第157話 ーー後日談ーー
「とりあえず解決して良かったです」
色々終わって家に着く。街一つ吹き飛ばす爆弾をどうにかしたんだ。ちょっとぐらいゆっくりしても良いだろう。そう思ってソファに座り込む。時間はもう11時。朝食を抜いているがお昼ご飯を食べる気にもならない。そうしているとチャイムが鳴る。
「ほーい。……誰だ?」
「おー、お主らか。どうした?」
ケルトさんとバクが出たようだがなんだろう。どうでも良いと思い再度目を瞑るが、
「おいイリウス、呼んでるぞ」
「うえーん」
ケルトさんに呼ばれたので悲しみながらも起き上がる。ドアから出ると玄関に居たのは公安の人達。ミツバさんはボロボロだけとみんな無事で良かった。
「今回はご協力感謝致します。メカトリスにて、王を捕まえる手伝いに、この街まで救っていただくとは。王は無事捕らえることに成功しました。この礼は必ずします」
「それは良かったです。じゃあ失礼して…」
「待って下さい!」
僕が部屋に戻ろうとすると大声で呼び止められる。何をするかと思えばカバンからガサゴソと何かを取り出す。
「『目取りの殺人鬼』を追っている、と言うのは本当ですか?」
「…どうして知ってるんですか?」
「やはり。ドンベルから聞いたんです。突然殺人鬼の周期の写真を撮らせろと言われまして断ったんですが、まさかあなたとは。こちら、周期と、その他諸々の資料です」
あ、ドンベルさんからメールが来ないのはそれが理由で…一言教えてくれれば良かったのに。それにしても…
「被害者の状態…凶器…移動の痕跡!?どれもこれも重要な内容だぞ!」
「本当はダメなんですが、上の者に無理を言って押し通しました。この街を救ったヒーローだと」
「…ここまであっても特定が出来ていないんでしょう? それだったら僕らがもらっても意味ない気がします」
疲れ切った頭をフル稼働させるが、やはり何も分からない。こんな情報、何の役に…。
「意味のないものに意味を持たせる。俺らに出来なくても、あなた方なら出来るかもしれません」
「…どうしてこの情報は消されなかったの?」
資料の類は『永遠の0ニヒル』によって消されるはずだ。残っているのは違和感しかない。
「そこまでご存知でしたか。組織の中に、『指定域内の能力を禁止する能力』を扱うものが居ましてね。記憶までなくなる所、その中にいた者は影響を受けませんでした。その者達だけを頼りに作成したのがそのリストです。生憎ロヂが居ましたので、完璧に出来ていると言っても過言じゃありません」
「なるほど。それなら問題無いですね。何かされても線を見れば居場所が分かる」
流石は警察さん達、この世界を守ってるだけある。そこに感心しつつもすぐに眠くなる。
「これは後で読むとします。僕はもう寝ます…」
「はい。本当に、お疲れ様でした」
僕はそのままベッドにダイブ。既にペグとナビが眠っている中、僕もスヤスヤ眠る。
その後
パッと目を覚ました後、ナビ達が居ないことに気づく。どこに行ったんだろうとリビングに行くと資料を眺めているみんなが居た。
「何してるんですか?」
「お?起きたのか。資料を見てんだがな、違和感を感じるんだ」
「違和感?」
僕も資料を覗いてみるが、特にそれっぽいのは無い。ほとんどが自殺とされているところもあいつの能力だって可能性が高いし、違和感なんて…
「被害者なんだがな、色々あるやつが多いんだよな。虐待だとか、トラウマだとか」
「それがどうかしたんですか?」
「お前の両親殺したの、ほんとにこいつか?」
鳥肌が立った。ここまで来てそれはありえない。もしそうだとしたら、僕の冒険の意味が…。
「ま、まさか〜。だって、お父さんもお母さんも目が無くなってたんですよ?こんなことするのそいつしか居ないじゃないですか〜」
「確かにそうだな。本当に目が無かったら。俺もお前の事故の件は資料で見た。遺体については言及されてなかったから、目があったか無かったかは知らねーんだ。お前の記憶では無かったって言ってたけどよ、それって妄想だったりするんじゃねーか?記憶ってのは不思議でな、見てない景色が見えたように…」
「うるさいです!!!」
僕はつい、大声で怒鳴ってしまった。その様子にみんな目を点にする。こんな声を出したのはいつぶりだろうか。
「…すいません。もうちょっと、部屋で休みます」
自分のしたことに気付き、すぐに部屋に戻る。何で怒っちゃったんだろう。疑われたから?馬鹿にされたから?…認めたくないから?
「ケルト、少し言い過ぎだ。イリウスの記憶が合ってるかもしれないだろ?」
「そうなら良いんですよ。でも、もしそうじゃなかったとしたら、あいつは物凄い後悔をする羽目になる。誰の為の復讐だってな」
ケルトさんの心配は余計している様子だが、ペグが何とか言い返す。
「い、イリウスは復讐なんて言ってねーぞ!みんなを助けたいからって…」
「ありゃあ保身の為の言い訳だ。見れば分かるぜ。あいつの目的は復讐だ。本心は助けたいで合ってるが、その奥にある何かが復讐心を湧き立たせてる」
ペグも何とか言い返そうと思ったが、ケルトさんには全部分かっているようだ。僕の態度の変化や、異常な執念、復讐以外の何者でもない。でも、僕は復讐に身を溺れさせたくない。だから…だから…。
「イリウス。私はあなたを信じるわ。まだ間に合う。手を引くなら今よ」
ナビは優しく問いかける。
「…僕はそれでも、あいつを捕まえたい。もし僕の妄想だったとしても、あいつを捕まえたい。身勝手に人を殺すなんて許されて良いわけない」
「そうね。あなたはそれで良いのね」
僕は覚悟を決めてリビングに戻る。ドアを開けた途端、ケルトさん達の居心地の悪さを感じ取った。僕が空気を壊しちゃったのかと思ったが、家族ならよくあることだろう。
「な、なぁイリウス。俺は…信じてるからな。ピカソだって…」
「分かってるよペグ。僕は手を引いたりしない。例え、僕の両親を殺したのがあいつじゃないとしても、捕まえてみせるから」
「よく言った!!!」
突如ケルトさんの大声が響く。いきなりでビクッとしてしまったが、すぐに僕の肩を掴む。
「それでこそ俺の子だ!誰かの為になりてー。良い心意気じゃねーか!絶対に自分を見失うんじゃねーぞ!」
ケルトさんの目には全てが映っている。今は、不安だ。ケルトさんはいつもより目が動揺している。笑ってるけど、よく見せようと思ってるけど、本当は止めたいんだろう。僕があいつを捕まえた時、真実を知って絶望するのを。その可能性が少しでもあるから。
でも、僕は先に進む。自分のためじゃなく、人のために。
「はい!」
ピカソの想いも背負ってるんだ。
【機械都市編 終】
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「あいきゅー?」
全てが解決し、いつも通りの日常に戻ったイリウス。また騒がしい日々が始まるわけだが、ひとまず異常な頭の良さを数値化するためにIQテストをすることになる。
確かにイリウスは頭が良いな。11歳なのに数学の本を欲しがってるくらいだ。
次回「ーーIQーー」