第121話 ーー姿ーー
「起きろ」
「むにゃむにゃ…」
「起きろー!」
「ふにぇ!?」
僕は目を覚ます。そうだ、筆に殺人鬼の姿を描いてもらってて寝ちゃったんだ。僕は戸惑いつつも起き上がる。
「ん?ナビ?」
「んー…あれ、寝ちゃってたみたいね」
「幽霊って寝るんだ…」
隣に居たナビを起こし、正面を向く。そこには黒い布が掛かった絵が置いてあり、ワクワクする。
「ごっほん。では見せてやろう。これがお前らの望む姿だ!」
「「わー!…………?」」
パッと出てきた絵を見て期待がどん底に落ちた。
「え?いや、…え?」
「ちょっとこれは流石に…」
「何だ、何か文句あるか」
「あるに決まってんでしょ!何で後ろ姿なんだよ!」
そう。僕はてっきり似顔絵でも描いてくれるのかと思っていた。しかし予想とは裏腹に、まさかの後ろ姿。しかも背景変な色。
「仕方ないだろ。後ろ姿しか見たことないんだ」
「この背景何!」
「あいつが絵の中に入っていく場面だ。それしか見たことないからな」
イライラが収まらない。流石にここまでとは…
「イリウス。こいつ折っちゃえば良いんじゃないかしら?」
「そうだね。折っちゃおっか」
「ま、待て待て!俺の話も聞いてくれ!」
僕はムッとした顔で歪ませようと構える。でもまぁ話ぐらいは聞いてやるかと。
「俺はなぁ。ピカソの筆として、何年も何年も共にしてきたんだ」
「あ、これ回想入るほどのことなんだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あら?いらっしゃい。また逃げ込むの?」
「#__/&#@_&oq_&y→☆5」
「そう。まぁ良いわ。こっちに入って」
(そういやあいつ。毎回来てるけど、顔見たことないな。お、見れそうだ)
「=°5#¥94=°○##¥|☆」
「え?筆を?ほんと心配性なのね〜」
(おいピカソ!やめろ!見えそうだったのにぃ!)
「行ってらっしゃい」
(くそっ!後ろ姿しか見えねー!)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「と言うことがあったんだ」
「やっぱ回想いらないじゃん。声の情報すら掴めなかったし」
「声がちっせぇんだよあいつ。おまけに警戒心マックスだぜ。筆にすら警戒してんだからな」
「まぁ今回はそのお陰で顔がバレないで済んでるのだけれどもね。何か他に知らないの?」
「さぁな。もしかしたら思い出せるかもな〜」
「こいつ…」
こうやって期待させといて裏切るタイプは信用しづらい。でも本当に重要な情報を持っていたら、それこそ大損だ。折るのは先延ばしにするしかない。
「はぁー。結局後ろ姿だけか。服装や髪型なんていくらでも変えれるから、ほとんど情報がないような物だね」
「あ、それなんだけどよ。あいつ、髪型には謎のこだわりがあるらしいぞ。ピカソから話聞いてんだ」
「え!?ほんと!?めっちゃ有益じゃん…」
つまりはこの髪型を探せと言うこと。この燃え盛るような赤や青や緑が混ざった…あれ?
「もしかしてだけど…この髪色って…」
「そうだ!俺のオリジナルだ!」
「やっぱ折るか」
「待て待て!ピカソがこういう絵しか描かせてくれなかったんだよ!そうだ!お前が新しく色んな絵を描いてくれれば、普通の絵が描けるようになるかもしれねー!」
「…まぁそれもそうか」
ピカソの絵柄になってる所から少し不安感はあったが、まさかここもとは…ゆっくりと自分の絵柄にしていくしかなさそうだ。僕らがこんなに話している中、ケルトさん達は…
(((イリウス、どんな絵描いてんのかな)))
「あ、ご主人様?トラまで?」「あ、ケルトにトラ」「あ、主。にケルト」
「どうかしたんですか?」
「こっちのセリフぞ」
「イリウスが絵を描いているようで…」
全員が同じ用事でイリウスの部屋に向かう。ドアの前まで来たところで、
「それはそうと!あんまり無茶な要求はやめてよね!」
「分かった、分かったよ」
(ん?誰と話してんだ?)
3人は目を合わせ、ドアを一気に開ける。もちろん3人の目に入ったのはイリウスや浮いている筆じゃない。
「な、なんじゃこれー!」
「部屋が…アートに… 」
「おい!イーゼルとやらは使ってないじゃないか!」
「キャンバス渡した意味ねーじゃねーか!」
「絵の具を何という事に使っておるのだ!」
「ちょちょちょ、落ち着いて下さい3人とも!」
3人とも一度に喋り出し処理が追いつかない。ひとまずこの3人を落ち着かせる。このままだと僕が部屋をアートにしたみたいになってしまう。何とか宥め、落ち着いた後、全てを説明した。
「なるほどな。その筆が意思をね〜」
「それでこれが殺人鬼の後ろ姿か。髪型だけしか当てにならんのか」
「掃除…大変なんだぞ…」
ケルトさんは興味、バクは疑い、トラさんは絶望の様子だ。
「幽霊も含めたら、お前ら愉快な仲間達じゃねーか」
「まだ仲間だと決まったわけじゃ…」
「そうだそうだ!俺に出来ることはやった。後は適当に物生終わらせるだけだ」
「そりゃあ違うんじゃねーか?」
「は?何だ犬野郎。文句あるか」
「あーあるとも。てめーは少なくとも、イリウス達が望むほどの物は用意出来てねーんだろ?そんならもっと協力しなきゃいけねーよな?まさか、こんな絵の一つや二つで、これから先平穏に暮らせるとか思ってんじゃねーだろうな。少なくとも俺らに協力した時点で、お前は殺人鬼達にも狙われんだ。それも守ってもらおうとか思ってねーよな?」
「え、えと…その…すいませんでした…これからもなるだけ協力させていただきます…守って下さい…」
「すごい…あの筆を完敗させた…」
と言うことは、筆は狙われる立場にあると言うこと。恐らくある程度の意思があることは分かっているんだろう。僕らの道標を描く存在として、守らなければいけない。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「あーもう!いちいちうるさいってば!」
筆と仲間にることが出来たイリウス。さっそく筆で何か描いてみようと思い手をつける。だが、筆は非常にうるさかった。初めて描くイリウスの絵は、どんな仕上がりになるのか。
絵なんて描いたこと無いです…描いた記憶がないから描いたこと無いも同然です…
次回「ーーお絵描きーー」