第117話 ーー森のお祭りーー
「ほーら行くぞー!」
「ま、待ってくださーい!」
朝早く。僕は目を覚まし、準備をする。ただ準備が遅すぎてケルトさん達を待たせている。
「あ、今何しまったの?」
ナビに見られている中、しまった物がみられた。出来ればバレたくなかったが、僕は手を広げ、筆を見せた。
「ピカソの使ってた筆ね。そんなものどうするの?」
「持ってようかなって…随分綺麗に手入れされてたみたいだし」
「絵の具が持ってた割に新品みたいね。ピカソ、悪いやつじゃなかったのかもね」
「うん…」
殺人鬼やその協力者に1番怒っているのはナビなはず。それなのに、ピカソのことをこう言えるなんて。正直驚いた。
「幽霊と話してねーで早くしろ!置いてくぞ!」
「あ、待ってくださいよー!」
先に行こうとしたケルトさんを横目に、バッグのチャックを閉める。今日も今日とて、僕の日常が始まる。
「また異世界ですか?どれだけ移動するんですか」
「仕方ないだろう?それぞれに個性がありすぎるんだ。そう考えるとローディアなんかは丁度良いの」
「個性…」
僕は今までの世界を思い浮かべる。確かに個性あふれている。つまり次の世界も個性があるんじゃ…
「心配すんな。危ない世界じゃねーからよ」
ケルトさんの作った異世界への扉に飛び込んで、いざ旅行の1ページ開幕だ。
「う〜ん。森?」
目を開けると森だった。正確には森の入り口と言ったところか。秋なのに普通に葉が茂っている。
「森の中ってことですか?」
「そうだな。道はないから気を付けろよ。それとも肩乗るか?」
「そうします」
フワフワと飛んでケルトさんの肩に乗る。森の中を進んでいて気付いたことがある。木が大きい。ケルトさんの肩と言えば2メートルくらいの高さなはず。なのに枝の一つにもぶつからない。と言うか歩けば歩くほど木が高くなってるような…
「この森変です。木がおっきすぎます。あれとか何メートルあるんですか?」
「そりゃあそれがこの森だからな〜。時が経てば経つほど、木はデカくなるもんだ」
どこに向かっているか想像も出来ない。まだ秋要素を感じない。奥に奧にと進んでいると、段々音が聞こえてくる。ドンドンと太鼓のような音が。
「何か音が聞こえますが…何の音ですか?ナビに様子見に行ってもらったほうが良いですか?」
「いや、平気だ。丁度そこが目的だしな。ってかもうそこだな。行くぞ」
大きな木が多い中、草で前が見えない。その草を退けて中に入ると、
「うわー!すごいです!木の上に人が住んでます!」
草を抜けると大きな木を中心に、周りの木々に橋がかかっている村が見えた。木の中に家具があったりしていて、まるでおとぎ話の世界だ。
「ここはエルフの森だ。周りのやつらを見てみろ。耳が長いだろ?」
「本当です!みんな耳が長いです!」
耳が長くない人もいるが、きっと客人だろう。大きすぎて気付かなかったが、真ん中の大きい木だけ、葉が紅く色付いている。
「初めまして。エルフの村へようこそ。今宵は祭りですので、どうぞお楽しみ下さい」
「エルフさん。どうして大きな木以外紅葉になってないんですか?」
「はい。基本的に、ここら一体の木は、年中緑色の葉が生えております。ですがあの大樹には、神が宿っていると言われております。それ故に、大樹は秋には紅葉を、春には桜をと、森に居る我々に季節を教えてくれているとされています」
エルフのお兄さんは分かりやすく説明してくれた。その後、ケルトさんが宿の場所を聞いて荷物を置きに向かう。
「すごいです!木の中で寝るの初めてです!」
宿は高い木の上。橋を何回か渡った場所にある大きな木だ。周りが階段のようになっていて、自分の部屋まで上がっていく感じだ。
「木の匂いが落ち着いて良いな。ベッドもふかふかだし」
「窓もどこも植物だらけです。ホコリ一つ無いので整備はしっかりされてますね」
「そんなことは良いだろう?早く行こうぞ」
外が賑やかで仕方ない。草木を利用した独特な地形に飾り。全てが新鮮で見ているだけで楽しい。僕らは部屋から出て、大きな階段を降りていく。
「どこ行きます?せっかく来たんですし何か…」
周りを見渡すと色々あるのがわかる。不思議なフルーツや見たことない料理があったり、何よりも気になったのが、
「あ!あれって弓矢じゃないですか?」
弓で的を射るゲームをしている。的は不自然にも動いており、上手く当てれれば景品と行った感じだ。僕は早速挑戦することに。
「これを引いて打つんだよ。力いっぱい引いてね」
「はい!」
そこの店主さんに教わりながらも頑張る。弓なんて使ったのは初めてだ。1発目、弓は真っ直ぐ飛んだが狙いが少し外れた。
「惜しいね。あと4発だよ」
「うーむ。弓だと軌道が難しいですね」
ビームと違い、どこまでも真っ直ぐ飛んで行くわけじゃない。2発目、軌道を読んで的に当てた。
「おーすごいすごい。結構センスあるね」
3発目、4発目、と残りの矢を全て的に当てた。店主さんはすごい驚いていたけど、一回慣れちゃえば簡単な物だと思った。景品に模様が描かれた木のペンダントをもらった。
「これ、何の模様ですか?」
「それはお守りだよ。神様が君を見てくれるようになる模様さ。君にはきっと幸運が来る」
「それだったら嬉しいです!」
「そのペンダント。特に何の力も感じないけど」
「お守りってそういう物だよ。力は無くても、心がある」
僕はお守りを身につけてその場を後にする。ケルトさん達と離れちゃったから探さなきゃ。ナビに高い所から様子を確認してもらって、やっと見つけた。
「ケルトさー…ん?」
ケルトさんとトラさんが何かを貪ってるのが見えた。お皿に山盛りにされてるのを見ると、僕は顔が青くなる。
「え…虫…」
大量の芋虫から昆虫までゴチャゴチャになった謎の食べ物。周りに人が居て歓声上げてるし、恐らく早食い中。僕が遠目から見ている所をケルトさんに見つかった
「ひりうふ〜」
「口開けないでください!!!!!!!」
完全に食欲が失せ、ベンチで休む。はぁーとため息を吐いていると、横に誰かが座る。
「全く。あやつらには本当呆れるの」
「バク。どこ行ってたの?」
「少々散策していた。あやつらとは一緒におれんしな」
バクは大の虫食嫌い。しばらくあの2人には近付かないだろう。2人で休憩しながらお祭りを観察している。こうやって居るのはいつぶりだろう。
「こんな風に、みんなでワイワイ騒げる日がずっと続けば良いのにね」
「そんな世界にするのが、我々次の神の役割だ。そういえば聞いていなかったが、お主はどんな神になりたい?」
「どんな神って…僕は生物を生みし神になるよ?」
「そういうことではない。神によって性格もバラバラになるものだ。悪い考えを持った神が悪いことをする場合もある」
「…僕は、世神様みたいな神様になりたい!」
「我の神ということか?何故そうなる…」
「世神様はね、優しくて、賢くて、みんなの正しさを考えてる。人や、神様のルールに則った上で幸せを築こうとしてる。僕はそんな神になりたい!」
仕事をサボってこっちに来たり、生神様に怒られたりしている所を見ると、ちょっと神様っぽさが見えなくなっちゃうけど。自分の正しさも、人の正しさも、しっかりと信じられる、そんな世神様が羨ましい。
「そうか。きっとなれるさ」
僕らはお互いに似ている。顔だけじゃない。人の事を第一に考えちゃう所とか、優しすぎちゃう所とか。こうやって、一緒に同じ姿勢で、変な串を持って向かってくるケルトさん達に青ざめる所とか。
「何持ってるんですか!近寄らないでくださいよ!」
「よく分かんねーけど甘くてうめーぞ!食うか?ご主人様も!」
「食べるわけないでしょう!」「食うわけなかろう!」
今日も平和だ。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「遂に終わりですね」
長く険しい旅行が遂に終わりを迎える。色々あった末に、最後に見る景色は満点の星空だ。綺麗な景色の下で、4人は互いを知ることになる。
旅行はこれで終わっちゃいますけど、僕の殺人鬼探しはまだ終わりません。早く捕まえないと。
次回「ーー星空の下でーー」