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第139話 ーー灰の女王 後編ーー

「やってみるしかないか。’線’」


 僕は線を発動させる。案の定見え過ぎて逆に見えなくなる。神力が多く籠っている線から神力がほとんど籠っていない線まで全てだ。これを何とか多く籠ってるものだけに絞りたい。目に込める神力量を調整する。


「ギリギリ…見える?」


 薄くなったが多く込められている線か見える。何とか雲から出てるこれを辿ってみる。どうやら山に続いてるようだ。ケルトさん達は平気なのかな…


「おい、連絡入れなくて良いのか?特定出来たんだろ?」


「うーん。今は1秒が惜しいからね。でも一応…」


 携帯片手に飛ぶ。相変わらず灰は降り続けている。


「あれ?全然出ない。僕の電話なら1コール目で出るのに…」


 いつも早く出るケルトさんが全く出ない。何かあったのかと心配になるが、戻ってる暇はない。


「仕方ない、バクにメッセージだけ送っとこ」


 丁度山に着く頃だ。電話なんてしたら僕の居場所がバレてしまう。『西の山、そこに能力者がいると思う』とだけ送った。既読は付かない。


「線だとここら辺なんだけど…あ、」


 木々の中に草の一つも生えていない丸い空間があった。その真ん中に1人、女の人が立っている。白髪長髪で顔は見えない。空に手を掲げて魔法陣を生み出している。多分あの灰だ。


「あの!その灰、すっごく迷惑なんですけど!」


「あ…ら?」


 僕の声にびっくりするどころか酷く冷静みたいだ。


「あなた…私の灰を受けてる…?動けるの…?」


 僕の腕にあった緑色はどんどん浸食してきている。この人は喋り方が少し変だ。声小さくて聞こえづらい…


「やめないんだったら攻撃します!僕と戦わない方が良いですよ、あなたの能力じゃ勝てません」


「あら…そう…?」


 気だるそうな目でこっちを見た途端、大量の灰が飛んでくる。灰一つ一つの神力量が上がっていて歪みが対応出来なかった。


「くっ…!ペグはケルトさん達呼んできて」


「平気なのかよ。壁ぐらいは作れるぜ?」


「良いから、行ってきて」


 灰に掛かった影響か、腕が緑化する速度が上がっている。ペグは心配そうにしていたが飛んでいってくれた。僕がどれくらい持つか。


「それだけの量…掛かれば、助からない…わよ」


「どうしてこんなことを。能力者じゃない人も巻き込まれてるんだぞ!」


「…そう。でも…良いの。私は…どうせ死ぬ。なら、たくさんの人を巻き込んででも…神になるわ」


「どうせ…死ぬ?」


 一言に疑問を持った。だが考えさせてくれる時間は与えてくれない。すぐに灰の追撃が来る。これ以上喰らえば1分持たない。今の状態でも恐らく5分待てば良い方だ。石化する前に、説得、解析…最終手段として殺さなければいけない…。

 相手の攻撃は灰。(おり)を使ったとしても動きを封じれるだけで灰は封じられない。灰自体も込める神力量を変えられれば歪ませられないかもしれない。逃げ回りながら説得は可能なのだろうか?


「こんなことやめて下さい!こんなんで神になったとして、あなたはきっと後悔することになる!」


「後悔…?そんなの、ずっとしてきた…わ。もう、何も、残ってないの。神にならなきゃいけないの!」


 灰での攻撃が激しくなる。この範囲でこの量…神力量が多すぎる。普通の人間が出せる量をとっくに超えているはずだ。女の人はどうしてこんな量の神力を? 考えている間、女の人が自分のレベルを確認する。一瞬だったが、僕には5と見えた。バクの話によるとまだ死人は出ていないはず。コツコツやってきた証か…


「そのレベルなら急がなくても平気なはずです。どうしてそこまで…」


 攻撃が止んだ。僕の敵意がないことが通じたか、あるいは純粋に効くことを聞いたのか。彼女は少し話しだす。


「私…病気、なの。もう、治らない、の」


 衝撃の告白に固まる。神様は病気や殺されることを考慮しない寿命でレベルの上げやすさを決める。この人も病気にならなかったら…そんなことを考えると頭が痛い。悲しくなる。次第に左腕が完全に緑色に。顔はと浸食を始める。


「私は…この世界、が憎い。私も、娘も、世界に殺された。こんな、ルールのせいで…」


「ルール…後継ぎ争いのことですね」


 後継ぎ争いにおいて他人のレベルを奪えるルール。これはいくら考えても理解出来ない。この人も同じなのだろう。彼女からは深い憎しみを感じる。


「娘って言いましたけど、娘さんは今どこに?」


「…死んだ、わ。能力者の、戦いに巻き、込まれて」


 聞けば聞くほど辛い。だからこそどうにかして止めなきゃ。


「この能力を今すぐに解除してください。あなたは悪人になっちゃいけません。天国で見てる娘さんにも顔を合わせられなくなりますよ」


「うる….さい」


「早くしないと、たくさんの死者が出てしまいます」


「う…る…さい」


「死んじゃったら…帰ってこないんですよ」


「うるさい!」


 緑色の部分は石化する。完全に石化してしまえば、心臓も機能しなくなる。彼女は完全に自分を見失っている。灰がますます激しくなる。でも僕は、守る気が起きなかった。灰の中進んで、彼女の元へ向かう。守りもしない僕に驚いた様子だ。


「どうし、て?守らない…と。死ぬのよ?」


「人は、戦わなくても神になれます。僕はそれを知っている。戦う必要なんてないんです。分かり合えなくても、言葉を交わせば分かりあえ…る…?」


 足が動かない。力が入らない。見えてる右腕はもう完全に緑色だ。そういえば左目も見えない。右目も段々と…。誰かに頭を持ち上げられてる気がする。


「なん…で。私の、能力は、解除出来ない。一度…掛かれば、もう終わる。どうして?どうして、あなたみたいな子供が…死ななきゃいけないの…?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ママー!見て見て!」


「あらー。綺麗なお花さんね」


「ママは将来、神様になるんでしょ?そしたらー、マイの家をいっぱいのお花畑にして!」


「マイが良い子にしてたら、そうしようかしら? 将来のマイは良い子に出来るかなー?」


「ぜーったい良い子にしてるね!だからママも神様になったら会いにきて!約束!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「解除、する方法は一つ…」


 グサッと鈍い音が聞こえた。時間が経つと、僕は目を覚ます。降っていた灰は止み、目も見える。身体に力も入り、起き上がる。後ろを確認すると、そこには灰を操る女の人が血を流して倒れている。足元からフワフワが舞い上がっている、、、


「そんな!どうして…刃物が胸に刺さってる…」


「あぁ…」


「…!まだ生きてる!早く救急車を…!」


「だ、め…」


 ただただパニックになっている僕を、彼女は止める。足元から神力に…神からの弔いを受けてしまったら、治しても治らない。知ってるはずなのに。


「生きてて…良かった…」


「ダメです!死んじゃダメです!どうして…」


 掠れた声でも、さっきと違って優しい。僕のことを、まるで自分の子供を見ているかのような目で見てくる。


「私…夢があったの…」


「夢…?」


「娘と…いつか、一面花畑の、家に、住みたかった…私が、神になって…あの子に、住んで、欲しかった…」


 子供を心から愛しているお母さんなんだろう。自分を差し置いても、子供を想っているのが伝わる。


「あなたの…夢は、きっと、親の夢でも、ある。だから、後悔しない、ように、させない、ように、頼ってあげるのよ?」


 僕の知らない親心。僕はずっと、我慢するのが1番だと思っていた。心配かけずに、自分が我慢してれば良いと。でも違うのかもしれない。


「はい…!きっと、夢を叶えてみせます!」


「そう。ありがとう」


(マナ、私は最後まで、母親でいれたかしら)


 彼女は、頭まで神力となり、消えてしまう。やったことは許されない。重々承知だ。けど、それでも、こんなのっておかしいよ。涙が止まらない。奧でケルトさん達が立ち止まってるのが見える。こっちまで来れないようだ。


「うぅ…。こんなの…無いよ!」


 悔しい。良い人が死んじゃうこの世界が、ルールが、どうして直らないんだ。


「見てるんでしょう?世神様。教えて下さいよ! どうしてこんなルールが無くならないんですか!」


 木の裏に居るのが分かる。問い詰めずにはいられなかった。


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「世神様、答えて下さい」


 目の前で惜しい人を亡くしたイリウス。無力さに、残酷さに絶望し、それでも抗う。この一部始終を見ていた世神に全てを問い詰める。世神から出てきた言葉は本当か嘘か。

 群れねー能力者は嫌いだ。どいつもこいつも、クズとは程遠いやつばかりだからな。


            次回「ーールールーー」

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