第11話 ーー元旦 前編ーー
「うにゅ〜〜ぁぁあ」
新年早々年を越した瞬間に寝てしまった。ソファで寝てたはずがいつの間にかベッドに。
「う〜ん今の時間は?」
ボケてる目を擦りながら時計を持ってくる。段々とちゃんと見えるようになっていき、驚く。
「え〜っと、11時30分…………11時30分!?」
僕は確実に寝過ぎた。朝食も食べてないしもはや昼食の時間。ケルトさんに叱られると思いながら急いで準備を整える。
「ケルトさんごめんなさい!ついつい…てえ?」
急いでリビングに行くと扉を開ける前から妙に静かだった。少し怪しくて扉を開けると何てこと。みんな寝ているじゃないか。バクはテーブルに突っ伏して、トラさんはソファで、ケルトさんなんか床で寝ている。
「バク…?ケルトさん…?トラさん…?」
「んあ?おっとやべー変なとこ見せちまったな。今何時だ?」
「11時30分です」
「え?」
「11時30分です」
「やべーーーー!!俺朝飯も作ってねーじゃんお前平気だったのか!?」
焦りに焦っているケルトさんを見るのはいつぶりだろうか。飛び上がってわちゃわちゃしている。
「僕も今起きた所です。ところでみなさん何してたんですか?すごいお酒臭いですけど」
「ちょっとだけ晩酌をな」
「ちょっと???」
僕の目には少なくとも20本ほどのお酒の瓶が見える。
「おいトラ起きろ」
「んなー、俺が主を守るんだー!」
「こいつまだ酔ってやがる…」
そうこうしてるうちにバクも目を覚ます。目を擦りながら時計を見る。
「ん?あぁイリウスか。すまん寝てしまったな。11時?????まぁ良いか」
「良くないでしょどう考えても!」
「とりま昼飯作っちまうな。ちょっと待ってろ」
そうして僕らの元日は寝坊から始まった。酔っているトラさんを何とか起こそうと試行錯誤している内にご飯が出来上がる。トラさんはバクの来いと言う一言ではっと目を覚ます。
「二日酔いのやつにこの飯は殺す気なのか?」
トラさんの言う通り揚げ物や胃に負担がかかる物ばかりだ。
「しゃーねーだろ。冷蔵庫ほぼ空だったんだ」
「買い物行かねばの」
「いっただっきまーす!」
別に酔ってもいない僕は遠慮なく食べていく。トラさんと多分同じ二日酔いのバクはそんな僕の姿を見て唖然としている。
「お前は良く食うな。作った俺も嬉しいぜ!」
「はい!」
そうして食べていき食事は終わる。食事を食べ終わった後、僕は部屋に行き読書する。そんなこんなで15時ごろ。
「なーイリウスー」
「どうかしました?」
「買い物行ってくんねーか?」
初めての心得。この街についてそこまで知らない僕に買い物を頼むとは。
「買い物ですか?」
「そうだ!荷物は重くなんねーようにしてるし金も全部入ってるからよ、ほれ!地図とメモがあるぞ!」
そんな事で僕が買い物に行くことになった。また叱られても嫌だからバクにも一応許可を取ってから僕は出発した。確かにそこまで遠くはない。僕はすぐに買い物を済ましすぐ帰る。
(あれ?こっちの道行った方が近そうだけど)
僕は抜け道を見つけた。確実に抜け道で近くなる。こっちに行った方が近くなるしその方が良いと考えた僕はそっちに行った。でも後々気づく。ケルトさんがこの道にしなかったのは理由があるんだ。
「誰ですか?着いてこないで下さい!」
僕の後ろにずっと人がいた。誰か分からないけど、後ろを向くたびに同じ人がいるから気になった。
「あぁすまないすまない。君、記憶が一部欠けてるから気になって」
話しかけて来たのはローブを身につけた青髪の青年。
「どこかで見た顔です…思い出した!記憶屋の人です!」
「初めまして、記憶屋をやっている者です。君の記憶は実に興味深い。ぜひともやってみないかい?お金は取らないよ」
変な提案だ。怪しいにも程がある。ここは断っておかなきゃ後々面倒になりそうだ。
「嫌です、能力者には出来るだけ関わりません。そう言いつけられてるんです!」
「誰に?君と一緒に居た黒毛の獣人かね?」
「そこまで見ていたんですね。見た感じ狙いはそれだけじゃなさそうですし…」
「そうだね!僕も能力者な訳だし、もちろんレベルも欲しいさ」
(そういえば僕のレベル上がってるのかな…)
そう思って自分の五芒星に目をやる。どうやって見るのか分からないけど何となく神力を集めるとフワっと浮き出てくる。
「うわっ!こうやって表示されるんだ…」
「うーん君のレベルは2か。少ないね。けどあのトライアングルと関わってる時点で普通じゃない。ここで終わらせておこうかな」
「そ、そんなの許されないですよ!他にも人だって…」
そうだ、ここは人が居ない。そこを選んだんだ。
「とりあえず、記憶の渦に溺れなよ。蘇る記憶」
「何これ!どんどん黒くなってく!」
僕の周りが真っ黒になっていきやがて何も見えなくなる。頑張って走っても飲み込まれていく。怖くなって泣きたい気持ちでいっぱいだがそれを抑える。
やがて少しずつ光が見えてくる。やっと出れると思って光に近づきそこに出る。と
「え?」
この光景はあの時見た。車に轢かれた2人の男女、辺りにチカチカと光る救急車の灯光。そこにひたすら立ち尽くす僕。
「お父さん…お母さん…は!」
気付かない間につい言葉を吐いていた。あれがお父さんとお母さん?あんなのもう…
「何だよ…これ…」
しばらくその景色が続いた後また暗闇に包まれる。
「メリークリスマス!優斗!」
「お母さん…」
「優斗はいい子だからきっとサンタさんも来てくれるな!」
「お父さん…」
今度はクリスマスの記憶。前と違って顔がよく見える。表情が、全部全部。
「・・・のせいだ」
「お母さん…?」
「お前のせいだ!お前のせいで私は死んだ!」
「お前があの時居なければ!お前さえ居なければ!」
「お父さん?お母さん?」
「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ」「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ」
(そうだよ…僕が居なければ良かったんだ…初めから全部全部…仕方ないよ…お父さんとお母さんが僕のこと憎く思ってても…仕方ないよ…仕方…ないよ…うぅ…)
僕は悲しかった。やっと思い出せた両親の顔。それと同時に襲いかかる罪悪感。全部自分のせいだと言う責任感。涙が溢れるけど声は溢れない。何でだろう…
「お前なんか連れて来なければよかった!お前みたいなグズあん時殺せばよかった!お前なんて…」
「違うよ」
「あ?」
「ケルトさんは違う。そんな事言わない」
目の前に見えるのはケルトさんだ。でも、僕の中の何かはそれを認めようとしない。受け付けようとしない。心の底から声が出る。
「何言ってんだ?お前は両親を殺したんだぞ?お前のせいで全部台無しになったんだぞ?俺だってお前なんかがいたら人生台無しに…」
「ケルトさんを悪く言うな…」
「お前なんて今すぐぶっ殺し…」
「悪く言うな!」
僕の神力が溢れ出し、その影響か暗闇に、僕の記憶にヒビが入る。
「貴様!また俺らを殺すつもりか!」
「優斗…もう殺さないで…」
「こんなの僕の記憶じゃない…ケルトさんで確信した!記憶屋!お前の能力で僕の記憶を改ざんしたんだ!お前は許しちゃいけない!今ここで倒す!」
僕は全方向にビームを打ち記憶の闇を完全に打ち砕く。
「なっ!俺の能力を打ち破るだと!?」
「居た!お前は許さない!」
逃げようとする記憶屋の足を狙いビームを放った瞬間、記憶屋が浮きビームは外れる。けど僕は焦らなかった。浮いた理由が分かるから。
「ま、待ってくれ!頼む!命だけは…」
記憶屋の頭を握っていた人物が力を入れる。記憶屋の頭蓋骨はボキボキと鈍い音を鳴らしながら確実に潰れる。
「あ、イリウス、目瞑っておけ」
握っていたのはトラさんだった。僕は言われた通り目を瞑る
「トラさん…全部、見てましたか?」
「あぁ。記憶も全部…ケルトは決してあんな事言わないぞ。きっとお前の両親も…」
ボトっと記憶屋だった物を落として僕に近づく。ポチャポチャと血を踏む音から冷たいコンクリートを踏むコツコツとした音に変わる。僕の目の前まで来た時、僕は迷わず抱きついた。
「うわーーーーん…僕…僕…僕のせいで…お父さんとお母さんがーー…」
トラは急に泣きつくイリウスに困惑しつつも抱き返す。何か言葉をかけようと思うが良い言葉が思い浮かばない。どうしようもない気持ちによる自分の無力さに少しがっかりする。とにかく早く帰した方が良いと思い抱っこした状態で帰路につく。