第109話 ーー忍者 後編ーー
「うぅ…ホコリっぽいです…素直に正面から行けば良いじゃないですか!」
「馬鹿!罠が仕掛けられてないと思ってるのか?お前みたいなドジは、正面から行って串刺しになるのが目に見えてる」
ムっとするが見えてない様子。
「てか何であの巻物が欲しいの?そんなに大事な物なの?」
「大事も大事だ。我ら忍の秘伝の巻物だからな。取り返さねばならんのだ」
「巻物って盗まれた物だったんだ…じゃあここの人達ってみんな悪者なの?」
「…それは違う。正確に悪者なのはここの長、政蔵だ。我々忍の技術が欲しく潜入してきたやつだ。あいにく顔が隠れている物で盗まれても見分けられなくてな」
「政蔵…日本の歴史に居そうな名前ですね…ていうか顔が隠れてるせいで逃げられるって…」
「そういえば俺の名を言ってなかったな。俺は服部だ。正真正銘の忍だ」
どうやら巻物とやらは政蔵と言う人に盗まれた物らしい。正義の味方をしている僕は、取り返すのに積極的に協力することにした。
一方その頃、
「あっちを探せ!」「いや、こっちだ!」「こっちに行ったかもしれん!」
「大変そうだな〜」
俺とトラとご主人様は騒がしい中取り残された。あの忍者が消えてさぞかし焦っているんだろう。ご主人様を縛っていた縄を解いていつ動こうか考えている。
「ケルト、分かっているのか?」
「そうですね〜。いくらあいつがトウメイ使ったとしても、匂いは完璧に消せてなかったんで分かってましたね」
「じゃあ何故行かなかった…」
「せっかくの旅行なんですから。あいつにも少し自由行動させてやりたいじゃないですか」
「おいおい…あの忍者に殺されでもしたら…」
「大丈夫ですよ。仲良く行動してそうですし。あいつも殺意があるようには見えませんでしたので。一応追いますか」
「そうしよう。巻物が取られるとまだ面倒そうだしの」
僕達は順調に進んでいっている。出口かと思ってマンホールみたいなやつから外に出ると、アスレチックが広がっていた。
「な、何これ…」
「おそらくこの城の設備だろう。何かしらのイベントにでも使うんじゃないのか」
「じゃあそこまで大変じゃないね。一般人が使えるくらいのや…」
「待て!」
僕が普通に行こうと思うと、服部に止められる。何かと思い時間を置くとアスレチックが音を立てながら変化を起こす。その結果…
「何この地獄絵図…」
さっきまで落ちても平気だった場所が火の海に。ジャンプで飛び移らなければいけない足場にはでかい槍が横断している。タイミングを掴まなきゃ串刺しだ。天井を渡らなきゃいけない場所には明らかに動き出すドリルがある。多分天井を掴んだら動き出す。その他モリモリの殺人アスレがある。
「これも政蔵の罠か!どうにか超えないといけんな。ここは俺に任せておけ。真似をすればお前も超えられるはずだ!」
服部は特殊な動きでアスレを乗り越えていく。回転したり飛んだりしていてとにかくすごかった。
「はぁはぁ…はっはっは!どうだ!今のを真似すればきっと…何でお前がここにいる?」
「浮いてきた。アスレチック無視できるから早く着いちゃったです」
「…そんなのがあるんだったら早く言え!」
頭を打たれて痛かった。それはそうとて罠は続いた。岩に追いかけられたり落とし穴に落ちそうになったりGがいっぱい居たり…。全部能力と神力でどうにか出来たから良いものの、普通だったら死んでいる。
「なんか…お前ってもしかして俺より強い?」
「分かんないです。でも強いかも?」
思ったより楽に超えちゃったから服部も拍子抜けしてる様子だ。
「あったぞ!あれが巻物だ!」
「あれが…丁寧にガラスで飾られてる…」
長い階段の上に飾られてある巻物がある。服部と僕はそこまで向かう。
「ついに…これを取り返せる…」
「こんな簡単なものかな〜…」
僕の警戒は案の定だった。
「な、なんだこの風は…ぐわぁ!」
「ちょちょ!僕軽いんだから!うわぁ!」
突然正面から強風が来て吹き飛ばされる。階段の下に逆戻りだ。僕は神力で、服部は自慢の動きで綺麗に着地する。何の風かと思って階段の上にいる影を見つめる。
「これは…風遁…忍の技だ」
「ってことはあそこにいるのって」
「そう、よく来たな。忍の里の住人よ」
この人が政蔵…白髪でおじいさんだ。でもそれなりの覇気は感じる。
「ナビ。念の為入口の方見張っててくれない?」
「仕方ないわね。随時伝えるわ」
僕はケルトさん達が来るかどうかをナビに監視してもらう。盗まれた物だとしたらちゃんと返さないと。
「貴様のせいで我々の秘伝を広められたら敵わん!それはもらうぞ!火遁!」
「無駄だ無駄だ。俺の方が修行を積んでおる。水遁!」
火と水が激しくぶつかり合う。火で水を蒸発させてたがすぐに限界がくる。
「ほれほれ、雷遁!」
「ぐああああ!!!!」
水と雷の合わせ技…感電しちゃうから範囲も広いし厄介な技だ。服部も感電して痺れている。
「ふはははは。忍の連中が送ってきた刺客がこんなやつだとはな!そんなんじゃこの巻物なんて…巻物…」
口調ややってることから悪者がこの人なんてこと分かった。だから僕はこうした。
「服部さん!これ、里の人達に渡してあげて。困ってるんでしょ?」
「い、いつの間に…」
「服部さんが気付かないくらい気配消せるんだよ!これぐらい朝飯前だよ!」
僕は気付かれない内に巻物を取ってきた。服部に渡すと嬉しそうに喜んでいた。盗まれた物なら返さなきゃダメだからね。
「貴様!どこの誰か知らんが、許すわけにはいかん!ここから出れると思うな!火遁、火柱!」
「歪め」
さっきと似たような炎だけど槍みたいに鋭く飛んできた。炎自体を歪めて分散させることにより防ぐ。
「な、なにぃ!?ならばこれはどうだ!水遁、荒波!」
「焼けろ!」
水が大きく波を立てる。範囲が広いしこれじゃあ歪めようがない。火力の高いビームを使って水を蒸発させて防ぐ。
「小癪な…挟んで押し潰してやる!風遁、両壁!」
「ぐぬぅ…壁!」
強い風が両方向から来て潰れそうになる。風とかは歪められないし、これなら有効だ。僕は神力で壁を作り風の影響を無くす。
「はぁはぁはぁ…なんと小癪な…」
「無駄ですよ!忍の技術とやらは僕には効果がないみたいです。悪者さんは素直に諦めてください!」
「す、すごいぞイリウス!お前やっぱり俺より強いじゃないか!」
「くそ…諦めてたまるか…」
「イリウス!ケルト達が来たみたいよ」
「分かった」
準備は整った。この悪者さんは裁くのが難しい。忍の里とやらに連れてけるわけじゃないし、取った証拠もない。でもこれなら多分平気だ。
「雷遁…神業!」
「助けてケルトさーん!!!!」
雷の龍が僕に到達する瞬間。僕の目の前には頼れる背中があった。
「おうおう、良い度胸してんなおい。俺のイリウスに手出すとは死にてぇみたいじゃねーか?」
「何だ貴様らは!」
「イリウス。一応確認だ。敵はあいつなんだな?」
「はい!あの人が巻物盗んでたんです!殺さない程度にボコしちゃって下さい!」
ケルトさん達が来てくれたことにより勝敗は明確。あのおじいさん死なないと良いけど…
「く、来るな!火遁!風遁!雷遁!水遁!」
「チッ!忍ってこんな弱いもんなのか?幻滅だぜ」
全ての攻撃を受けておきながら傷一つないケルトさん。おじいさんは絶望した顔で倒れてしまった。
「バレない内に早く行こ!」
「お、おう」
僕は服部を連れてもっと上に行く。城の構造上、1番上は空いているはずだ。外の景色は絶品だ。高いのもあってか、下の村がすごい小さい。
「こんな所に来てどういうつもりだ!」
「ほらほら!」
服部の腕を掴む。多分嫌な予感がしてるだろうな。
「いっくよー!」
「待て待て待て待て、俺は高所恐怖しょうわぁぁぁ!!」
神力を使って上から飛び出す。少しスピードを付けてたから風が気持ち良い。服部が涙ぐんでて面白かった。
丁度村と森の狭間くらいの所に降りて話す。
「はぁはぁ…殺す気か…」
「えっへへー。ごめんごめん!」
「はぁ…まぁ良い。ありがとうイリウス。お前のおかげで全部上手くいった」
「うん!僕もすっごく楽しい日になったから出会えて良かったよ!」
「ははは。一つ、教えてやろう。俺ら忍はな、あの巻物の為に戦争を起こす予定だったんだ」
「え?戦争!?」
「あぁ。でも、俺は誰も死なせたくない。だからこうやって自分で取ってきたんだ。でも、俺1人じゃ絶対に取り返せなかった。本当にありがとう。困ったことがあればいつでも頼るが良い。忍の里で歓迎する」
「うん!いつか遊び行くよ!」
「おい!あっちから声が聞こえるぞ!」
村の方から声が聞こえる。空を飛んでる時に見られたんだ。
「じゃあ、またいつか会おう!ドロン!」
服部は煙になって消える。僕でもどこに行ったか見えない。
「バイバイ!」
この声はきっと届いてるだろう。初めて会えた忍者が服部で良かった。
ーーーーーーーーーー次回予告ーーーーーーーーー
「僕も何かしたいです!」
イニシエ村で色々あったイリウス。夜にあった事で疲れが溜まっているが今日はキャンプだ。自分達で火おこしをしてテントを張らなければいけない。ケルトやトラが全てやってしまってイリウスのやることが…
キャンプの醍醐味って準備からだと思うのよね〜。何かしたくて堪らない気持ち…分かるかしら?
次回「ーーキャンプーー」
ちょっとでも先が気になる!おもしろい!と思いましたらブクマ、感想などしてもらうとモチベになりますm(__)m