第142話 ーー花束ーー
「んぅ…ん?あれ、僕神様の世界で…」
どうやら戻ってきたようだ。と言っても、旅をしたのは精神の方だから実質ずっとここに居た。長い間見ていたからどれくらい時間が経ったのか気になったが…
「安心せい。ほんの1秒だ」
「あ、良かったです」
灰で作られた雲が消え、空は青く太陽が輝いている。いつもなら鼻歌でも歌いたくなる天気だが、色々ありすぎてそんなこと少しも思えない。
「あの、世神様…その…ごめんなさい」
「良いのだ。実質我のせいでもあるわけだからな。お主らが神になった時の反面教師にしてくれ」
どこか遠く、儚い顔をしている世神様に申し訳なさを感じる。見せたくなかった物だったのかもしれない。それでも教えてくれた。僕はそれに感謝している。ふと、遠くで見ているケルトさん達を見る。何かを言い合っているようだ
「お主が行ってこい」
「嫌ですよ気まずいですもん。ここは兄であるご主人様が…」
「ははは。良い仲間を持ったな。行ってこい、イリウス。決して、失うんじゃないぞ」
「…はい!」
僕は元気を取り戻し、ケルトさん達の所へ走る。悲しくて仕方ないけれど、みんなの前では笑っていたい。それが僕だ。
「イリウスー!」
「あ、ナビ!どこ行ってたの?ずっと来なかったけど…」
「…目の下が赤いわね。泣いてたの?」
「…まぁね。それよりどこに…」
「その話は後で良いの。灰の能力者は倒したのね。良かったわ」
急いで飛んできたナビに一声かける。焦っていた様子だが大丈夫なのかな? とりあえず、ケルトさん達と合流した後、みんなで帰っている。周りを見てみると、灰の力で被害は受けたものの死者は出ていない様子だ。ある花屋を見て、僕はケルトさんからお金をねだった。
「ケルトさん!あの花欲しいです!」
「ん?良いけど…どうした?」
「えへへ〜。買ったらちょっと行ってきます。すぐ戻るので、先帰っててください!」
僕はそう言って花束を買った。買ったあとは走ってさっきの場所に向かう。あの人は、花畑に住むのが夢だったと言っていた。本当は娘さんとも同じにしてあげれたら良かったけど、名前も知らない。僕はまだ根が付いてる花をその場に植える。
「うーん。このままだと枯れちゃうかな…あ!」
近くに川が流れているのを見つけ、上手くこっちに流れるようにする。ほんの小さな道だ。この程度じゃ川にも影響ないだろう。
「これで良し!いっぱいの花畑には出来ないけど、これくらいで勘弁してよね!」
適当にあった岩を地面に刺し、供養する。どうか安らかに眠れますように。
「よし、行こ!」
僕はその場を後にし、走って帰る。色々あったが今日は洗濯日和だ。帰ったら洗濯物干し手伝おう。
翌日
「ふぁあ〜。朝が来たですね…」
チュンチュンと鳴くスズメ。相変わらず良い天気だ。昨日のニュースでも灰のことが話題だったが、死者は0負傷者も0だった。本当に良かった。
「おはよう、イリウス」
「おはようございます!ケルトさん!」
「あそこのカーテン開けてみろ、良いもん見れるぞ」
「?」
言われた通り庭への窓を開ける。僕はその色とりどりの光景に目を輝かせた。
「わー!!綺麗なお花がいっぱいです!」
満開に咲き誇る花々。種類問わずに咲いている。思い切って空へ飛んで上から見下ろしてみると、町中がこうなっているようだ。
「急にどうしたんですか?また何かの能力者とか…」
「いんや。あの灰、花の種が引っ付いてたみたいでな。それが一斉に開花してんだよ」
僕はそれを聞いた後、余計に嬉しくなる。やっぱり供養して良かった。
「これならきっと、夢も叶ってるだろうな」
僕の頭では、お花畑の上で彼女らが元気にはしゃいでる所が容易に想像できた。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「むしゃむしゃ…」
イリウスももう11歳。世間では中学生と呼ばれる歳だろう。この歳といえばあれが訪れるだろう。そう、成長期だ。身体の成長の為に恐ろしい食欲を発揮するイリウス。それが吉と出るか…
腹一杯食べるのは良いことだの〜。子供の成長に寂しさを感じてしまうのは歳故か?
次回「ーー成長期ーー」