第132話 ーー筆の名前ーー
「うーん…?」
僕の誕生日の翌日。大きなケーキに豪華な食事を平らげ、お腹いっぱいの状態で寝てしまった。唯一覚えてるの会話が、
「余りすぎちまったな。明日の朝食にでもするか」
「にゅ〜」
である。その後からは記憶がない。変な時間に目が覚めたようで、原因が何か考えているとガタゴトと音が聞こえる。仕方がないから起き上がり確認する。
「お?起きたのか」
「何やってんの?こんな時間に」
筆が何かを描いている。情景画のようだ。綺麗な緑色に、鮮やかな青色。とても素敵な場所だ。僕は何を言うわけでもなく、ただその絵を見つめてしまった。
「たまには自分でも描かないとな。せっかく高い絵の具もあるんだし」
改めて見ると、浮いている筆が勝手に絵を描いているというのは不気味がすぎる。
じーっと眺めながら、僕はあることを思う。
「そういえば、名前付けてなかったな」
「あ?名前?いらねいらね」
「でも筆だと呼びにくいよ。それに意思があるんだから名前くらい…」
幽霊にすら『ナビ』って言う名前が付いてるし、使い魔にだって『スキュー』って名付けている。筆だけ『ふで』だと何か嫌だ。
「犬に『いぬ』って名付けてるようなものだよ。絶対おかしいよ」
「えーめんどくせーなー」
「何話してんだ?」
急にドアを開けたのはケルトさんだ。この時間に起きてるとは流石だ。どうやら僕が話しているのが聞こえたらしい。
「筆に名前を付けようと思ってます」
「またそんなことしてんのか…良いか?スキューについてもそうだったが、物に名付けなんてしねーんだぞ?」
「この子もスキューも物じゃないです!しっかりと意思のある生き物です!」
「そいつらが特異例すぎんだよ…」
少し呆れてそうだったが、僕のことは止められまいと悟ってドアを閉めた。
僕はその後、名前を考える。何か特徴が欲しい。その上、名付けに丁度良いエピソードとか…
「実現化…絵の具…筆…芸術…」
僕は初めて出会った時を思い出す。僕の部屋を勝手に汚しまくっていた。あの時は折ろうと考えてたな〜。
「あの時ってペンキと絵の具で汚してたんだっけ」
「そうだな。元々あった絵の具でペンキを描いた」
「じゃあ…ペンキと絵の具で『ペグ』!」
「はぁ?んだよその可愛らしい名前は」
「良いじゃんペグ!筆らしい名前だよ!」
「…ったく」
勘違いかもしれないが、少しだけ嬉しそうに見えた。喉が渇いたからリビングに向かうと、珍しいことに3人とも居た。
「あれ?ケルトさんとトラさんはまだしも、バクが起きてるなんて…」
「失礼よの。我だって早起きぐらいする。お主こそ何でこんな時間に?子供はよく寝るものだぞ」
「筆に名前付けてた!ペグって言うんだ!」
「ははは。筆に名前か。実にイリウスらしい」
トラさんとバクは笑っていた。ケルトさんは少し考えた後、こう言った。
「それって由来なんだ?」
「ペンキと絵の具です。僕の部屋を汚した時の道具です」
「…お前って名付けのセンスあるな。ご主人様とは大違いだ」
バクが「何だと!」と少し怒り気味だったが、トラさんも否定する気がない。一体何が…?
「実は俺とトラの名前ってご主人様が付けたんだぜ」
「そうなんですか?それならセンスあると思うんですが…」
「良いか?候補の中の一つってだけで、他の候補がやべーやつだったんだよ。最初の名前は今でも覚えてる。驚くなよ? 『パンデ・モ・ニウム』だぞ?危うくパンデだぞ俺」
あまりのパンチに吹いてしまった。その後大笑いしてバクに怒られた。
「パンデモニウムには混乱的な意味があるのだ! 我々を混乱させたお主には丁度良いと思ったのだ!」
「それはそうと…俺の名前も覚えてるんですか?『コレイトマグナス』ですよ? どんな名前ですかこれ」
「そ、それは…なんかかっこよかったから…」
僕らで笑っていると、バクは恥ずかしがってくる。
「うるさいうるさーい!我だって色々考えておるのだ!」
「あーははは。はぁはぁ、分かった分かった。結果的には良い名前付けてるし。ケルトさんとトラさんの由来って何?」
「ケルトはケルベロスみたいだからケルトだ。トラに関しては…虎であろう? あ、あと文字にすると分かりづらいが、虎は『ト↓ラ→』であるが、名前は『ト↑ラ→』だから気をつけるのだぞ」
意外にも真っ当な由来で驚く。数撃ちゃ当たるとはこの事だろうか。あんまりいじるのも可哀想だからここまでにして、ペグについての話題になる。
「あの筆。描いたものを実現化出来るのだろう? 中々に強くないか?」
「そうだね。でも調整が難しいらしいよ。ちょっとでも間違えれば別の物になりかねないって」
「まぁそれが絵の難しい所だからな。水晶を描いてるつもりが、ただのビー玉みたいになっちまうこととかあるだろうしな」
ペグのあの力は、きっと僕の神力による物だろう。どうして神力を使えてるのかは謎だが、利用出来るんなら利用していきたい。何はともあれもう眠くなってきた。僕はその場を後にして二度寝へと入る。ペグ、僕の新しい仲間だ。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「久しぶり!」
旅行から帰ってきて1週間ほど。思えばイリウスの友達であるピルスとの関わりが少なかった。久しぶりに遊ぶ約束をしたイリウスは、ピルスと街を出かける。
ムムム…我ってそんなに名付けのセンスがないのか…かっこ良いと思うのだがの…
次回「ーー紹介ーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m