第143話 ーー成長期ーー
「いっただっきまーす!」
僕は朝食を頬張る。いつも通り美味しいご飯だ。これならいくらでも食べれそうだ。
「おかわりです!」
「ほーい」
本当に美味しい。食べれば食べるほどお腹が空く。
「おかわりです!」
「ほーい?」
気付けばトラさんとペースが並んでいる。次のおかわりをしようとした所、流石に注意を受ける。
「イリウス、良いか?お前はトラや俺とは違う。人間なんだぞ。それなりに鍛えてるわけじゃねーし、全部筋肉になるわけでもねー。このままだとぶよぶよになるぞ?」
「むしゃむしゃ…?」
「はぁー…」
何か忠告してくれてるみたいだけどとにかく食べたい。そんな僕の様子に呆れてるようだ。流石にこれだけ食べればお腹も膨れる。
「ふぅ〜。ご馳走様です〜」
「イリウス、改めて言うぞ?食い過ぎだ。このままじゃデブになるぞ。そしたらまた俺とダイエットする羽目になるぞ?」
「ふぇ?それは絶対嫌です!」
「だったら我慢しろ。それか食った分鍛えるかだ」
究極の2択だったが僕のキャラクター上ムキムキになるわけにはいかない。どうにか我慢することにした。この状況をバクは考えながら見ていた。朝食も終え自室に戻る。
「おかえりイリウス。何かあったみたいじゃない」
「うん…食べ過ぎって怒られちゃった…このままじゃデブになるって…」
「あの獣人2人にすればそうだろうな。あいつらの身体が異常なだけだ気にすんな」
「そうよ。子供なんて、食べてれば食べてるほど良いのよ。それに今11歳でしょ?」
「え?うん」
「丁度成長期なんじゃない?」
「成長期…」
本で見た単語だ。子供が大人になる時期。身長が著しく伸びる時期って。そうだとしたら僕の爆食も分かる。でも…
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「あぁ?成長期?んなら余計鍛えた方が良いな!とりあえず腕立て100回だ!」
「なるほど。それなら俺からも少し課題を出しても良いかもな。大人になるんだろう?」
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「それだけはごめんです!!!」
あの2人が理解してくれるとは思えない。子育ての子の字もない。やはり我慢するしかない。僕は本を読んで時間を潰す。昼前、まだ昼食には早い時間。僕のお腹が鳴る。
「お腹空いちゃった…」
「あらあら。絵で描いたご飯ってどうなの?」
「俺に飯描かせる気か?飯の絵は下手だから絵の具の味しかしないぞ」
「飴玉は上手く描けてたじゃん」
「あれは単純だからな。あれで良いなら作るぞ」
飴玉を生み出してもらい気を紛らわす。いちご味の飴だ。これのおかげで何とか昼食まで持った。
「いっただっきまーす!」
相変わらずがっついてしまう。1日断食した気分だ。すかさずお米を平らげてしまうが、
「おかわ………やっぱいいです…」
ケルトさん達のことを考えるとおかわりする気が起きず、そのままトボトボと部屋に戻った。
「流石に言いすぎたか?でも食い過ぎると寿命減るからな…」
「思い出した!成長期だ!」
「成長期?何ですかそれ」
「無性に腹が減ってな、食欲が抑えられんくなるのだ。まぁ食べた分身長が伸びるからそれで良いんだがな。大人になる第一歩ってとこだろう」
「なるほど…それなら脂質は少なめの方が良いかもな。そうすりゃいくら食わせても問題ないだろ」
「承知した」
成長期ってやつなら早く言ってくれりゃあ良かったのに。何で黙ってんだろうな、あいつ。
「ほーら、散歩の時間でしょ?」
「お腹が空いて力が出ない…」
「ほい飴玉」
「流石に飽きるよ…何で全部いちご味なのさ…」
事態は深刻だ。食事がここまで大切だとは。こうなったら…
「んー!美味しいです!」
買い食い。やってはいけないことリストNo.3くらいにある。理由は晩飯が食えなくなる、だそうだ。でも今の僕には関係ない。え?お金なんて持ってたのかって?
「あ、ちょいちょいそこの坊や!味見してかん?」
「承ります!」
そう、お金は要らないのです。この商店街はケルトさんの縄張りみたいなもの。その子供である僕は何かと優遇されるのです。人の善意に漬け込みたくはないけど仕方ない。ある程度お腹も膨れてきたとこで家に帰る。
「ただいまです」
「おう、おかえり。ん?」
スンスンと僕の匂いを嗅ぎ始める。流石にやばいと思って商店街を散歩していることだけ話す。
「商店街を歩いていたので何か匂いが付いちゃったかも…」
「いいや、そんだけじゃこんなに付かねーな。買い食いか?」
「…はい」
「ったく何回言えば分かんだ?買い食いは……まぁ良い。ほどほどにしろよ」
「もう2度としま…え?」
完全に叱られると思ったのに叱られずに驚く。何かを気にしてる顔をしていた。ああいう時は大抵『やりすぎたから厳しく出来ねー…』って思ってる時だ。何はともあれ晩御飯だ。いつもと違ってさっぱりしたメニューが多いように感じた。それでも相変わらずの食欲を見せる。
「なぁ、イリウス。おかわり、して良いからな」
「?どうしたんですか?」
「成長期なんだろ?ご主人様から聞いた。分かってやれなくて悪かった」
「…良いんですよ!それよりおかわりです!」
バレたことに驚くよりも、しっかり理解してくれて嬉しかった。ケルトさんも笑顔を取り戻したし、これで一件落着。
となれば良かったが。深夜2時。目を覚ますとお腹が空いている。こんな時間に食べるのは流石に…と思いつつもこっそり部屋を出て冷蔵庫を漁る。丁度良いところにハムがあったからこれでも食べようかと思った矢先、
「何してんだ?」
寝起きで機嫌が悪そうなケルトさんに遭遇した。
「す、すすすすいません!今すぐ寝ますから許してください!」
「はぁ…座って待ってろ」
呆れた様子で調理を始めた。この匂いは…僕は懐かしくて笑みが抑えられなくなる。
「ほれ。いつものやつだ」
「…いただきます!」
どこからどう見ても炒飯だ。あの時、僕がこの世界に来て初めて食べたご飯。空腹で死にそうだったけど、これのおかげで生きてるんだ。
「あん時な、どうすれば良いか本当に分かんなかったんだぞ。俺の飯食わないやつなんて居なかったからな。それでな、何か作んなきゃって思った時、これが思いついた。結果的にお前の大好物になっちまったわけだけどな。ほんと、食ってくれてありがとな」
「ケルトさん、感謝するのは僕の方なんですからね。あの時、ちょっと警戒しすぎちゃいましたからね。本当すいません」
優しく僕の頭を撫でる。偽りの親子なんてこと分かってる。でも、僕にとってはこれが本当の親子だ。お母さんやお父さんも、そう言ってくれるよね。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「な、何でこんなことに…」
驚くのも無理はない。お互い向き合っているのは煌牙組とバクのグループだ。互いに敵意をむき出しにしている。落ち着いているのはシャーガさんとメーデさんだけ。これから何が起こるんだ?
あやつらには本当手がかかるの…それより我々のグループにも名前を付けたいの。
次回「ーー正面衝突ーー」