表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/254

第116話 ーー絵画の住人 後編ーー

 絵の世界から出てきた僕ら。変わらず狭い中での戦闘を続ける。


「次、剣が来るわよ!」


 攻撃も激しくなってきて、見えない場所からの攻撃は避けるのがやっとだ。ナビが教えてくれなかったら勝てないだろう。


「キャー!」


「ナビ!?どうかしたの!?」


 ナビの叫び声が聞こえて慌てて状況を確認しようとする。おかしなことにナビの姿が見えない。


「ナビ?」


 不思議とピカソの攻撃も止む。


「お探しはこちらかしら?」


「イリウス!」


 ピカソが持っている一つのキャンバス。その中には檻が描かれていて、中にはナビの姿が。動いている。


「ナビ!………何それ…」


「私が聞きたいわよ! 脱出出来ないの!」


 絵は破壊すれば中身が消える。ビームをキャンバスに向かって放つが目の前に現れる壁に阻止される。


「邪魔くさい…ピカソも見失った、早く探さなきゃ」


 どこかも分からない状況での耐久戦。飛んでくる武器には気付くが対処出来ない。かすり傷がどんどん増えていく。


「…やるしかない」


 全方向にビームを放つ。絵であるピカソはこれで溶けるはずだ。家が穴だらけになり、絵で描かれたものは全て消えた。僕が死ぬよりは、まだマシだろう。もしかしたらケルトさん達が捕まえられるかもしれない。


「ナビ、今助けるよ」


 心なしかナビの声が小さい。何か言ってるようだが聞こえなかった。僕は耳を近付ける。


「後ろ!」


「捕まえた」


 気付くと何もない世界だった。周りも真っ暗で何も見えない。目を閉じているか開けているかも分からない。


「どこ、ここ。もしかして、ピカソの絵の中!?」


 多分そうだ。僕もキャンバスに入れられてしまった。暗い闇の中、照らす物は一つもない。


「ふふふ。やっと捕まえたわ。これで私の芸術の一つね」


「イリウス!どうにか脱出を!」


「無理よ。あの子は変な力を使う。でも見た所、私の絵をどうにかするにはビームしかないわ。あのビーム、光を基準に作られてるわね? 光の無い所なら打てない。何もない背景での作品になっちゃうのは勿体ないけど仕方ないわ」


 外からの声が聞こえてくる。その通りだ。ここは特殊。歪みじゃどうにも出来ない。ビームで越えるしかない。でも明かりが無い中じゃ…


「何よ、これ。身体が…動かなく…」


「言ったじゃない。あなた達は作品になるの。作品が動くなんて変なことでしょう?」


 もう脱出出来ない。どうにも出来ない。このまま死ぬのを待つしかない。無理だ。どうにも出来ない。


「諦めるのか?」


 幻聴?こんな時に?誰の声だろう。聞いたことがある。何も見えない。分からない。


「俺が見込んだ少年は、こんなものじゃなかった。何よりも強い意志を持った子だったはずだ」


 誰だ。あなたは…


「まだ、見落としている。ヒントは出ている。答えを出すと良い」


 ヒント?これまでにヒントなんて…


「そうね〜。真っ暗だし、『孤独』とかどうかしら?良い作品になると思わない?」


「イリウスは…負けて…ないわ…!」


 ヒント…ピカソは…魔法使い?魔法…


「ぷっ。はははははは!」


 僕は思わず笑ってしまった。簡単な事だったんだ。


「あら?壊れちゃったかしら?そのまま俯いてくれてた方が孤独そうだったのに…あ、そうだわ!『狂気』とかも良いかしら!」


 ピカソ、こいつは呑気だ。もう正解は見つけた。


「ハートさん、ありがとうございます。また助けられちゃいました。この技を使うのは、ちょっと気が引けますが…」


 僕は片手を身体の前で広げ、こう唱えた。


放火(ファイア)…」




「うーんでももうちょっと良い題名が…」


 キャンバスから大きな光が飛び出し、爆発したように燃えだす。僕は、燃えていくキャンバスから足を踏み出す。ピカソの驚く顔がよく見える。


「どうやって…」


「僕も使ったんだよ、『魔法』をね。器はハートさんが作ってくれてた。お前の魔法を受けた事で、僕にある程度の魔力が補給された。後は簡単、光を作れば良いだけだ」


 ハートさんはヒーローになれなかった。でも、僕の目に映るハートさんは、立派なヒーローだ。


「お前はここで捕らえる」


(まずいわね。絵から脱出されたら負けるしかないじゃない。大人しく引かなきゃいけないわ…ね?)


「おかしい…他の絵に移れない…?」


「もう終わったんですね。流石です」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「どうだトラ!俺の方が11秒早かったぞ!」


「うるさい!たまたま出る場所が悪かっただけだ!」


「2時間か。もう少し早くしてやりたかったの。まぁ良い。勝つんだぞ、イリウス」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「何か仕込んだのね。本当に賢い子」


 僕はナビを解放し、ピカソと向き合う。


「もう終わりです。あなたに勝ち目はない」


「そう…ね。良いわ。負けを認めるわ」


 意外とあっさりしてるから警戒したが筆を離している。周りは穴だらけだし、何かを隠せる陰になるものもない。大人しく縄で縛り、話を聞く。


「目取りの殺人鬼の能力は?」


「…私も詳しくは知らない。でも、目についての力ってことは知ってるわ。一度だけ見たことあるの。彼の力に当たった人は、みんなおかしくなっていたわ」


「おかしく?」


「そう。発狂したり、泣き出したり、うずくまったり、自害したり」


「それがあいつの能力…まだ予想がつかない…」


「私からもあるわ。他の協力者はどこにいるの」


「私が知ってるのは「エアス」だけ。他は知らないわ。エアスの場所ならローディアよ」


 妙だ。何でスラスラと答えれる?本当に知ってるのはエアスだけなのか?


「何で嘘を吐かないの?僕らには嘘を嘘だと見抜く力はない。嘘を言われたって、信じちゃうかもしれないのに」


「…私の故郷は、嘘なんて吐かなくても良い場所。そのくらい、みんな平和で、自由だった。どうして、こうなったのかしらね。あははは」


 ピカソは涙を流している。初めて見た。その涙で自身の顔が溶け始めている。


「何してるんだ。それじゃあ消えちゃうだろ!」


「…そうね。良いのよ。消えちゃって良いの。私は、道を間違えた。いいや、間違えさせられた」


「まだ…戻ることだってきっと…」


「無理よ。私は既に、彼に協力している。私が居なくなるだけでも、きっと彼に近付けるわ」


 急に優しくなるピカソにびっくりした。もしかしたら、これが本音なのかもしれない。


「あなたは…芸術なんかじゃない。心を…上塗りされてなんかいない。私はあの日、心を捨てたけど、あなたは捨てちゃダメ。嘘の色で塗っちゃダメ」


「ピカソ…」


 ピカソの上っ面が、涙によって溶け出したのかもしれない。本音を隠していた嘘が、溶けていったように思う。


「待ちなさい!あなたは償わなきゃいけないのよ!あいつに殺された人達はそうじゃなきゃ救われないのよ!」


「…ローディア。あそこは随分と、美しかったわね…」


 ピカソはその言葉を最後に、絵の具となり溶けてしまった。


「何よ、ろくに質問にも答えないで」


「いや、違う。きっとあれが答えだ。僕らが別の世界に行かなくても、あいつはローディアに来る。ピカソはきっと、それを伝えたかったんだ」


 絵画の住人『ピカソ』。芸術を追い求め、自身を「上塗り」した者。全ての絵画を破壊され、意思を移すことが出来ずに、死亡。

 僕らは木の小屋を出て、街に向かう。しばらく歩いていると、ケルトさん達と出会う。丁度向かっていた所らしい。


「それにしても本当にやっちまうとはな!流石は俺の子だぜ!」


「みなさんが居たからですよ。本当ありがとうございます」


 ケルトさんが頭をわしゃわしゃしてる中、僕はお礼を言う。みんなが居なかったら逃げられて終わっていた。


「…少し、まだ悩んでることがありそうだな」


「うん…でも、きっと解決しないと思う」


「?言ってみろ」


「自由って何だろう」


「自由?それは………何だろうな」


「ピカソはね、きっと自由を求めてたの。自由を求めすぎた故に、ああなっちゃった。殺すのも、自由だってさ。でもきっと違う。それは自由であってほしくない」


「…ふ」


「何笑ってるの!」


「ははは。すまんすまん。お主は本当に優しいな。それを考えていれば、きっと良い答えが見つかる」


「うん!」


 絵画の住人を倒し、目取りの殺人鬼に一歩近付いた。みんなピカソみたいなものなのかな。だったら、話し合いじゃ、ダメなのかな。


ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー

「すごいすごい!木の上に人が住んでます!」


 旅行での目的を達成したイリウスとナビ。楽しい旅行もついに終わりを迎える。最後の世界は美しい秋の世界。森の精霊とまで言われるエルフ達の祭りに参加することとなった。

 もうすぐ終わってしまうのか。最後を着飾るのが祭りとは、随分と美しい物だな。


          次回「ーー森のお祭りーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ