第146話 ーー頂上決戦(仮) 後編ーー
「うーん…」
ハンスさんは『内と外を隔てる能力』。シュウさんは『物を柔らかくする能力』。どっちも攻撃には使えないんじゃ?僕はそう思う。実際バクも顎に手をつけて悩んでいる様子だ。2人は珍しいサポート型の能力だから攻撃とか出来ない。
「困ったの。あ、そうだ。我が攻撃を仕掛けるからどっちが長くイリウスを守れるか、と言うのはどうだ?」
「え、僕囮役?」
正直嫌だったが戦いとしてはそっちの方が成立するだろう。と、言うことで僕が囮役となり守られることに。ケルトさんが時間を測ってくれるようだからズレはないだろう。最初はハンスさんに守ってもらう。バクの「始めるぞ」という言葉と共に攻撃が開始される。最初は簡単飛び交うナイフだ。ハンスさんは能力を張って外から来るナイフを中に入れないようにする。この能力について理解してないが、中に居る時は中の攻撃しか通らないと言うことなのだろうか。僕の聞いた話だと人や生き物は隔てられないらしい。
バクもすぐにそれを理解して直接切り付けに来る。切られるのは嫌だから逃げ出したかったがそれは硬く禁止されている。受ける覚悟で目を瞑ったが、ハンスさんは体術で守ってくれる。
「ほう、体術の心得があるか」
「そうじゃなきゃ戦えないのさ。基本はサポートや援護が中心だけど、自分の身は自分で守らなきゃただの足手まといなのさ」
喋りながらもバクの攻撃を淡々と流す。ナイフ相手に素手で立ち向かうとはすごい。バクもどんどんスピードを上げていきやがて…。
「終了ー。結果は53秒だな。手加減されてたとはいえ持った方じゃねーか」
「へ、へへ。規格外の強さだったのさ…」
ハンスさんは息も切れていて限界そうだ。一方バクは息の一つも切れていない。
「次はシュウさんなのですね。痛いのは嫌ですよ」
「言われなくても承知だ。要は傷付かなきゃ良いんだろ?」
その言葉に違和感を感じながらも次が始まる。バクは平等性を加味してか、最初はさっきと同じようにナイフを投げている。そのナイフは減速を知らず、真っ直ぐと僕の方に。僕はそれを見て「終わった…」と思いナイフを受ける。でも思ったより痛くない、と言うより柔らかい。これがシュウさんの能力だ。僕に当たった後地面に落ちたナイフはぐにゃぐにゃとグミみたいになっている。バクが少し速さと量を増やしてみるが対応している。
恐らくさっきと同じタイミング。バクは僕に切り付けてくる。バクの持っているナイフすら、僕に近づくとぐにゃぐにゃになり使い物にならなくなる。
「相変わらず厄介な能力よの。神器ですらこの有り様」
「ずっと攻撃してても良いぜ。何回でも柔らかくしてやる。これで時間が潰れれば、俺のか…」
「ナイフが使えぬのなら殴れば良いのだ」
「「え?」」
「ブッフォ!」
僕はナイフでグニグニされた後殴られて宙を舞う。僕の発した謎の声はエコーのように響いていった…
「記録、38秒。ハンスの勝ちだ」
「くそ…油断した…」
「普通に考えていつまでもグニグニやる訳ないだろう」
僕は頬を擦りながら立ち上がる。バクの方を睨んでいるが「我は悪くない…」という風に目を逸らす。諦めて次の試合だ。そういえばこれで丁度…
「俺が勝てば煌牙組の勝ち。そっちが勝てばそっちの勝ちっすね」
「そうね。私にかかってるってこと。寒気がするわ」
今は2勝2敗。緊張感が高まる。ピルス君は能力無し。アイさんは『冷気を操る能力』だ。確か弱点は自分の身体も冷える所だったかな? 明らかにピルス君が不利だ。お互い見合ってる時、始まりの合図が聞こえた。
「ま、負けないから安心してくださ、おっと!?」
「能力が無いのに当たらないのね。まぁ良いわ」
初手から氷のツララを飛ばしたがピルス君には当たらない。足元を凍らせようと冷気を張るがジャンプで軽々と避けられる。ピルス君の動き…ジャンプ力は高いし、スピードも速い。次の動きまでの時間も無いような物だ。なんでこんな動きが?
「あいつは良くも悪くも体格が細いからな。俊敏で繊細な動きが出来んだよ」
「なるほど。ケルトさんみたいな筋肉の塊だと出来ない動きなんですね」
「誰が脳筋だぁ?」
理不尽に頭をぐりぐりされつつも解説は怠らない。俊敏な動きにも驚くがその体力の高さは見ものだ。決して衰えていない。このままだとアイさんの方が先にやられてしまう。次第にアイさんの息が白くなって行く。
「はぁー…身体の芯から冷える。このままだと負ける」
「もう限界っすか?俺はまだまだ余裕っすよ!」
勢い持って攻撃を仕掛けるが氷の壁で守られる。攻撃した瞬間を狙おうと冷気を向けるが素早い動きでかわされる。
「へ、当たらないっすよそんなんじゃ。敗因は数を出さないこと。範囲が広くないことっすね」
「あら、分かってるじゃん。それなら予想も出来たはず。その敗因を勝因に変える為、私が何をするか」
「へ?」
僕は冷えを感じた。心なしか寒い。周りに冷気が舞っているようだ。その冷気は目に見えるほどになり、アイさんの周りに集まって行く。そして竜巻のように大きくなっていく。
「氷結世界」
その全ての冷気がピルス君に向けて放たれる。その範囲は広く、ピルス君とは言え間に合わない。冷気が消えた後、凍ったピルス君が見つかった。凍ったと言えど周りの空気が凍って閉じ込められているだけなので死んではいない。
「寒い…あったかく出来ない?」
「あ、ビームならありますよ」
「おおおおお俺にも頂戴イリウス君んんん」
2人とも寒そうだ。僕のビームで火をつけたら2人とも集まってきた。
「一応言っとくが、アイってやつの勝ちだ。はぁー…煌牙組の名が聞いて呆れるぜ」
「「「すいません…」」」
「まぁこれからも精進しろよ。次負けたら承知しねーからな」
ケルトさんが優しいなんて珍しい。何はともあれ戦いが終わって満足だ。もう喧嘩はしないでほしいけど…
「ま、今回は俺らの勝ちだな。ざまぁみろ!」
「お主は瞬殺だったがの。他の者に頭が上がらんのではないか?」
「そうよ。ライはもうちょっと私達の言うことを聞きましょうね〜」
「あっちのライ枠の方が期待出来る。根は良い子そうだしね」
「あーもううるせーうるせー!」
バクグループの方は落ち着いたようで何よりだ。一方こっちは…
「シャーガさんだって負けたんすから文句言わないでくださいっすよ!」
「俺の相手はあのトラさんだぞ!お前なんて油断して負けたんだ分かってるのか?」
「2人とも落ち着くのさ。今回は勝ち負けはそこまで重要じゃないのさ」
「うるせーまぐれ!」「うるさいっすまぐれ!」
ハンスさんは静かに怒っているが2人は気にする様子がない。ケルトさんは「コウになんて言うか…」と負けた惨状をどう言い訳するか考えているようだ。
「あいつほどの負けず嫌いは居ないからね。俺も何か言われるかもな」
「カゲさんは悪くなかったです。それに、僕のせいだったんでしょう?」
「…いいや。俺のせいだよ。俺は勝ちより君の記憶を取った。そっちの方が俺は良かった。君は悪くない」
カゲさんは相変わらずスマートだ。言葉一つ一つからスマートさを感じる。トカゲの獣人さんって聞いてるけど何トカゲなんだろう。
とりあえず事は終わった。早く会議して帰りたい…
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「それは…本当ですか?」
今回色々あったイリウス。疲れ果てたイリウスにメーデが耳打ちする。その内容は、ガスマスクを被った男の情報だった。殺人鬼への近道、疲れが一気に吹き飛ぶことになるだろう。
大丈夫。僕は少しも疲れてない。早く殺人鬼を捕まえないと。ここに居ない誰かの為にも。
次回「ーー定例会議ーー」