第115話 ーー絵画の住人 前編ーー
全ての世界に散らばっている画家ピカソの作品。その中の人が描かれている絵。それを全て破壊しない限り、絵画の住人ピカソを攻略することは出来ない。圧倒的信頼を置いているケルト、トラ、バクにそれを任せ、イリウスは壊していることに気付かれないよう時間をかけて戦わなければいけない。目的は殺人鬼の情報を掴むこと。それを胸に、イリウスは岬にある一つの木造の家に向かう。
「ここが…」
「そうね。覚悟は出来てるかしら?」
「もちろん!」
今にも崩れそうな木の扉を叩き、扉を開ける。
「ピカソ!来たぞ!」
何個もあるキャンバス。その中の一つ、ペンが動いてるのを見る。あそこに居る。
「あら?もう来たのね!」
ピカソはまた姿が変わっている。女だとこんな口調、男だと別の口調になるみたいだ。後は服装で判断するしかない。
「約束通りだ。今日、お前を捕まえる。そして、殺人鬼について知ってる事を全部話してもらう」
「嫌だわね〜。昨日言ったじゃない。彼について知ってる事なんてないわ。困った時に来て、気付いたら居なく…」
「他にお前が知ってることがあるはずだ。例えば…能力とか」
「……」
明らかに顔色が変わった。絵だけど分かる。目を逸らしている。
「聞きたいことはまだある。ここでお前を捕まえる。そしたら全て話させる」
「良いわね。私が負けたらあなたの質問に全て嘘無しで答えてあげる。その代わり…」
周りにある作品に色が足されていく。描かれているのは様々な凶器。
「あなたを、芸術にしてあげる」
一気に放たれたナイフや剣、ロケットが僕に飛んでくる。幸いギリギリで避けたが、ピカソは追撃する。壁、床、空気にさえ絵を描き僕を攻撃する。
「イリウス!次は銃よ!」
「分かった!」
ナビの言った通り、銃弾が飛んでくる。
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「つまり、私はピカソを追尾して、描いてる物を言えば良いのね?」
「うん。あいつの強みは何でも具現化出来るところ。どこでも銃や剣を生み出せる。でも、来るのが分かってれば対処しやすくなる」
「なるほどね。あいつ、私の事見えるし声も聞こえるみたいだけど平気かしら?」
「大丈夫。ナビに手が出せるわけじゃないし、途中で描く絵を変えるのは難しい。ナビはそのまま大声で描いてる物を言い続けて!」
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「イリウス!ロケット描いてるわよ!」
「分かった!」
僕らは作戦通り、ピカソが逃げながら描いている攻撃を言われる。分かってれば対処しやすい。これなら時間稼ぎも出来る。
「厄介だわね。あなた達にこの手札を使いたくはなかったのだけど」
ピカソはそう言った後、姿を消した。ナビも見失ってしまった。僕は最後に見た場所に行き、後を確認した。
「居ない…どこ行った?ん?」
ピカソが最後に居た場所にあったのは絵だ。何ら不思議な話じゃない。でも、この絵には綺麗な草原と風車が付いてる家みたいなのが見える。ピカソは居なくなった。そしてあいつは絵だ。僕はその絵に手を伸ばし、触れる。表面に指先が当たると、絵が水面のように波紋を広げる。
「これ…入れる」
「罠かもしれないわよ。今すぐ燃やしちゃった方が最適だわ」
「……いや、行ってくる。それで死なれても困るから」
1番避けなければいけないのは殺す事。殺して情報を掴めないのが最悪のパターンだ。
僕は絵の中に飛び込んだ。目を閉じて飛び込んだが、あまりにも風を感じたから目を開ける。どうやら空から出て来たようで、僕は今落ちている。神力で浮くことで落下死は防ぐが、どこにいるか分からない。
「穏やかな所…」
「そうでしょう?」
後ろを向くとピカソが居た。筆を下ろしてこっちを見ている。
「ここは私の故郷よ。今は見る影もないけどね」
「お前の…故郷?」
「そう。自由で、平和で、楽しかった。事件なんて無縁で、誰もが笑い合って生きていた。私だって、絵と言う世界に閉じこもっていられたのよ。あの時までは」
辺りの草原が、青い空が、赤くなる。人の悲鳴が聞こえて、叫び声も、何かを刺す鈍い音も聞こえる。
「王都。私達を捕まえ、殺し、虐殺した国。あの日全てを奪われ、全てを失った私達は、どにも居場所が無かった。私は王都に連れてかれて、暗い地下で絵を描いていたわ。そんな時、ある本を見たの。どこから出てきたのか分からないけど、その本には魔法が描かれていた。絵を現実にする魔法。それが1番…」
「その本、誰に貰ったんだ?いつの間にあったなんておかしな話だ」
「そうね〜。あ、夢の話なら覚えてるわよ。ハート型の仮面をした人が、私を外に連れ出してくれる夢」
(ハート型?トランプのハートさんしか思い浮かばない。もしかしたら…)
「そうして、私は絵を現実にして脱走。王都も軽く滅ぼしてやったわ。この魔法があれば無敵なの。私の望む自由が手に入るの」
「人を殺すのも、それを庇うのも、お前の言う自由なのか?」
ピカソはニヤっと笑って言う。
「えぇ、そうよ。だって、縛られたくないでしょう?」
「…やっぱり話は出来そうにないな。お前を捕らえる」
「無駄よ。この世界では私が有利。あなたに分はない」
さっきまでの攻撃が一変し、魔法による攻撃を仕掛けるようになった。雷、炎、水、氷。色んな属性が混ざり合って僕に向かってくる。
(おかしい、あいつは何も描いていないはずだ。なのになんでこんなに魔法が使える?強力な上手数も多い。おかしい)
一度当たるだけでも大怪我じゃ済まない。この実力じゃトランプのみなさんと互角と言っても過言じゃない。
「イリウス!絵の外よ!絵の外で筆が勝手に描いてる!きっと外から描かれた物は実現化する必要がないのよ!」
「あら、やっぱり先にあの幽霊ちゃんをどうにかするべきだったかしら」
「ありがとうナビ!なら、この絵の世界ごと壊す!」
僕は全方向に多量の特大ビームを打ち、境界を壊す。絵から飛び出してきて、すぐに構えをとった。絵の中でだいぶ時間を潰せた。ここからは、追い詰めすぎず、負けないように戦わなければいけない。
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m