですよ」
去ろうとする老人に、プルプルと震える2人が肩を掴む。
「『俺が』一位になってやんよ!」
「この『俺が』一位になってやる!」
お互い怒っている様子だ。それでも戦う意思は本物。老人はこれを狙った通りに動き微笑む。
2人は老人の後へ続く。何をするのかよく分かっていないが、とりあえず一位になるためには行くしかない。結果的に着いた場所は少し開けた森。丸太がそこら中にあるのは切った証だろう。それにしては断面は汚い。
「さて、先の戦いでお主らの弱点が分かった。そう、チームワークじゃ」
「チームワーク?んなもんいらねーだろ。俺1人でぶっ飛ばして勝ちだ」
「そうも行かんのがペアじゃよ。とりあえずかかってくるが良い」
老人は2人を挑発する。ケルトは言われた通り動くだけ。老人の言う通り手加減しながらも殴りかかる。だがその拳は当たらない。その様子に驚きながらも段々と本気を出し追撃を重ねるが、一向に当たる様子はない。
「どうした?そっちの虎柄も来るが良い」
「ふん。死んでも知らんぞ」
そうは言ったものの、ケルトとトラの拳は互いが互いを邪魔し合う。時には仲間の体に当たり、言い合うことも。そんな調子で時間が経ち、
「はぁはぁ…何だこのジジィ!バケモンだろ!」
ケルトもトラも汗だくで息を切らしている。一方老人の方は息一つ切らしていない。
「口が悪いな。当たればそれなりのダメージになるが、当たらなければダメージなんてゼロに過ぎん。これでチームワークの大切さが分かったかの?」
「はぁ…全然だな。俺が誘導してこいつの拳が当たったとして、そんなのダメージにならん」
「んだと!それはこっちのセリフだ!」
(はぁ、、また口喧嘩か…互いにパワーとスピードは十分だが、こういう所が邪魔をしておるんじゃな。そういう時は…)
2人が口喧嘩を続けている中、老人は丸太の上に立ち、「ちゃんとせんか!!!」と大声で2人を叱る。
「全く。お主らに良い余興を思い付いた。毎日2時間、打ち込みの稽古をするのじゃ。互いを理解するには、互いの拳を受けるのが1番早い」
「それはどの部位でも、蹴りでも何でも良いのか?」
「ああ良いとも。何なら武器を使っても良いぞ。ただ、死ぬのはNGじゃぞ」
2人とも悪い顔で笑う。お互い負かす気満々なのだろう。
「やってやるぜ!」「承知した」
ここからペアの修行が始まった。