第130話 ーーハロウィン 後編ーー
「トリックオアトリート!」
目の前にいるかぼちゃ頭は、僕が見た物と、ニュースで見た物両方に合致している。この子が放火を?と思ってみたり、やはり信じられなかったり。
「ねぇ、君さ。本当に放火なんてしちゃったの?」
「?トリックオアトリート!」
恐らくそういう妖怪だ。ハロウィンしか見ないと言われるだけある。難しいことは話せないんだろう。僕は危ないと分かっていても、実践するしかない。
「…お菓子は持ってない。トリックで」
「あ!」
覚悟を決めた間際、急に隣のビルを指差したので、僕はそっちを向いてしまった。何もないと思い正面を向き直すと、パイが飛んできた。
「キャハハハハハ!」
妖怪は投げつけた後走り去ってしまった。僕は顔がクリーム塗れ。ケルトさんに笑われながらハンカチで拭く。甘くて美味しいクリームだ。
「やっぱりおかしいです。放火なんてしてないように…」
「トリックオアトリート!」
走り去ったと思った妖怪は、別の人に同じことをしていた。特に何も感じない、一般人のおじさんはシッシと手をやり妖怪を無視した。僕は遠くから様子を確認していた。
「お菓子持ってないの?」
「あぁ、持ってねーからどっか行け。妖怪風情が」
「そっか…」
途端におじさんが空中に浮き上がる。足をバタバタとさせてもがいてる様子だ。僕はすぐに異変に気付き、飛んで向かう。おじさんの様子を確認すると、糸で首を吊るされている。神器で糸を断ち切ったあと、妖怪を問い詰めなければいけない。
「何でこんなことしたの!」
「?さっきのお兄さん。トリックオア…」
「答えて!どうしてこの人を殺そうとしたの!」
妖怪は俯き、少し考えた後、顔を上げて首を傾げた。
「だってそれが望んだイタズラでしょ?」
おかしい。違和感がすごい。さっきまで全く喋らなかったくせに、急に流暢に喋り出す。僕にやってきたイタズラとは程度が違すぎる。一体…
「ぐへっ」
「イリウス!違和感があったろ。分かったぜ。あいつ、粘土だ」
妖怪を蹴飛ばして僕の所に向かってきた。僕の横に立ったケルトさんは意味が分からないことを言う。
「何言ってるか分かんないです!」
「妖怪には特別な種類がいる。それが粘土型だ。粘土型は人々によって自分の力や姿を変える。人々の理想や想像を実現化しちまうってわけだ」
「今の状況で例えると、そなたは妖怪を脅威と見ていなかった。だからパイを投げられる程度で済んだんだ。だがそこの者は違う。妖怪を脅威と見ていた。イタズラが死に繋がる物だと考えていた。だから殺されかけたんだ」
「形を変えるから粘土…じゃあ放火しだしたのって….」
「人間達が変な噂を広めるからよの。パイを投げつける妖怪として広まったなら、丸っきり無害の妖怪になっていたんだ」
結局人間のせいじゃん…みんなが間違って認識しちゃうから…そのせいでメメも化け物に…
「だが、あの時とは少し違う。粘土型の特徴に、化け物にならないってのがある」
「…つまり?」
「お前が選べ。今すぐ俺らであいつを消滅させちまうか。人間どもの過半数近くの認識を変えるかだ!」
前者の方が圧倒的に簡単だ。今ならみんないる。勝負にならないくらいだろう。でもそっちは選択出来ない。
「変えてみせます!全部!」
「おう!殺さねーよう抑えつけるぞ!」
このままだったら、そこまで被害は出なかった。可能性を掴み取れた。みんなに見つかる前までは。
「見て、あれ放火した妖怪じゃない?」「知ってる。お菓子持ってないと殺されちゃうのよね」「俺の親父は巨大化したあいつを見たって言ってたぜ」「お菓子を選ばなきゃ死ぬまで追いかけられるとか」
「…!!なんで一般人が!このままじゃ…」
遅かった。妖怪は力を増していき、巨大化までしていた。みんなの噂が本物になるとしたら、トリックを選んだ僕は死ぬまで追いかけられる。そして何よりまずいのは、
「こりゃあ無理な気がすんな。殺すか?」
僕のピンチとなれば手段を選ばない人達がいること。このままじゃ妖怪は完全に悪役だ。
「どうすれば…巨大化した状態だと騒ぎになる。それだとまた噂が広がる。認識が広がる。戻れなくなる…」
周りに目線をやるが、どんどん人が集まっている。テレビ局まで来ている。この様子が世界中に広がっている。もう…
「イリウスー!」
「ナビに筆。どうしてここに?」
「なんかすっげーことになってるから来てやったんだよ」
「妖怪ね。どうせあなたのことだから救うんでしょ。何をすれば良い?」
僕は頭をフル稼働させる。僕に向かってくる攻撃は全てケルトさん達が押さえ込んでくれている。早くしないと。良い案を思いついた。
「作戦が決まった。ここでこうして…」
「分かったわ。やってみる」
「俺に関しちゃ出来る前提かよ。まぁやってやるよ」
「お願いケルトさん!ここからは僕らに任せてください!」
一瞬疑いの目でこっちを向いたが、すぐにバク達を連れて退く。ここからが本当の戦いだ。
「ローディアは良いわね。霊力がたくさんあるもの。少しぐらいはポルターガイストが出来るわ!」
「見て下さい!妖怪の影響か、ゴミ箱が宙に浮き出し…」
1つ、ナビが注意を引いて、僕の存在を勘付かれないようにする。僕より強いなんて認識されたら、それこそ勝ち目が無くなる。
「こっちだよ!」
2つ、時間稼ぎ。僕が空中で攻撃を避けて時間を稼ぐ。全てはあれのため。
「出来たぞイリウス!」
「ありがと!」
3つ、この玉を妖怪の口に放り込む。これで何とかなるはずだ。認識通りにいくなら。
「これで…戻れ!」
玉を放り込んだあと、妖怪の動きは止まる。次第に小さくなっていき、元の大きさへ。
「はぁはぁ…どう?美味しい?」
「うん。おいしい」
玉の正体は飴だ。認識によれば、お菓子を選べば無害になる。これを利用したまでだ。
「あれ?ゴミ箱に集中していたら妖怪が元の姿に戻っています!これは一体…」
僕は妖怪を持ち上げて、カメラの前まで行く。そうしてみんなの認識を直すんだ。
「この妖怪はパンプキンです。お菓子を上げなきゃ、ああやって人を驚かせるんですよ。実際は驚かせているだけで無害な妖怪なんです」
「でも、火事の件もありますが、そこはどう説明するんですか?」
「この子は幻覚を見せる力もあるんです。幻覚によって、自分で火をつけちゃったんです。もしこの子にイタズラされた場合でも、落ち着いてその場で止まっていれば、平気なんですよ」
火事になっちゃった人や、イタズラされちゃった人には悪いけど、こうするしかない。これが僕にとって1番のありばい証明になるから。全て幻覚ということにすれば、実際には無害な妖怪になるから。テレビ局の人たちも、僕にインタビューし終えたみたいで続々と帰っていった。隠れていたケルトさん達も戻ってきた。
「よくやったじゃねーか。まさかここまで綺麗にやっちまうとはな」
「えへへ。ナビと筆が居たお陰です。2人が居なきゃ、僕じゃどうにも出来ませんでしたもん」
ナビがポルターガイストを起こせると言うのは聞いていたが、筆に関しては言ってみただけだ。実際に出来るかは分からなかった。
「その妖怪、もう平気なのかの?」
「恐らく…テレビの視聴率がどの程度かによりますが、被害数は少なくなるでしょう」
「トリックオアトリート!」
妖怪は物足りないのか、もう一回僕に言ってきた。
「うーん。もう持ってないよ」
「あ!」
またどこかを指差す。すぐにハッとして正面を向くが、もう一回パイが飛んできた。
「キャハハ、ありがと!」
「ぐぬぅー…やられました…」
「パイを投げる妖怪という認識ではなくなったはずだがの。あ、そういうことか」
「ん?どうかしたの?」
「お主とケルトは認識自体が無いんだ。つまるところ、パイを投げるのは、あの妖怪自体の特性。誰の認識にも縛られていない特性ということだ」
「もう、認識とかよく分かんないよ…」
今日はハロウィン。不思議なことがいっぱいで、いつも通りにめちゃくちゃな日。楽しかったし、妖怪を助けられたし、良い日ではあった。次はこんな事件とか無いと良いけど…
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「誕生日?」
忘れていたことがある。そう、イリウスの誕生日だ。記憶がないため自分で覚えてるわけもなく、誰も誕生日を知らない。かと言って祝わないわけにはいかない。
僕の誕生日回なのです!と言っても、普段で十分幸せなので祝われなくても平気です!
次回「ーーイリウスの誕生日ーー」