第141話 ーー神の大戦ーー
「なんかグルグルします…」
世神様が時間を早送りしているんだろう。グルグルと回っていて変な気分だ。でもすぐに終わった。
僕らは門の前に居る。さっきまで生神様が居たが、今はたくさんの神様がいる。
「早く向かうぞ。さっきの会議室だ」
「へ?はい…」
僕的には神様達の状況の方が気になっていたが、世神様が言うことを聞く。会議室の中に着くと、4人が厳格な顔で話し合っていた。
「どうする?街の神達が本気で反対しだした。このままじゃ戦争にだってなりかねないよ」
「何故納得しないものか…」
テーブルの真ん中に水晶が置かれていて、門前が見えるようになっている。
「とりあえず行ってくるわ。後継ぎ争いもまだ中盤。戦争なんて起こったら選んだ人間達が困惑してしまう」
「待って、1人じゃ厳しいよ。僕も行く。四大神2人も居れば、きっと説得出来るでしょ」
「頼んだぞ、2人とも」
無機物を生みし神と混沌・秩序を司りし神が部屋を出る。平気かな…。その間に、残りの2人が話していた。
「我々は、どうすれば良かったのだ?神を代えることは…本当に正しいのか?」
「何を言っている。正しくなければ全員賛成にはならん。四大神が正しいと言ったものが正しい。間違っていると言ったものは間違っているんだ。それはあなたが1番よく分かっているでしょう」
「それは…そうだが…」
「世神様〜。た、大変でございます〜」
突然扉を開けたのはおじさんだ。執事みたいな格好をしている。
「あ、あれは執事だ。確か『星を生みし神』だったかの?今は執事自体廃止しておるがの」
「どうしたのだ? 何かあったのか?」
「それが…お二人が…」
何かを察したのか、生神様は椅子を飛ばして走りだす。「追うぞ」の言葉と共に、僕らも追いかける。急いで門の外に出ると、あんなに居た民衆は居なくなっていた。それより目立ったのが…
「…何故だ…何故こうなった…」
みんなを説得しに行った2人が、血だらけで倒れている。息をしているかも分からない。でも生神様の反応からして多分…
「な、何があった…どうなっておるのだ?」
「あいつら…」
生神様の神力が黒く、大きくなる。凄まじい量に驚きながらもそのどす黒さに鳥肌が立つ。それよりも、神力に込められた怒りや悲しみが僕にまで届く。僕まで涙が出てきてしまう。
「絶対に許さん。皆殺しだ」
「ま、待て!皆殺しなどしたら…」
「下界を管理しきれなくなる。分かっている。スーハー………落ち着こう」
生神様の神力が元に戻る。あの状態から元に戻れることに本当に驚きを隠せない。
「明日もどうせ来るだろう。その時に皆殺しだ。異論があるなら手を挙げよ」
「…異論はない。それより2人は…」
「もう手遅れだ。意識もない。神力となり消えてしまう」
「諦めるのか?お主なら何とか」
「出来るわけないだろ!俺は魂を作ることは出来ても復元は出来ん!だから大切だった!失いたくなかった!それが…どうして…」
悔しそうに落ち込む生神様。悲しそうに見つめる世神様。どれだけ大事な仲間だったのか伝わってくる。神力になって消えそうな2人。何の言葉も喋らず、生神様や世神様も戻ろうとしたその時。突如2人の神力が輝きだした。
「「!?」」
「これは一体…」
その輝きは2人の神力から生み出され、どんどんと形を形成していく。その形から、僕はあれだと分かった。
「この形は…星?何故2人から星が…」
作り上がった星は、雲のような地面に異世界への扉を形成して落ちて行った。そう、現代で言う神星だ。これを拾った者が、新たなる神になる。僕が聞いた話だと、神星は後継ぎを選ばなかった神が落とすものって話だけど…
「今のは一体…」
「おい世神。下がってろ。来たみたいだ」
生神様の目線の先は街の方。僕もそっちを見ると、さっきまでたくさん居た神様達だ。みんな武装している。これじゃあまるで争いだ。
「そう、争いだ。だから神の大戦なのだよ。まぁそこまで大きくないが」
「ここからどうやって…」
神の大戦、それが今始まろうとしている。生神様は一応という感じで問い詰める。
「早かったな。一応聞く。2人をやったのはお前らか?」
「…そうだとも。言う事を聞かない方が悪いんだ!神は代わるべきじゃない!」
「….やはり口で言っても分からんのだな。死にたくない奴は下がれ」
先陣を切っていた神が一歩引く。その圧力はそれほど凄まじいものだ。
「始めるぞ」
生神様の手に、神器が握られる。不恰好で、少し扱いづらそうな剣だ。
始まってすぐ、先陣を切っていた神の首が飛ぶ。僕の目が追いつかないほど早かった。それと同時に他の神々が炎や氷、水や毒などそれぞれの個性を活かした攻撃をするが、全てバリアで防がれる。何より僕が驚いたのは、バリアを解いた後、すぐにされたのと同じ攻撃をした事だ。
「あれって何ですか?された攻撃が…」
「人間が使う能力と神が使う能力は合致する。つまり、お前が歪みを操る能力なら、現代の生神も歪みを操る能力だ。昔の生神の能力は、『見た能力をそのままコピーする能力』だ」
「コピー…最強クラスの能力なんじゃ…」
「神力の消費量もコピーするから使いようだの。だがまぁ、使い慣れてしまえば、何十人が束になっても勝てないようになる」
僕は生神様の強さに圧倒される。たくさん居たはずの神々が、もうほんの僅かしか居ない。生神様は無傷、これが今までで1番優秀と言われる生神様の実力…。あっという間に全員殺してしまった。
「はぁはぁ…やりすぎてしまったか?少し刺激が強かったか、世神」
「…平気だ…我は…辛くない」
「思い出したことがある。前に2人が言っていたことだ。もし後継ぎを選べなかった神が居たらどうするか」
「…!神星か!」
「そうだ。実行したんだな、2人とも。俺らが居なくてもちゃんと出来たんだな」
恨みを晴らしたはずの生神様、すっきりしてなさそうだ。そこで、まだ息のある神が、気になる事を言う。
「お前ら…俺は…許さない…。せめて、お前らが苦しむように…してやる!」
倒れていた神々が、命を捨てて全ての神力を集める。その神力量は多すぎる。世界のルールを変えれるほどに。
「ルールを変える!後継ぎ者同士は、殺せばレベルを奪える!」
「何をしている!やめろ!」
多量の神力は地面に吸い込まれて行く。
「へへへ…争え争え…」
倒れていた神々は全て神力になって消える。残された2人は、立ち尽くすしか出来なかった。やがて行動を開始する。
「…は!世神!ルールの確認だ!さっき言った事が本当なら変更しなければいけん!」
「あ、ああ!……確認したが…変更出来ない!何でだ!」
「ここからはひたすらにわちゃわちゃするだけだ。忙しいだけだから見る必要はないの」
世神様が指をパチっと鳴らした瞬間、世界が暗くなる。残ったのは僕と世神様だけ。
「満足したかの?これがあのルールの真相だ」
「なるほど…変更出来ないんですね。思いの力ってやつですかね」
「よく知っているな。ちなみに、大量に死んだ神々は落神になっておる」
「!?」
落神…あの神社にいた神々、もしかして…。僕はそう思ったが、世神様には言わなかった。謎が解けた所で、僕は元の世界に戻る。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「夢を叶えてあげるんです!」
真実を知ったイリウス。神様を否定したくても否定出来なくて苦しむ。それでもイリウスは前を向く。誰よりも明るい子だから。死んでしまった灰の彼女に、弔いを。
出来ることならしてあげたい…それが僕のモットーですから!
次回「ーー花束ーー」