第111話 ーーキャンプ 後編ーー
「うにゅ〜」
「ったく、これに懲りたら2度と約束破んじゃねーぞ」
「蜂にも手を出すな。意外と痛いんだからな」
僕が軽くいじめられて目をぐるぐるさせてる中、ケルトさん達はスッキリしたように昼食の準備に取り掛かる。幸いすぐにヒールで治してくれたから後々痛むとかはなさそうだ。
「もう…何で僕が…」
「あぁ!?なんか言ったか!?」
「な、何でもないです…それよりも、何でいつも以上に拘束するんですか?いつもならここから離れるなとか、真上にビーム上げろとか言わないじゃないですか」
ケルトさんとトラさんは目を合わせる。少し考えた後、まぁ良いかという風に話し始める。
「お前も何となく気付いてるかもしれねーけどな。この世界は、野生動物が普通より強いんだよ。あの牛だってそうだっただろ?」
「蜂もお前と同じくらい大きかっただろう?基本的に危ないんだ、この世界は」
「何でそんな大事な事黙ってたんですか!」
「いやだってよ…こんな危ない場所でキャンプするとなると、絶対嫌だって言うだろ?」
「………確かに!危ないの嫌です!怖いです!」
牛の角はドリルみたいに回り、それに巻き込まれると木ですら粉砕する。蜂は僕くらい大きくて、トラさんに攻撃を当てるくらい強い。そう考えると僕じゃ対処しきれない。
「テントなんて一撃で壊されちゃいますよ!僕が変な生物に襲われて、その血の匂いでもっとたくさんの生物が集まってバラバラ死体になっちゃいますー!」
「安心しろよ。一応殺気は出してるし、近寄りたくても近寄れねーよ。まぁ、もしここまで来たら、そんくらい強い動物ってことだな!」
「勘弁してほしいです…」
カチカチと石を当てて火を付けようとしてる所に僕はビームを使って火を付ける。ここが危ない世界だと考えて改めて周りを見渡すと、余計に怖く感じる。
「そういえば、みんな食材を集めに行ってたみたいですけど、どんなの取れたんですか?」
「俺はこんな感じだ。魚、サザエみたいなやつ、さっきの牛、ダチョウみたいなやつだ」
ハコニワから出された食材達はどれも凶暴そうだ。ダチョウみたいなやつでさえ顔が人喰い。サザエみたいなやつなんてトゲトゲが付いてて危ない。
「我はこれだ。野菜に、岩みたいなナメクジ?に、ヘビだ。あ、あとこのはちみつ」
「野菜???どこにあったのそんな野菜」
「岩みたいなナメクジに生えてた。土とかで覆われててな」
もはや食べ物なのか怪しくなってきた。ナメクジに関してはケルトさんくらい大きいし絶対食べたくない。
「俺はこんな感じだ。オーク、謎の玉、謎の卵、謎のザリガニだ」
「遂に人型生物が…あと謎が謎すぎます…」
オークはもう…オークだ。豚の人。謎のザリガニはデカい。ハサミの中に入れそうなくらいデカい。玉に関しては鉱石にしか見えない。何で食べれると思ったんだろう。
「え、これ全部食べる気ですか?」
「ん?当たり前だろ?食材は無駄にしちゃダメだぜ」
「オークに関しては獣人とそんなに変わらないじゃないですか!」
「俺は獣人だろうがオークだろうが食う時は食うぞ」
この精神は生き抜く為には必要なのかもしれない。当たり前のように解体作業しだしてるし、当たり前のように生で一口食べてる。……!?!?
「何で生で食べてるんですか!?!?」
「いや、豚刺しって言うだろ?オークの肉って生だと何も美味くねーな。こっちの牛はうめー。お前も食うか?」
「病気になりますよ!何で毎回毎回…」
「イリウス。こやつらに言っても無駄ぞ。我々とは根本的に身体の作りが違うんだ。ほれ、そろそろあのナメクジに手を付けるぞ」
本当にナメクジに手を付けた。僕が食べてるわけじゃないけど吐きそう。『コリコリしてうめー』とか言ってるけど少しも食べる気が起きない。僕が木陰でうずくまってると、解体が終わったと伝えに来た。
「一体何がどうなってるんですか…」
さっきの修羅場をもう一度見ることになると思っていたが、さっきまでの死体は全て皿の上の肉になっている。高級な焼肉店で出されるような盛り付けがされていて、肉の品質も脂が乗っていてすごく美味しそう。
「解体が終わったんだ。美味そうに出来てんだろ?今日は焼肉だ!」
「オークは無駄にデカいからな。食える部位も多いからこんな多くなったんだ。後は牛だが…」
「おっと失礼。人型の生物は食わないんだったか?」
ケルトさんは僕が食べたそうにしてるのを見て意地悪を言う。この見た目じゃただの焼肉と同じだ。
「……食べます」
僕がそう言うとニヤニヤ笑って焼きだす。どこから用意したのか分からない鉄板にジュージューと音を立てる。肉が焼けてる匂いが香ばしくて美味しそう。僕が楽しみに待っていると、トラさんがタレが入った皿を渡してくる。
「主が持ってきたはちみつと海で取れた塩、海藻やその他諸々で作ったタレだ。口に合うと良いんだが…」
「ん!美味しいです!出汁が効いてる珍しいタイプですね」
「ほれ、良い感じに焼けたぞ。食え食え」
ケルトさんはトングで僕のお皿に肉を入れる。熱々で良い匂いのする肉を口に入れるとびっくりした。
「すっごく美味しいです!」
生臭さはタレで無くなり旨味だけが残る。脂の甘みも相まって本物の豚肉みたいだ。ケルトさんがどんどん焼いてくれるので、僕はちょくちょく取って食べる。
「あ、イリウス…」
「ん?何?モグモグ」
「それ…ナメクジ肉…」
頭の中が真っ白に。でも美味しいから良いかとすぐに戻る。案外見た目によらないものだな。ザリガニとか魚とかも焼いて食べた。卵焼きも作られてて美味しかった。謎の玉は…焼いてあったけど手は付けなかった。
(あれ食べれるの…?)
僕がじっと見つめているとトラさんが手に取る。口を大きく開けて噛むとバリボリと明らかに食べ物じゃない音がする。しばらくするとペッと中身を吐き出して、残った玉を遠くに放り投げた。
「何がしたかったのよ…って言うか食べれるわけないでしょ。どこで拾ったのよ」
「トラさん、あの玉ってどこで拾ったんですか?」
ナビの冷静なツッコミ。僕も気になったので聞いてみた。食べれると思った理由があると良いんだが…
「あー。水を纏って出てきたんだ。水鉄砲みたいなのとか飛ばしてきてな、その本体があの玉だったんだ」
「あー!どこかで見たと思ったらそういうことだったのか!あの玉、古代具ではないか!何と言うことを…」
「古代具?」
バクが惜しそうに膝を付いている。不思議がって聞いてみる。
「この世界にあるものだ…古代の人間が作り上げたと言われる特殊な道具…水を操ったり、火を操ったり、その他諸々だ…相当なレア物なのだぞ…」
「それを食べようとしたんだ…」
「不味かったぞ」
ともかくこれで昼食…と言ってもほとんど夕方だったので夕食が終わった。外も暗くなってきて早く寝ようとのことでテントに入る。僕が立てたのもあって、4人入っても大丈夫だ。昨日の疲れもあってか、布団に入ったらすぐに寝てしまった。
夜中、突然目を覚ます。特に変わった様子は無いし、何の気配も感じなかったが隣に居たケルトさんが居ない。外からは焚き火の音が聞こえる。
「ケルトさん?」
「お、イリウスか。早く寝とけよ。明日も朝早いぞ」
恐らく見張りだろう。寝なくても良い身体とはいえ、ケルトさんも疲れてるだろう。
「ケルトさんは寝ないんですか?」
「朝方になったらトラと交代だ。外は俺が居るから平気だ。早く中で…」
座ってるケルトさんの横に座る。座ったままでも寝れないわけじゃない。
「ったく、しょうがねーやつだな」
「うわぁ!」
持ち上げられたかと思えば膝の上。木よりは座り心地が良い。僕は特に言葉を交わすこともなく、そのまま眠りについた。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「ここが例の…」
また別世界に移動したイリウス達。次の目的地は本題と言ってもいい、美術館だ。絵画の住人「ピカソ」が描いた絵が飾ってあるとされていて、もしかしたら衝突するかもしれない。
目取りの殺人鬼の協力者…何があっても許せません。絶対に捕まえてみせます!
次回「ーーキャンバスーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m