第154話 ーー車上戦 前編ーー
列車の上、僕は頑張って立ち上がる。線路が無いせいかガタガタと揺れて今にも落ちそうだ。
「この列車はね。メカトリスで開発された線路の要らない列車なんだ。山を越えるのだってこれでスイスイ。必要なのは木を切ったり土地を整えることだけ」
「すごい便利な物ですね。こんなことに使わなければ」
僕が立ち上がるまでに、バクは列車内に入って操縦室へ向かった。
「どうしてこんなことをするんだ。お前にとって、メカトリスなんてどうでも良いはず。それなのに、何故」
「ほほーん。確かに君の言う通りだ。俺にとってはどうでも良い。でもさ、これは俺にとってのチャンスでもあるんだよね〜」
チャンス…?そういえば、こいつの目的が未だに不明だ。電車の件はレベルの為だと分かるが、今回の件は関係ない。そもそもあの時だって本当にレベルの為だったのか?
「もう分かってるでしょ?俺の復讐。この間違った社会、ルールへの復讐」
「それはどうい…う…」
身体が重い。何かされた。
「やっと効いてきたか。車両基地の時点で回しておいたんだけど、だいぶ耐えたね」
(ガスか。何のガスかは分からないけど、効くのが遅れたってことは毒ガス。ケルトさんの血が残ってて助かった)
ケルトさんの血は毒や薬品などにも対応出来る力を持つから強力だ。昨日は貰えてなかったが、消費もしていなかったからギリギリ残っていたんだろう。でもこのままじゃまずい。この列車を止めないと。バクがそろそろ操縦室に着く頃だ。
「残念だね。ブレーキをしても止まらない。その石炭、入れても入れなくても走り続けるから無駄だよ。てかこんな発展した都に石炭なんているわけないじゃん」
「チッ。別の動力源か」
バクは諦め僕の加勢に来る。今なら挟み撃ちだ。
「お主を止めれば問題なかろう。ガスだって撒けないはずだ」
「それはどうかね〜」
ビームとナイフが宙を舞う。それらは全てエアスに向けてだ。僕のビームはまだしも、ナイフは空気の流れを変えられて変な方向に飛んでいく。列車もスピードを付けてきた。空気抵抗をカット出来るエアスにとっては有利な状況になる。
「2人とも!話を聞いてくれ!」
「その声…ミツバさん?どうしてここに…」
追いついてきたのか、その執念に驚く。それよりこんな所に居たら…
「この列車はまずい!大量の爆弾が積まれている!」
「ちぇ。公安は厄介だね〜」
爆弾?何の目的で?全員を眠らせるだけじゃ…
「そいつをどうにかしても、この列車を止めなくてはならない!爆弾の威力は…半径30キロだ!相当な距離被害が及ぶ」
「半径30キロ!?」
ここからでも端に届いちゃう。そんな爆発食らったらケルトさんでも消滅しちゃうよ!ここで爆発すれば観光客はもろに被害を受ける。かと言ってこれ以上進まれたら僕らの街が…。
「ペグ!いくら線路の要らない列車と言えど線路があればそれに従うはず。海の方向に線路を描いて!」
「あいよ!」
スピードの出ている列車、僕はペグを思いっきり投げ、神力で遠くまで持って行った。その間に立ち上がり、疑問を解消する。
「爆弾を仕掛けたのはお前だな、エアス」
「何故そう思った?」
「メカトリスの王は土地が欲しかっただけ。わざわざ土地をぐちゃぐちゃにすると思う?」
案の定、爆弾はこいつの勝手な行動。後ろの列車に爆弾があるんだろう。神力をひしひしと感じる。
「恐らく爆弾の種類は時限型。街に着いた時爆発するよう計算されてる。この列車は軽く見積もって70トン。神力を使っても止められないね。でも」
列車の向きが大きく変わる。地面にはほんの少しだけの線路が描かれている。向かう場所は海だ。
「へいへいへーい!上手く描いてやったぜ!」
「はぁー。だからさ、何回言わせるの?」
向きが変わったはずの列車がまた変わる。街に向かい始めている。
「最先端技術を搭載した列車。目的地までズレたら、そりゃ戻るでしょ」
自動運転。確かにありえない話じゃなかった。これを繰り返せば時間を稼げる。でも…
「無理だ。速度的にも何回も描いてる時間はねー」
「じゃあどうすれば!」
「我が爆弾のある車両を上手いこと切り離す。そうすれば上手くいくだろう?」
「無理。連結部分、ありえないほど神力が込められてる。壊そうと思っても壊せない!」
手立てが見つからない。ピッタリ真ん中で、と言ったって上手く行くわけがない。こんな時、ケルトさんが居たら…。
僕は思いついた。唯一誰1人として被害を出さない方法を。
「行ける…これなら行ける!バク!ひとまずエアスをどうにかしなきゃいけない。手伝って!」
「分かった!」
僕らはエアスに本気でかかる。木を砕き、岩を砕き、それでもスピードを落とさない列車の上で。神器を使って攻撃しようともエアスは飛び回って避ける。空気抵抗がないだけであんなに動けるのはズルと言っても過言じゃない。
「ナイフは届かない。ビームも当たらない。この速度の列車なら飛んだ瞬間置いてかれる。こいつを上手いこと倒す方法は一つしかないよね」
「正面からぶっ飛ばす!ケルトならこう言う」
僕らの取った方法はひどく単純、それゆえ最適解。倒せるまで攻める。
エアスも攻撃してこないわけじゃなく、催眠ガスを放ってくる。風のせいで催眠ガスがこっちに届くのが一瞬だ。過ぎ去るのも一瞬だがタイミングよく息を止めなきゃ寝てしまう。
「エアス!抵抗はやめろ!」
「うるさいな〜。俺は今楽しんでんの。公安さんはどっか行ってて〜」
ミツバさんは空気の壁に押され列車から下ろされる。心配したがあの人も能力者。あの程度でどうにかなる人じゃない。
『空気を操る能力』、予想通り強力だ。でも強力な能力ほど弱点はあるもの。それを見つければ勝てる。
「てかさ、話聞いてた?俺を倒しても無駄なんだけど。結局街消えるよ?」
「僕にはもう作戦がある。全てを上手く収める作戦が!」
ここからは時間との勝負だ。