第131話 ーーイリウスの誕生日ーー
「ぐぅ〜。ヒュ〜。ぐぅ〜。ヒュ〜…」
色々あったハロウィン。1日が過ぎ去るのは早いもので、あっという間に寝る時間だ。僕はもうぐっすり寝ている。
「はぁ〜。全く、あいつはほんと色々呼び寄せちゃいますね」
「そうよの〜。本人は戦う意志もないから可哀想だの。我々がどうにかしてやらんとな」
ケルトさん達3人は、スナックをつまみにお酒を嗜む。僕について話してるようだ。
「もう11月に入ってしまうな」
「そうだな。11月はこれと言って特別なもんねーし、落ち着けそうだな。イリウスに修行付けてやれる良い時期だ」
「そういえば、イリウスが来たのもこのくらいの時期ではないか?」
僕がローディアに連れてこられた日。全てはそこから始まったんだ。
「そうですね。イリウスが来たのは11月1日。ちゃーんと覚えてますよ」
「と言うことはもう一年経つのか。早いの」
ケルトさんも、トラさんも、それを言ったバクですら違和感を感じた。黙り込んで違和感の正体を探すと、ハッと気づく。
(((イリウスの誕生日っていつだ????)))
(そういえば考えていなかった。このままでは永遠の10歳ぞ…)
(やべー人間界で誕生日の欄は見てなかった。てかもう11歳じゃねーか?)
(誕生日…何してやろうかな)
焦っている様子の2人。トラさんはとても落ち着いている。僕自身も誕生日の記憶はないからいつが誕生日か覚えていない。
「おし決めた!イリウスの誕生日は明日だ!」
「き、急すぎるであろう!我は何も準備しておらんぞ!それに勝手に誕生日を変えるなんぞ…」
「あーもううるさいです!俺が父親なんですから俺が決めます!」
「明日は忙しくなりそうだな。イリウス、喜んでくれるかな」
言い合っているケルトさんとバク。トラさんは妙に落ち着いている。てか何でトラさんだけ悟った感じなんだろう?
何はともあれ朝が来た。僕がゆっくり目を開けるとカーテンから入ってきた光が映る。
「うにゅ〜。今日も良い日になると良いです!おはよ〜ナビ、筆〜」
「あら?もう朝なのね。もう少し休むわ」
「俺はまだ寝とくぞ〜」
「だらしないんだから」と思いながら顔を洗いに洗面台に向かう。洗面台にの扉を開けると、そこにはトラさんが居た。顔を洗っていたみたいだ。タオルを取ろうと手をごちゃごちゃしてたので渡してあげる。
「おはよう、イリウス」
「おはようございます!こんな時間に顔を洗ってるなんて珍しいですね」
「少し夜更かししてしまってな。朝食は出来てる。早く来るんだぞ」
微笑みながら僕の頭をポンポンと撫でる。いつもより機嫌が良いように見えた。僕もささっと顔を洗い、リビングに向かう。
「おはようございまーす!」
「おはようイリウス。飯食うよな?」
「はい!」
「相変わらずよの。おはよう」
バクは相変わらず新聞を広げている。ケルトさんは僕のご飯をよそって置いてくれている。僕が席に着くと、みんなも席に着いて朝食を食べる。
「いっただっきまーす!」
むしゃむしゃと食べていると視線を感じる。みんなが僕を見ているんだ。悪いことしたわけじゃなさそうだが…
「なぁイリウス。その…自分の誕生日って覚えてるか?」
「?ケルトさんの誕生日は4月の2日です」
「違う違う。イリウスの誕生日だ」
「…僕?」
うーんと考えてみるが思い当たる節がない。
「もし、良ければなんだけどよ。今日ってお前が初めてローディアに来た日なんだよ。だから今日を誕生日にするってのは…ダメか?」
突然のことに驚いたが、そのことで僕の様子を伺っていたのかと理解する。
「僕の誕生日のこと、考えてくれたんですね!すっごく嬉しいです!それで構いませんよ」
「そうか!良かった。これで存分に祝えるな」
3人とも嬉しそうにしている。僕としては、普段から大事にされてるから、祝われなくても全然良いのだが、ケルトさん達も祝いたいんだろう。
「プレゼントは何が良い?欲しいものがあるなら何でも買うぞ」
「うーん…それはバクが選んで!みんなが選んでくれたものなら何でも嬉しいです!」
「そうであるか。分かった、頑張ってみよう」
初めての感覚だ。誕生日を祝われるなんて。記憶がないせいかもしれないけど。僕は朝食を食べ終え、部屋に戻る。ケルトさん達は出かけてしまったみたいだ。
「誕生日か〜。僕って本当はいつだったんだろう」
「あら?誕生日なの?おめでとう」
「えへへ〜。ありがと〜」
「ケーキでも描いてやろうか。まぁ実体化は力使うからやらねーが」
「それならただの絵でしょ」
ナビと筆は元気そうだ。毎日絵を描いてるからか、筆も機嫌が良い。
「イリウスは、人間界出身なのよね?それでこっちに来た時に記憶を失った」
「そうだよ。急にどうしたの?」
「そんな大事なことじゃないんだけどね。人間界のことってどこまで覚えてるの?誕生日も忘れてるんじゃ何も覚えてないんじゃない?」
「そうだね。なんて言うか、情報を思い出せないだけで、その時の風景とかは思い出せるって感じかな。『これ見たことある!でも何だっけ?』みたいな感じ」
「なるほどね〜」
確かに言われてみればそうだ。僕は情景しか思い出せない。見たことある場所や、やったことあるやりとりをすることで、その時の情景が出てくる。でも情報はさっぱりだ。変なの。
「誕生日、ねぇ〜」
そう考えていると、また一つ記憶が戻ってくる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「「「誕生日おめでとー!!!」」」
「ありがとう!」
目の前には蝋燭が刺さっているケーキ。たくさんの食べ物。電気が消されていて、蝋燭の火だけが明かりだ。お母さんにお父さん…あと1人いる?
「さぁ、蝋燭を消して?」
ふぅーと息を吹くと蝋燭が消える。お父さんが明かりを付けに行き、部屋は明るくなる。
「おめでとう、優斗」
「ありがと!○○!」
「ん?何か言った?」
お母さんがよそ見をしている間、そのもう1人と言葉を交わす。顔も名前も分からないが、この人は祭りの記憶の人だ。
「ううん!何も言ってない!」
どうして嘘を吐いたんだ?お母さん達には見えていない…?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パッとベッドから起き上がる。今のは何の記憶だったんだろう。そうこうしているうちに夜が来て、いつの間にか帰ってきてたケルトさん達が僕の誕生日を祝う。
「「「誕生日おめでとー!!」」」
「ありがとうございます!」
「早速だがプレゼントだ!開けてみろ!」
綺麗に包まれた箱。僕はその箱を開ける。
「わー!お人形だー!」
可愛らしい犬のぬいぐるみ。黒色の毛をしており、どことなくケルトさんが意識してあるように見える。
「1人で寝るのも可哀想やしの。その人形と寝ると良い」
「なに!?寂しいんだったら先に言えよ!俺の部屋で一緒に寝ようぜ」
「今度お邪魔させてもらいます。バクありがと!」
人形を大事に抱えて落ち着く。本当に嬉しい。次はトラさんが持ってきた。
「これ、喜んでくれると良いが…」
これまた少し大きめの箱だ。中を開けると、たくさんのお菓子が入っていた。開けた瞬間のバターの香ばしい香りが漂ってきて食欲をそそる。
「少し張り切ってしまった。プレゼントとか送ったことなくてな…料理くらいしか出来んから、こんなものになってしまった…」
「すごい嬉しいですよ!流石はトラさんです!」
多すぎるからピルス君と分けて食べようとか思っていると、ケルトさんの番が来る。
「俺は少し特殊だからな。目ぇ瞑ってろ」
1年修行券とかじゃないよなとドキドキしてると、手を触られる。その瞬間、
「ケルト!それはダメだ!別の所にしろ!」
バクの怒号が飛ぶ。心配になりながらも目を瞑って待っていると、指に何かが嵌まる。
「目、開けて良いぞ」
何かを感じる左手の中指を見てみると、そこには綺麗な指輪が嵌められていた。
「わー!すっごく綺麗です!」
「喜んでくれたようで何よりだ。お前には、やっぱりアクセサリーが似合うと思ってな」
僕は自分の指を見て、目を輝かせながらも一つ思った。
「でも…」
僕は指輪を外す。少し眺めながら、こう言った。
「子供の僕には少し早いです。大人になったら、また付けたいと思います」
「…そうか。そうだな。今のお前なら、首輪だけの方が満点だ」
子供で指輪を付けてるなんて、ちょっと僕らしくない。でも、僕はみんなの目をしっかりと見て言う。
「本当に、ありがとうございます!」
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「そういえば、名前付けてなかったな」
誕生日の翌日、イリウスはあることを思う。そう、筆だ。筆だからと言って筆と呼ぶのは些か悲しい。せめてもう少し捻りのある名前を上げたい所だ。イリウスの名付けセンスが問われる。
イリウスは賢いからな!名付けのセンスも一人前なはずだぜ!
次回「ーー筆の名前ーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m