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第161話 ーートラさんの過去 前編ーー

 僕は今日も今日とて部屋で鼻歌を歌いながら絵を描く。ペグはグチグチ言ってるが関係なしに描き進める。少しづつ上達している気がする。そう日常を過ごしている時、始まりの音が鳴る。


「イリウス、少し良いか?」


 ドアをノックし入ってきたのはトラさんだ。いつもは来ないのに珍しいと思いながら立ち上がる。


「どうかしたんですか?」


「覚悟が決まった…とでも言っておこうか。主やケルトは知っているからな。お前だけで充分だ」


「?」


 首を傾げながら考える。そんな僕を見兼ねたのか、机の前に座る。僕はその膝に座ろうとしたが降ろされた。


「俺の過去についてだ。そろそろ話すべきなのかと思ってな」


「あー! あのことですか!」


 前に言っていた。まだ覚悟が決まってないとか何とかで話してもらえなかったけど。思い出してみると興味が湧く。


「俺の故郷は、サバンナだった」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 年がら年中日が出ていて、ひたすらに暑かったな。俺らは部族みたいなもので、みんなトラの獣人だった。狩りをし、学び、自然に生きる部族。それが俺らだった。ただ一つ、特殊な物があった。


「ロイ、そろそろ10歳だろ? 雷の加護、受ける準備は整ってんのか〜」


「あんま心配すんなよな。兄貴達もみんな優秀なんだから俺も平気だろ」


 ロイと言うのは俺の昔の名だ。俺らの部族では雷神を慕っていてな、神から雷の加護と言うのを受けられたんだ。

 『雷の加護は身体の一部に力を宿し、大いなる希望をもたらす』

 例えば、加護が腕に付けば、パンチの速度や威力が上がる。足に付けばとんでもない速度で走れるようになる。そしてこれは、複数付くことがある。腕と足とかな。組み合わせによっては、次の族長に選ばれることもある。

 雷の加護は10歳の肉体でやっと受け入れられるとされていて、みなこの歳で加護を受けるんだ。俺の家族はみんな優秀だった。

 親父は腕と足に付き、狩りで右に出る者は居なかった。母は神経に付き、遠くで鳴る音や匂いを感知出来た。長男は足に付き、親父の後継ぎと言われた。次男は脳に付いて、学者の卵とまで言われていた、いわゆるエリート家系というやつだ。

 そんな中、みんなが俺に期待した。俺にはどんな加護が付くんだろうと。俺だって自身満々だったさ。一応学校みたいなのもあったんだが、そこでもリーダーシップやコミュ力があり、みんなと仲良くやっていた。全部上手くいっていたのに。


「さて、未来の卵達よ。今日は加護を受ける日だ。準備は良いかい?」


「「「「はーい!」」」」


 儀式の日、同じく10歳である俺らは、一本の柱を中心に円のように囲っていた。


「さぁ、行くよ」


 正装を纏った儀式の主催者は、呪文のような物を唱え始めた。たちまち空は黒い雲で覆われていき、その柱に雷が落ちる。不思議なことに主催者には雷が集まらず、俺ら10歳にだけ雷が集まる。全員が痺れ倒れ込んだ。痺れが収まり、1人1人主催者が身体を見ると、どこに加護が付いたかを言ってくれる。家族が見守る中、俺は確かにそう言われた。


「……目、だけです」


 あの時の顔が忘れられない。失望した顔、信じていない顔。親父は主催者に怒鳴っていた。そんなはずない、嘘だって。しかしそんな疑いは時が経つにつれて確証に変わる。俺は確かに、目にだけ加護が付いていたんだ。

 遠くがよく見えるし、速い者にも目が追いつく。だが身体は一向に追い付いてくれない。見えるだけ、他は何も出来ない。そんな俺が必要とされる場なんて、この集落には無かった。


「おい、ロイが来たぞ…」

「エリート家系の落ちこぼれ」

「あんな調子乗ってたのに目だぜ、目。だっさw」


 学校では馬鹿にされ、いじめられ、冷たい目で見られた。でも、家族だけはそうじゃない、だから平気だ。安心だ。そう思ってた。


「貴様なんて俺の息子じゃねー!」

「ロイ…学校には行かなくても良いのよ」

「あんまりうちの名前出さないでくれよ。信用に傷が付く」

「嫌いって訳じゃないけど…俺にも未来があるんだ…分かってくれよ…」


 家族からも除外され、誰も俺と口を聞かなかった。俺の居場所なんて何処にもなかったんだ。

 ある日、俺はいつも通りいじめられてた。その時、


「おい、やめろよ」


 俺らより一回り小さく、年下みたいだった。


「やめろって、お前何様のつも…り…」


「全く、加護ぐらいで大袈裟だよな。行こうぜ」


 その姿を見たいじめてきた奴らは手が出せない様子だった。俺の手を取り、先へと連れて行ってくれたこいつはミノ。一応同級生だ。気まぐれで常に何処にいるか分からない。探してみても変な場所に居るようなやつだ。だが、こいつは俺らとは違った。俺も噂程度に聞いてたんだが、全身に加護が付いたようだった。その事で村は大騒ぎ。神様そのものだとか、みんなこいつをチヤホヤしてる。


「大人も大人でひでーよな。お前のこと落ちこぼれって話題にしてるんだぜ。加護とかどうでも良いだろ」


「…何でそう思うんだよ」


「だって、お前の良さはよく知ってるし。力を持ってみて気付いたんだ。こんなの、ただのステータスだって。俺の良さじゃなくて、神様の良さなんだって」


 こいつは気まぐれだったが、嘘を吐かない正直なやつだ。だからこそ変わり者扱いされていたが、この時は俺の光みたいなものだった。だが、こんな環境に置かれたんだ、多少ネガティブになってしまう。


「俺なんて庇うなよ。次期村長なのに無くなるぞ」


「別にそん時はそん時で良いよ〜。俺は加護が決まる前と後で態度が違うあいつらが気に食わないだけだし〜」


 良くも悪くも、こいつはしつこくてな。いじめられる度に飛んできて、いじめっ子達を追い払ってくれた。俺なんて庇っても、この村じゃ意味ないのにな。そんくらい優しいやつだったんだ。

 俺もこの生活に慣れてきてな。いじめっ子達も諦めてきてた。ミノは居るし、こんな生活も悪くない。そう思ってたんだがな。あの出来事で、俺が大きく変わる。

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