第163話 ーーケルト&トラ 前編ーー
トラさんに加えケルトさんまで来たら僕の部屋でも窮屈だ。バクも1人で可哀想だしリビングへ向かう。
「そんで、俺らの出会いについてだがな」
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俺が大怪我した話は前したと思うが、その後森で回復してたんだ。果物とか虫とか食いながらなんとか傷が塞がって、やっと動けるようになった。適当に森を歩き回ってたら町に出たんだがな。
「虫ばっか食ってたから血が足りねーな…久々にうめーもん食いてーし」
初めて異世界に行ったわけだが、俺はあんまり困惑しなかったな。まずあんな変な渦に手突っ込んでんだから覚悟があったってのはあるかもしれねーが。
とにかく何か食いたかった俺は金も無いから盗んでどうにかした。服も血だらけだったし、店のやつもあんまり深くは追ってこなかったぜ。
「それにしても、俺の居たとこと随分違うな。警察に撃たれる覚悟で盗んだんだがな。まぁそれならそれで良いか。しばらくはありがたく滞在させてもらお」
今思っても変な話だな。何も知らない場所に1人きりなのに、何の遠慮もなく、その状況に適応するなんざ。まぁご主人食った後だったから色々吹っ切れてたんだろうな。その後も同じように過ごして、体力が回復したからもう一回異世界への扉を開けないから試したんだ。そしたら上手くいってな、またそん中に入ってった。
まぁこんな感じで色んな世界を転々としてたんだが、ある時、寺に行くことになったんだ。俺の心が汚れてるとか何とか言って連れてかれたんだ。
そしてそこで出会ったのが、トラだった。
俺はあの村を出た後、ひたすらにサバンナを彷徨っていたんだ。サバンナでは猛獣も居たが、ある程度身体を鍛えていたのもあり、多少は対処が出来た。遠くまでもよく見えたし、先回りすることだってあった。そんな日々を過ごしていると、あることに気付いたんだ。
「ここはサバンナしかないのか?」
集落のような跡も無く、ひたすらにサバンナが続く。1週間は歩き続けているのに何一つ見えてこない。もうやる気を無くして歩いていたら、足元が崩れてどこかに落ちた。急いで下を向いたが、渓谷になっていてな。とても助かる高さじゃなかった。そんな時、ホールが開いた。
俺は何が起こったのか分からなかった。気付いたら変な村の真ん中に座っていたんだ。周りも一瞬こっちを向いたが、そのあとはスルーしていく。
「あ、あの。ここは一体どこなのでしょうか?」
「ん?ここは村だよ。見て分からないのかい?」
俺視点渓谷に落ちたら村に着いたと言うことになっている。あの時は流石に驚いたな。
呆然としている俺に、ある人が話しかけに来た。
「そなた、もしや異世界に来るのは初めてか?」
「異…世界?」
「その様子じゃ初めてのようじゃの」
この時、俺の腹が鳴った。丁度昼飯を仕留めようと思っていた時間だ。
「ほっほっほ。食べ物をやるからこっちに来なさい」
そう言われて着いていくと、そこには立派な寺があった。この人はお坊さんだ。何の為に俺を救ったか分からなかったが、この人は俺に飯をくれた。そのあと、住職に誘われて、金もない俺はやることになったんだ。俺の目的は俺を必要とする人の為に生きること。ここでお坊さんの後を継ぐのも…そう思ってた時、あいつはやってきた。
そう、それがケルトだ。
「あぁ?何だこいつ。住職みたいな格好だな」
「どうかしたのか、村の人達よ」
トラは村の人達から説明を受ける。その間にケルトは逃げようとするが、そう上手くいかなかった。
「なるほど、承知した。今からお前を叩く。雑念を追い払ってやる」
「…んだよ。つまんねーの」
呆れてため息を吐いた後、腕の縄を腕力だけで千切る。村人達は恐れて引くが、トラは前に出た。
「お前は少々穢れすぎたようだな。来い」
「言われなくてもぶっ殺してやんよ!」
ケルトとトラは激しくぶつかり合う。今と違い、お互い腹を突き破るほどのパワーや、不動の耐久力はない。しかし、単純な殴り合いは2人を奮起させた。お互い諦めが付かず、やがて日は沈み始める。
どちらも地面に倒れて、力を抜いた。
「はぁはぁはぁ…中々…やるじゃねーか」
「はぁはぁ…そっちも…な」
地面に寝転んでる2人はそう語った。息は切れていて、もう力なんて出せないほどだ。そんな2人を見ていたのはお坊さんだった。
「ほっほっほ。さぁ、2人とも立つがいい。晩御飯の時間じゃ」
「お、飯か。ラッキー」
「貴様は全く…」
同じ机でご飯を食べる。今となっては違和感はないが、この時はお互い違和感を感じていた。
「おかわり!」
「遠慮と言うものを知らんのかお前は」
「知らねーな。食えるもんは食える時に食う。じゃねーといつか死ぬぜ」
「そんな簡単に死んでたまるか」
トラはどこか認めてない節があるが、ケルトは認めている様子だ。お坊さんはそんな2人を見て、何かを思ったようだった。
「そちは、どこかへと行くのか?」
「ん?まぁな。一応旅人みたいなもんだし。満足いく世界まで転々とすっかなー」
「満足…」
トラはこの時、自分の人生に少しの後悔が根付いた。もっともっと広い世界を期待していたのに、この長い時で見たのはひたすら続くサバンナと村の一つ。元々夢が無いにしても、冒険をしたかった。そんな様子に、お坊さんは気付いていた。
「ロイよ。その者に着いて行くが良い」
「それはどういう意味で?」「はぁ!?」
「お主はまだ若い。もっと世界を知るべきじゃ」
「それじゃあ住職はどうするんですか。後継ぎだって居ないんじゃ…」
そう。お坊さんは分かっていた。この子は使命感が、責任感が強い子だと。そしてこっちは、曲がらない信念と、振り切る力を持つ子だと。この2人が一緒になれば、きっと良い未来を切り開けると。
「後継ぎなんて適当に探せば良い。結局はワシの力を伝授すれば良いだけだからのぅ。それに、もう充分元気はもらったからのぅ」
どこか悲しげなトラ、子離れするような顔を見せるお坊さん、トラも少し考えた後にこう言った。
「お世話になりました。またいつか、会いに来ます」
「待っておるぞ」
(俺連れてくって言ってねーんだけど)
感動の別れを決めたトラとお坊さん。お互い高め合うのもあり、だが足手まといになるかもしれないしなし、という思いが右往左往するケルト。どこか噛み合わないが、こうして2人は旅をすることとなった。