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第162話 ーートラさんの過去 後編ーー

 あれは、いつもと変わらない普通の日。俺らは農業を手伝っていた。職業体験みたいなものでな。そこで俺は見えたんだ。遥か遠くから、野生動物の群れが来てることが。そこで俺はミノに話した。


「な、なぁ。何か来てない?」


「ん? 何が?」


「いや、何かは分かんないんだけど…」


「…確かに音はするな。俺目には付いてないんだよな」


 ここに居る全員、目に加護が付いていなかった。気付いてるのは俺だけ。もしかしたらみんな大ピンチなのかもしれない。そう思った。俺は農家の人に言った。


「あの、何かが向かってきてます。すごい速度で…」


「あー君ね。向かってきてるって何が?」


「それは…分かんないんですけど…もしかしたら危ないかもって思って…」


 俺がこう話している時も、農家のやつは目を合わせようとしなかった。


「何が来てるかも分からないのに退散は出来ないよ」


 それだけ言われて持ち場に戻る。他の奴らも話を聞いてたのか、俺は変人扱いされた。ただ、ミノは様子が違った。目を瞑り耳をぴくぴくと動かしていた。


「…やっぱり何か来てるな。たくさんのデカいやつが来てる。みんな避難しないとやばいやつだ」


 ミノはそう言うと大声で全員に伝える。


「何かが向かってきてるぞ!避難しなきゃみんな危なくなる!」


 ミノのその言葉を聞いて、みんなが慌てる。俺は相手にされなかったのに農家のやつだって全員に退散命令を出した。それで逃げる時、狩り組がこっちに向かってきてるらしいからそこまで逃げ切らなきゃいけなかった。みんな必死で、生き残る為に逃げていた。誰を踏みつけようと構わずに。

 狩り組との合流地点まで後少し、元々体力も無くて、足だって平均より遅かった俺はみんなの圧に耐えきれず転んでしまった。追ってきている恐ろしいものの姿は、加護がなくたって見えるくらいに迫ってきているのに。


「…?ロイ!どこだロイ!」


「やめときなさい!未来ある君まで死ぬぞ!」


「…あいつには未来がないって言うのかよ。あいつには生きる価値がないって言うのかよ!」


 ミノはそう言った後、大きく深呼吸をして俺元まで雷のような速度で来た。


「ロイ、大丈夫か?」


「俺なんて放って行けよ…お前まで…」


「…ちゃんと捕まっとけよ」


 ミノは俺の肩を取り、その状態から小さい身体で俺を背負った。目の前まで迫った群れに、負けないどころか、先にいるみんなを追い越すような速度で走り抜ける。俺には想像も出来ない速さで驚いた。それと同時に、こいつとの差に俺は絶望した。

 狩り組も急いで来たのか、合流地点より早めに退治してくれて全員無事で済んだ。そこで誰よりも心配されたのは、転んで泥だらけになってる俺じゃなく、未来を担うミノだった。


「あれに気付くなんて流石は神の後継ぎ!」

「いや、だから気付いたのはロイで…」

「次期村長は伊達じゃない!」

「だからロイが居たから…」


 ミノはみんなから称賛されている中、唯一俺の名前を出していた。だが、その言葉は誰にも届かない。俺の名前なんて、誰も聞きたくないから。俺は家に帰っても誰からも心配なんてされない。1人で傷の手当てをして、1人で泣いていた。どうしてこうなったんだと。

 次の日、いつも通りミノが俺に話をかけてくる。


「おはよーロイ!昨日は色々あって大変だったな!」


「……」


「ん?どうしたんだ?何で何も言わないんだ?」


 俺が何も言わなくても、ミノは元気に話しかけてくる。しつこくしつこく。でも、こいつに俺は必要ない。


「……もう、やめてくれよ」


「え?」


「お前と居ると、俺がどれだけ劣ってるか自覚すんだよ。お前と居ると、俺との対応の差に、悲しくなんだよ。お前には分かんないんだろうけどさ、俺は、あの時だって助けて欲しくなかったんだ!」


 俺はそのまま逃げるように走った。ミノの顔は見えなかったが、多分、驚いてたんだろうな。あれから、ミノは俺の方に来なくなった。親からもキツく言われてたんだろう。いじめられる事は無くなったままだった。今もミノには感謝してるさ。

 俺は大人になってすぐに村を出た。世界は広いんだ。きっと俺が役に立てるような場所があるはず。そう思って、誰も見守らない夜、荷物を持って家を出た。みんな寝ているのか、人っこ1人いなかった。少しだけ寂しかったが、それで良い。


「ロイ!」


 その声がするまでは。


「どこ行くんだよ。…出るのか?」


「…ああ」


「もう、帰って来ないのか?」


「……………ちょっと、そこまで行くだけだ」


「また、会えるんだよな?」


 数年間話してないやつらの会話じゃないだろ。今はそう思う。ミノも、ずっと俺のことが心配だったんだろう。悲しそうな目で、俺を見ていた。俺はまた気付かされた。この目に救われたんだって。


「ああ。会えるさ」


 そう言い残し、俺は村に背を向けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「以上が俺の過去だ。気になった所とかあるか?」


 僕は後半泣いていた。これはトラさんだけの過去話じゃない。ミノって人の過去でもあるんだ。僕が気になったのはただ一つ。


「…その後、村に戻ったんですか?」


「戻ったさ。一度だけな」


 思っていたのと違う答えが返ってきて驚いた。それ以上に僕は落ち着けた。一回戻ったならミノって人とも再会出来ただろうと。


「それなら良かったです!今のトラさん見たら、村の人もみんな見直したんじゃないですか?」


「いいや、村は無かったんだ」


「へ?」


「何かに襲われたか、野生動物の群れの餌食になったのか。村に残ってたのは大量の残骸と骨だけだ」


 目を背けたくなる。何で聞いたんだ僕。流石の僕でもこの返答を聞いた後は何も言えなくなる。


「だが、ミノはどこかで上手くやっていると思う。あいつは気まぐれだからな」


「…きっとそうですね」


 そんな言葉しか返せない。ちょっとだけ静かな空気が流れた後、


「おーい話終わったか?」


「え、ケルトさん?ノックぐらいしたら…」


「んだよ別に良いだろ。思春期か?」


 ケルトさんが乱入してきた。場の空気は一気に変わる。騒々しくて楽しい気分になってくる。


「んで、トラの村の話までか。だったら俺とトラの出会いとかも話してやるよ」


「え!?本当ですか!?」


「あぁ良いぜ。別に良いだろトラ」


「あ…あぁ。構わん」


 急なことでトラさんも戸惑う。全くこいつはいつも…と言う顔をした後、少し笑った。多分この時トラさんは、こうなって良かったって思えたんだろうな。


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「遂に来たのです…」


 トラの過去について壮大に話されたイリウス。次の話はまさかのケルトとトラの出会いについて!? 何やかんや謎に包まれ続けた2人の過去がついに判明する。

 隠してたわけじゃねーんだけどな。ほら、トラがうるせーから。


         次回「ーーケルト&トラーー」

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