第122話 ーーお絵描きーー
「さーてと!早速描くよ〜!」
僕はそう宣言すると、キャンバスを前に筆を持つ。何を描こうか考えているが、特に何も思い浮かばない。
「新しい筆を早くも試す精神…見直したぜ」
「だって使わなきゃピカソの絵柄のままなんでしょ。早くどうにかしなきゃ」
とりあえず僕の最初の作品になりうるもの。頑張らないとと気合を入れる。ピン!と思いついた物、それは花畑だった。元より花が好きな僕は花畑を描く事に。
「ふんふふんふふーん♪」
「お、何だこの輪郭は。人か?違うな。丘でも描いてんのか?」
「すっごい喋るなこの筆…」
元々口数が多いと察していた僕だったが思った以上に喋る。まぁ嫌だったら壁にあるピカソの絵を消せば良いだけなんだけど。
「あ!花畑だな!お前らしい作品だな。あ、もっと細かく描けよ。それじゃあ花じゃなくてカラフルな雑草だぞ」
「この筆ほんとうるさいな…ナビ、どうにか出来ないの?」
「私に言わないでよ。こいつと私、ほぼ同類みたいな物なのよ?無理言わないで」
いちいち人の作品にケチ付けられちゃたまんない。この筆、世界最高峰の画家に使われたからって天狗になってるんじゃないかと思った。
「おいおい、そこ赤だろ。緑じゃ雑草じゃねーか」
「あーもう!いちいちうるさいってば!ほっといてよ」
その後、筆は何も言わずに作品が完成した。カラフルな床になった。自分にここまで絵のセンスが無いとは…。
「だから言ったろ。カラフルな雑草超えて床になったぞ」
「良いの!ここから成長してけば良いんだから!」
「イーリウスー。筆とは仲良くやれてっかー?て…それなんだ!?」
ケルトさんはノックもせず入ってきて早々騒がしい。驚いた顔で僕の方を見る。
「ただの絵ですけど…」
「お、おおおお前が描いたのか!?」
「そうですけど…」
すごい動揺してる。僕がその姿に驚いていると空気を思いっきり吸い込み…
「ご主人様ーー!!!トラーー!!!」
大声で叫んだ。至近距離でこの声は耳が引きちぎれるかと思った。僕がフラフラとしていると、バクとトラさんが急いで駆けつける。
「どうした!?何かあったのか!?」
「ありましたとも!イリウスが初のお絵描きですよ!」
(これはケルトさん怒られるでしょ…)
焦った形相のバクとトラさん。自信満々にお絵描きと言ったケルトさん。流石にバクもこんなことで呼ばれたんだから怒って良いと思った。でもこの人達は僕の予想を超える。
「なんと…そんなことが…」
「これが…イリウスの初の作品…良いタイルじゃないか!」
「ちょ、タイルじゃなく…」
「どう見ても花畑だろ。何言ってんだトラ」
僕が説明する前に、ケルトさんが先に言ってしまった。僕はケルトさんの方を見つめる。そういえば絵の説明はしていなかったはず。何で花畑って分かったんだ?嬉しい気持ちと気になる気持ちで半々だ。
「い、色鮮やかすぎて間違えてしまったな。すまんすまん」
「いえ。僕の実力不足なだけです。トラさんは間違ってないですよ」
「そうか?俺には綺麗な花畑に見えんだけどな〜」
いざ褒められると恥ずかしくなる。僕が頬を赤らめてる所を見て、ナビは飛び回る。
「めっちゃくちゃ良いお父さんじゃないの!キャー!これは恋しちゃうわー!」
「ケッ!こんな絵出しても、世の中じゃ100円でも売れねーっつーの」
「別に売れなくても良いだろ。それぞれが勝手に、自分の好きな絵を描けば良い。その絵に掛けられる価値なんざ、所詮はただの飾り。そう言うのが、ピカソの言う『自由』なんじゃねーのか?」
「ぐ…何も言い返せねー…」
筆を黙らせるケルトさんに感心する。正論を言えば黙るのかと思い、今度実行しようと思う。
「そんで、この絵。リビングに飾ろうぜ」
「「うんうん」」
「え?ちょっと!そんな大層な絵じゃないですよ!」
「俺らにとっちゃ、最高の絵だ。この絵の為だったら何億だろうと積んでやるよ」
「どんだけ好きなんですかその絵…」
困惑したが、ケルトさんに絵を教わる代わりに飾っても良いと言う事で決着付いた。そういえばケルトさんの絵とか見た事ないけどどうなんだろう?
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「こ、これが…ケルトさんの絵…」
今回初めて絵を描いたイリウス。その出来はとても良いとは言い難かった。このままでは殺人鬼の後ろ姿も上手く描けない筆になってしまう。ケルトさんに絵を教わる事になったイリウス。ケルトさんはどんな絵を描くのか。
私も生きてたことは絵も描いてたわよ。と言っても、魔法少女とかだけど。
次回「ーー親の絵ーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m