第123話 ーー親の絵ーー
「ということでよろしくお願い致すです」
「お、おう。教えれる事なら教えるぞ」
僕はリビングに絵を飾らせてあげる見返りに、ケルトさんから絵を教わる事にした。もしかしたらケルトさんにも画力が無いかも?と思いつつ、部屋に入る。
「つっても、俺もそんなに上手くねーぞ」
そう言って渡されたキャンバスを手に取る。僕は恐る恐るキャンバスを開くと、そこには驚きの景色が。
「え?写真貼ってるんですか?」
圧倒的解像度の高さ。一目見ただけで写真だと分かるほどだ。流石に僕もこんなのには騙されない。
「ちょっと!いくら子供だからって写真と絵の区別ぐらいつきますよ!」
「いや、写真じゃないんだが…」
「絶対写真です!この夜景とか、光の入り具合がもう写真です!」
「たから写真じゃねーって…んなに言うなら今描いてやろうか?」
「そうして下さい!」
ケルトさんは僕からキャンバスを取り上げ、鉛筆を手に取り、描き始める。僕も隣で拝見することに。何故か着いてきた筆も一緒だ。
パッパと恐ろしい速度で鉛筆を進める。少しの迷いもなく、消しゴムも使わない。段々と何を描いてるのかが分かってくる。
「僕?」
「そうだ。あん時…俺が首輪を渡した時の顔だ。涙が朝日でオレンジになってて、すっげー綺麗だったんだぞ」
ケルトさんは微笑みながら僕を見る。あの時、忘れもしない。ケルトさんが僕のお父さんになった日。思い出に浸っている間に、ケルトさんは絵を塗り始める。
「うわ。この速度で塗るとか信じられねー」
「本当に早いです…まだ5分くらいです…」
僕がじーっと見ている間に、絵が完成する。
「おら、どうだ?本当に描いてただろ?」
「うーむ…本当に写真みたいです…」
「ここまで本物そっくりって…ピカソより才能あんじゃねーの?」
「再現する絵と、創造する絵はちげーよ。俺はあくまで自分が見た景色を再現してるに過ぎねー。でもイリウスに必要なのはこれなんだろ?」
「はい。あの時の殺人鬼の状況を絵で再現したいんです」
この筆は使っている人の絵柄に左右される。ピカソの絵柄だと、髪色もろくに分からない。だからこそ、髪型、髪色、服装などなどを再現出来るような絵描きにならなきゃいけない。
「そういえばケルトさんに使ってもらえば良いんじゃない?」
「俺はこの犬嫌いだ。使われたくない」
「俺は狼だ!今すぐ折るぞ!」
こんなことなら絵の練習をしておけば良かったと後悔する。でもここから頑張っていくしかない。
「とにかく!その描き方教えて下さい!」
僕はケルトさんと筆が言い争ってる中、終止符を打つ。ケルトさんはすぐに「おう!」と言って教えてくれた。
「良いか?再現って言うのは、見て表現するんだ。見たまんまの色を、見たまんまの形を。もちろん動く場合もある。そん時は、記憶を頼りに描けば良い」
「なるほど。やってみなきゃわかんないやつですね」
「そうだな。じゃあこの部屋を描いてみろ。よっと」
ケルトさんは僕を膝の上に乗せた。そして描きながら丁寧に教えてくれた。そのまま1時間…
「うーん…あんまり上手くいかないです…」
「はっはっは。そんなもんだ。最初はな」
「これじゃあ暗さも相まって、髪色が判別出来なくなるな。あと輪郭ちゃんとしろ」
筆に叱られながらも最初の絵よりは確実に上手くなった。僕はこれを機に、絵を描いてみるのも良いと思った。
「そんじゃ、それもリビング行きかな?」
「もう、冗談はやめてください、よ!」
「うぉ!」
「うわぁ!」
ふざけて神器を振ると、ケルトさんはゆっくりと白羽どりする。でもその時にバランスが崩れ、ケルトさんの椅子が後ろに倒れてしまった。もちろん座ってたケルトさんも、その膝の上だった僕も後ろに倒れる。
「ちょっと大丈夫?ふざけてるからこうなるのよ」
「うにゅ〜。僕は平気。ケルトさん?」
「いっててて」
ケルトさんは頭を擦りながら上体を起こす。
(そういえば…いつもなら開口一番に「大丈夫か!イリウス!」なのに。今回は無かったな)
この考えがまさか現実になるなんて。この時は思いもしなかった。ケルトさんの一言で、その場は完全に凍りつく。
「…どこだ?ここ。誰だ?お前」
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「ケルトさん!目を覚まして下さいよ!」
突如としておかしな事を言い出すケルト。イリウスは半信半疑の状態だったが、トラの姿を見たケルトは一瞬で形相を変える。一体ケルトの身に何があった?
頭でも打ったのだろう。恐らくは記憶喪失よの。身体だけが取り柄のケルトがこんなことになるとは…
次回「ーー昔のケルトさんーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m